音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年10月号

障害者自立支援法と相談支援活動

平野方紹

福祉援助では「相談支援」が重要だ、あまりにも当たり前のことです。しかし、この当たり前のことをきちんと説明するとなるとなかなか難しいものです。「話を聞いて福祉の手続きをすること」だけではありませんし、ましてやカウンセリングとも違います。福祉とは何か、障害とは何か、こうした当たり前のことほど実は説明が難しいように、この「相談支援」も改めて考えると明確な答えは出てきません。そこで、今回はまず、「相談支援とは何か」を制度面から検討したうえで、今月から本格実施された自立支援法で、その相談支援がどのように変わるのか、を考察します。そして、最後に、これからの相談支援のあり方について、社会システムという視点から問題提起したいと思います。

1 社会福祉法制度における「相談支援」を見ると

相談支援といえば、福祉事務所や児童相談所等の公的機関のケースワーカー、病院のソーシャルワーカーや社会福祉施設の生活相談員・生活指導員といった、いわゆるソーシャルワーカーの業務の代名詞とも言えるものです。とはいえ、「相談活動」そのものは世の中にいっぱいあります。税金相談、遺産・相続相談から進路相談、人生相談までありとあらゆることに相談の窓口があるのに、なぜ「相談支援」がソーシャルワークの専売特許のようになっているのでしょうか。そこでまず「相談支援」とは何かを、今日の社会福祉法制度から考えてみます。

(1)障害者福祉法における相談支援と市町村の責務

障害者基本法は、第二十条で障害者に関する相談業務が適切に行われ、広く利用されることを求めており、第十五条では職業相談についても言及しています。さらに身体障害者福祉法には「身体障害者の相談に応じ、その生活の実情、環境等を調査し、更生援護の必要の有無及びその種類を判断し、本人に対して、直接に、又は間接に、社会的更生の方途を指導すること並びにこれに付随する業務を行うこと」(身体障害者福祉法第九条第三項第三号)と市町村の行うべき業務として規定しています。

知的障害者福祉法にもほぼ同様の規定があり、精神保健及び精神障害者福祉法でも、市町村が精神障害者やその家族の相談に応じ、必要な指導を行うことが規定されていますので、それぞれの障害者福祉法での「相談援助」はほぼ共通しているといえます。

これは障害者自立支援法にも継承されており、やはり市町村の責務として「障害者等の福祉に関し、必要な情報の提供を行い、並びに相談に応じ、必要な調査及び指導を行い、並びに、これらに付随する業務を行うこと」(障害者自立支援法第二条第一項第二号)が規定されています。

(2)社会福祉士と「相談援助」

では、相談支援は公的機関だけの役割や機能かといえば必ずしもそうではありません。

ソーシャルワーカーの資格制度である社会福祉士制度を見ると、その根拠となる社会福祉士及び介護福祉士法では、相談支援を「相談援助」という用語を用いて「専門的知識及び技術をもって、身体上若しくは精神上の障害があること又は環境上の理由により日常生活を営むのに支障がある者の相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと」(社会福祉士及び介護福祉士法第二条第一項)と定義しており、だれがその役割を担うかではなく、どのような活動をするのかに着目しています。つまり、心身にハンディキャップがあったり、家庭環境や社会環境により日常生活をおくることが困難な者を対象として、自立した生活を実現するために行う援助が「相談援助」であり、その一環として「相談」があることとしています。

相談支援における公的機関の役割は今後も重要ですが、障害者の自立を支援するという観点からすれば、さまざまな相談支援が、障害者の抱える問題やニーズに対応して展開されることが求められます。

2 障害者自立支援法による相談支援のあり方の転換

相談支援の機能は、一般的には三つのプロセスで構成されると考えられます(図1参照)。第一は、当事者が、自分の抱える問題やニーズを意識し、問題解決やニーズ充足に意欲を持つことです。近年のストレングス視点(strengths perspective)やエンパワーメント(empowerment)の取り組みもこの点に着目したものと言えます。重要なポイントは、1.当事者が問題状態・ニーズ未充足状態にあること、2.問題を解決したりニーズを充足する手段があり、それを利用できること、3.その手段を利用して状況を改善できること、そして改善する力が当事者にあること、これらを当事者が自覚することです。これが最初のプロセスになります。

図1 相談支援のプロセス
図1 相談支援のプロセス拡大図・テキスト

第二は、問題解決やニーズ充足へ向けての効果的・効率的解決策を立て、それを具体化するために必要な機関や施設等にアクセスできるようにすることです。このプロセスでは、よく情報提供が重視されますが、当事者が問題やニーズを自覚していない状態では、必要な情報をキャッチすることができません。

第三は、問題解決やニーズ充足の到達点を当事者が自己のものとし、対応の仕方を身につけることです。これにより今後、同じ問題状況に陥ってもパニック状態にならずに済みますし、先の展望を持つことで、前向きに取り組む姿勢が引き出せます。

このプロセスは、問題解決の最終プロセスであるとともに、予防的役割も持つと考えられます。相談支援の基本的機能をこのように整理したうえで、相談支援がどのように変化していったかを考えます。

(1)措置から契約への流れの中で

措置制度では、当事者が問題状態・ニーズ未充足状態にあることを判断するのは行政機関であり、その対応の方策、サービス提供者も行政機関が決定するシステムでしたので、相談支援はもっぱら第一のプロセスが重視されました。しかし、契約制度では、利用者の自己選択・自己決定を尊重するためには、第二のプロセスが大切な役割を担うこととなりました。どんなサービスを利用するのかを、利用者がしっかりと決めることが相談支援の重要なポイントとなってきました。

(2)支援費制度から障害者自立支援法へ

支援費制度の支給申請・支給決定の考え方は、障害者が必要なニーズを具体的に示し、そのニーズの妥当性を市町村が認定することを基本としています。ですから、身体介護でヘルパーを週に○○時間利用したい、生活訓練のため知的障害者通所更生施設を利用したい、そんなニーズを充足するためのサービスの質と量を申請することが原則でした。そこでの相談支援は、まず障害者がどんな生活を望み、その実現にはどんなサービスが必要なのか、それを具体化する方策を示すことが求められていました。

一方、障害者自立支援法では、まず障害程度区分認定から始まります。制度利用は、ニーズではなく、制度の公平性・公正性を担保する基準に合致することが求められ、具体的なサービスはその基準を踏まえて考えられます。ここでの相談支援では、障害者が制度利用へのモチベーション(動機)を持つよう援助するだけでなく、自分の障害程度区分について理解する(受容する)こと、場合によっては、不服申し立てや制度そのものの改善を求めるようなソーシャルアクションへの支援も必要となります。そして、次のステップである個別プログラム作成では、障害程度区分を踏まえて設定された条件の中で効果的・効率的サービス利用が実現できるよう援助することとなります。相談支援のスタイルは、支援費制度がニーズ先行型であったのに対し、障害者自立支援法ではやりくり型に、その基調が転換していることに注意する必要があるでしょう。

3 これからの相談支援はどうあるべきか

措置制度から支援費制度、そして障害者自立支援法へと制度が推移しても、相談支援の重要性はますます増大しています。各障害者福祉法が、相談支援について法律に明記しているのもその表れです。そして、相談支援の機能は変化しており、その担い手も市町村だけではなく、多様な担い手によることが期待されています。それでは、今後相談支援はどうなるのでしょうか。そこで着目したいのが、相談支援をサービス利用の視点だけで考えるのではなく、社会システムとして考えることです。図2は、イギリスの社会倫理学者ロールズ(Rawls,J)の正義原理を図示したものです。ロールズは社会が存立するには必要な秩序(それを正義と考えます)があり、それを実現することを社会の課題としてとらえました。

図2 ロールズの正義原理
図2 ロールズの正義原理拡大図・テキスト
出典(塩野谷祐一/鈴村興太郎/後藤玲子編『公共哲学叢書5福祉の公共哲学』東京大学出版会、2004、P43)

意外ですが、ロールズは人により所得や社会的地位などの格差があることを認めていますが、その前提には「最も不遇な人々」も「最も恵まれた人々」にも共通する社会基盤が保障されることをあげており、その社会基盤こそが「正義」であるといえます。どんな人でも基本的諸自由(基本的人権)や公正な機会(機会の平等)が保障されるとともに、ロールズは「自尊の社会的基礎」を「正義」として提唱しています。人権や機会が保障されたとしても、自分が価値ある存在であり、自分の人生をつくる主体であり、その力と可能性を持っていることを自覚できなければ、権利を享受することも、機会を活用することもできません。

「自尊の社会的基礎」を福祉的に理解すれば、当事者が自己の力と未来に確信を持てることであり、それを実現する社会的システムであると考えられます。

格差が拡大し、勝ち組と負け組の峻別が厳しくなる今日の社会状況の中、その矛盾が弱い立場にある障害者に厳しく当たっているともいえます。ともすれば、自分を低く評価し、可能性や主体性を見出せず、あきらめや開き直りに走るケースも少なくありません。

相談支援を、サービス利用のためのツールではなく、社会における「自尊の社会的基礎」を担うものとしてとらえ直すことも求められているのではないでしょうか。

(ひらのまさあき 日本社会事業大学社会福祉学部)