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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年9月号

列島縦断ネットワーキング【高知】

NPO法人脳外傷友の会高知「青い空」の活動

片岡冶貞

一人の大学生の言葉から…

平成14年4月に交通事故に遭い頭部外傷を負った大学生の「他にも僕のような人が高知県にいるの?」という言葉で、入院していた病院と高知市社会福祉センター職員の協力で平成15年3月15日(土)、高知県で初めて「高次脳機能障害」をもつ当事者・家族の集まりを高知市保健福祉センターで開きました。その後、毎月1回第3土曜日に、高知市障害者福祉センターでミーティングを行っていくうちに、同じ障害をもつ者及び家族がそれぞれの悩みを語り合える場、相談できる場、安心して一息つける場となりました。平成15年8月には会報「ブルースカイ」を創刊し、現在まで毎月発行し、情報の共有と啓発に努めています。

「高次脳機能障害」については、平成13年度から始まった「高次脳機能障害支援モデル事業」で平成16年3月に診断基準(国立身体障害者リハビリテーションセンターHP等参照)が示されました。交通事故や脳卒中などにより脳を損傷した場合の後遺症として、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害を有し、日常生活及び社会生活が困難になる障害です。脳卒中の場合は脳の特定部位が損傷されますが、脳外傷の場合は広範囲に脳の機能不全を起こしていることがあります。

この障害は一見して分からないことと、一人ひとり症状が違うため説明し難いのですが、記憶の面では障害を負う前に体験し取得している事柄は比較的容易にこなすことがでますが、新しい(初めての)ことを覚えることができないといったことが起こります。大学在学中に交通事故により受傷した当事者は、大学中退後に専門学校を受験し見事に合格したのですが、新しい授業の内容を覚えられないということで悩んでいます。その他にも課題に集中できる時間が短くなっていたり自分の価値観だけで話をしたり、特に家族の話には耳を貸さないなどの行動が見られます。

NPO「青い空」の設立

病院を退院した後ほとんどの場合、家族のだれかが24時間見守りながらの生活を強いられます。それも母親や妻の場合がほとんどです。そして家族の加齢とともに家族は将来への不安が増してきます。そんな家族がミーティングを重ねるうちに、当事者・家族がいつでも集える場所、安心して日中過ごせる場所、就労に向けた訓練ができる場所がほしい、将来1人になっても生活していける場所がほしい、等の願いが話し合われるようになりました。想いを共有できるメンバーも固まり、NPO法人での小規模作業所運営をめざし、平成17年6月にNPO法人脳外傷友の会高知「青い空」設立総会を開催し、17年中のNPO法人格の取得と18年度の小規模作業所開所に向けて準備を始めました。

作業所「青い空」のオープン

17年10月にNPO法人として認証された後、作業所の条件に合う物件が見つかり、12月14日作業所「青い空」を仮オープンすることができました。また、今年度4月からは高知市と高知県の補助を受けられるようになり、何とか作業所を続けていける目途が立ちました。

この作業所は小さなコンビニを改装し、安全野菜の直販とお惣菜を主とした店をみんなでやっていこうと計画したのですが、有機無農薬野菜はほとんどの場合、契約栽培のため入手が困難でした。それでもメンバーの知人等の紹介で、生産者の顔が見える安全な野菜を委託販売させてくださる方が出てきました。また、こだわり醤油・味噌等安全志向の調味料や食品、福祉施設で生産されている卵(土佐ジローの卵。本当にすごい卵です)やトマト、しいたけ、農家の直販グループのメンバーさん等の理解を得られ協力していただけることになりました。そして、飲食店の営業許可を取得し、利用するメンバーの昼食と同じメニューのお惣菜の販売を始めました。

作業所は、住宅街で車の通行量の多いところにあり、平日の午前9時から午後7時まで営業しています。メンバーの出勤時間はまちまちで、家族の仕事の都合に合わせ、午前7時頃から私の自宅に来て、盲学校に通う私の息子を一緒に学校まで送りながら出勤する人、自転車で30分以上かけて出勤する人もいます。

毎日の作業は店内の掃除、9時の開店に合わせて作業所のすぐ近くの農家の方が届けてくれるネギや季節の野菜の下ごしらえと計量、その他仕入れ野菜の計量、袋詰め、商品の陳列です。10時頃の休憩後は、レジ係りとフードパックの作業に分かれます。

工賃のアップをめざす

レジではお客様と応対することで、コミュニケーションの技術を高め、フードパックの作業では、集中力、注意力を養うことができるよう取り組んでいます。

当初レジ係りでは、旧式のレジ(すべて手打ち)のため金額の打ち間違いや、レジを通した商品と通していない商品が分からなくなるなどのトラブルが続出していました。でもすべての商品に値札を付けることや、商品を区別するためレジを間に挟み商品を移動させることで、何とか間違いを少なくする工夫をしてきました。初めはお客様に迷惑をかけながらの営業でしたが、この障害を理解し黙って待っていてくれる馴染みのお客様もできてきました。

フードパックの作業は、本体と蓋を5枚1組にする作業です。本体を5枚、蓋を5枚数えデジタル秤で重さを測って枚数のチェックをする。チェックが終わるとマークを合わせ蓋をしてラベルを貼り、ビニール袋に入れて決められた閉じ方で封をします。最後にもう一度マーク、ラベル、閉じ方、重さのチェックをして完成、という作業です。1人当たり1日(6時間)150組をこなすのが精一杯で、工賃は1組2円という低さですが、チェックをしなければならないことが多く、その一つ一つに長時間注意を向けて完成させることは、高次脳機能障害をもつ者には比較的よいリハビリになっているのではないかと思っています(残念ながら他に条件のよい仕事を見つけられないのが実情です)。

作業所を利用しているメンバーの賃金は申し訳ないのですが、1日200円です。何とか高熱水費は稼げるだろうと甘い考えで始めてみたものの、商売はそんなに甘いものではありませんでした。17年度はNPOの会費で穴埋めし、今年度は前述のとおり県・市からの補助金頼りの運営です。今更ながら商売の難しさを感じ、商店街の意味も少し分かったところです。とりあえず、当事者・家族が集える場、安心して日中過ごせる場、家族が働くことができる条件は確保できたと自負していますが、今後は、作業所に来ることができないメンバーが出てくることができるような環境をつくる必要があります。

また、障害者自立支援法への移行についても日中活動の場を確保する意味から、地域活動支援センター(地域生活支援事業)・就労継続支援(非雇用型)・自立訓練(機能訓練・生活訓練)ができる事業所をめざしたいと考えていますが、現在のメンバーだけでは必要な人数に達していないのが現状です。そこが現在の悩みです。

(かたおかはるさだ NPO法人脳外傷友の会高知「青い空」理事長)

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TEL/FAX 088―803―4100
Eメール npo-aoisora@snow.ocn.ne.jp