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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年9月号

フォーラム2006

「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」概要

小野田吉純

○ハートビル法と交通バリアフリー法を統合・拡充した「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」が先般制定されましたが、その背景は以下のとおりです。

1 少子高齢化や人口減少の進展

わが国では、他の先進諸国に例を見ない急速な高齢化が進んでおり、2015年には国民の4人に1人が65歳以上の高齢者となる本格的な高齢社会を迎えます。また、少子化も同時進行し、かつて経験したことのない人口減少社会を迎えようとしています。こうした社会では、高齢者がさまざまな生き方を主体的に選択できるよう、自立支援のための施策などを進める必要があります。

2 ノーマライゼーションの普及

また、障がい者が障がいをもたない人と同じように、自分の意思で考え、決定し、社会のあらゆる活動に参加、参画できる(ノーマライゼーション)共生社会が求められており、障がい者が自らの能力を発揮し、自己実現できるように支援するための施策なども進める必要があります。

3 これまでの国土交通省の取り組み

このため、平成6年に「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律(ハートビル法)」が、また、平成12年に「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(交通バリアフリー法)」がそれぞれ制定され、建築物や公共施設、公共交通機関などにおいて、段差の解消や視覚障害者誘導用ブロックを設置するなど、バリアフリー化について着実に整備を進めてきました。

さらに、女性も男性も互いにその個性と能力を十分に発揮するための男女共同参画のための取り組みや、国際化が進む中で、ビジネス、観光などのさまざまな分野で外国人とわが国との関わりが深まってきていることも受けて、国土交通省では、「どこでも、だれでも、自由に、使いやすく」というユニバーサルデザインの考え方を踏まえた国土交通行政を推進するために、バリアフリー施策の指針となる「ユニバーサルデザイン政策大綱」を平成17年7月に取りまとめました。

4 公共交通機関や建築物等の一体的・連続的なバリアフリー化という課題

この政策大綱を検討する議論の過程の中で、「施設ごとに独立してバリアフリー化が進められており、連続したバリアフリー化が実現されていない」、「バリアフリー化が駅など旅客施設を中心とした生活圏にとどまっている」などの利用者の視点に立ったバリアフリー化が十分でない、また、心のバリアフリーや情報提供などのソフト面での対策が不十分であるなどの課題が上げられました。それらの課題を受けて、一体的・総合的なバリアフリー施策の推進という具体的な施策が、「ユニバーサルデザイン政策大綱」に位置付けられました。

そこで、本年は、交通バリアフリー法施行5年後の見直しの年にも当たることから、より総合的・一体的な法制度を構築し、さまざまな施策を総合的に講ずるために、ハートビル法と交通バリアフリー法を統合・拡充した「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律案」を先の国会に提出し、審議・成立を経て、平成18年6月21日に公布されました。なお、法の施行は、公布から6か月以内の予定です。

○続いて、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」の概要は、以下のとおりです。

1 基本方針の策定

主務大臣(国土交通大臣、国家公安委員会、総務大臣)は、移動等の円滑化を総合的かつ計画的に推進するため、移動等の円滑化の促進に関する基本方針(バリアフリー化の目標値、市町村が作成する基本構想の指針など)を定めることとしています。

2 移動等の円滑化のために施設管理者等が講ずべき措置

公共交通機関の旅客施設および車両、並びに一定の道路、路外駐車場、公園施設および建築物について、新設または改良時に、移動等の円滑化のために必要な一定のバリアフリー基準(移動等円滑化基準)に適合しなければならないこととするとともに、既存のこれらの施設についても、当該基準に適合させるために必要な措置を講ずるよう努めなければならないこととしています。

3 重点整備地区における移動等の円滑化に係る事業の重点的かつ一体的な実施

市町村は、移動等の円滑化を図ることが必要な一定の地区(駅周辺の地区だけでなく、高齢者・障がい者の方々が利用される施設(病院や福祉施設など)が集まった地区も対象に追加)について、基本方針に基づき、移動等の円滑化に係る事業の重点的かつ一体的な推進に関する基本構想を作成することができることとしています。

4 住民等の計画段階からの参加の促進を図るための措置

基本構想の作成の際、高齢者、障がい者等の計画段階からの参加の促進を図るため、作成に関する協議等を行うための協議会制度、高齢者、障がい者等が基本構想の作成を市町村に対し提案することができる制度等を設けることとしております。

現在、基本方針やバリアフリー基準(移動等円滑化基準)などの所要の規定について、高齢者、障がい者の方々をはじめとする国民の方々からのご意見をお聞きしながら鋭意検討を進めており、法の施行に向けて法制度の整備を行ってまいります。

(おのだよしずみ 国土交通省総合政策局政策課)


高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(概要)

高齢者、障害者等の円滑な移動及び建築物等の施設の円滑な利用の確保に関する施策を総合的に推進するため、主務大臣による基本方針並びに旅客施設、建築物等の構造及び設備の基準の策定のほか、市町村が定める重点整備地区において、高齢者、障害者等の計画段階からの参加を得て、旅客施設、建築物等及びこれらの間の経路の一体的な整備を推進するための措置等を定める。

○基本方針の策定

○主務大臣は、移動等の円滑化の促進に関する基本方針を策定

○移動等の円滑化のために施設管理者等が講ずべき措置 ※下線部分は、新規追加

旅客施設及び車両等
(福祉タクシーの基準を追加)
道路 路外駐車場 都市公園 建築物
(既存建築物の基準適合努力義務を追加)

○これらの施設について、新設又は改良時の移動等円滑化基準への適合義務

○既存のこれらの施設について、基準適合の努力義務 等

○重点整備地区における移動等の円滑化に係る事業の重点的かつ一体的な実施

図 重点整備地区における移動等の円滑化のイメージ拡大図・テキスト

○市町村は、高齢者、障害者等が生活上利用する施設を含む地区について、基本構想を作成

○公共交通事業者、道路管理者、路外駐車場管理者、公園管理者、建築物の所有者、公安委員会は、基本構想に基づき移動等の円滑化のための特定事業を実施

○重点整備地区内の駅、駅前ビル等、複数管理者が関係する経路についての協定制度 等

○住民等の計画段階からの参加の促進を図るための措置

○基本構想策定時の協議会制度の法定化

○住民等からの基本構想の作成提案制度を創設 等