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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年10月号

フォーラム2006

ヨーロッパの福祉サービスにおける障害の定義

日本社会事業大学佐藤ゼミ

分析の対象

本報告は、EU(ヨーロッパ連合)の内閣にあたるEC(欧州委員会、European Commission)が、雇用・社会問題局長名で2003年に発行した、「ヨーロッパにおける障害の定義:比較分析」(Definitions of Disability in Europe:A Comparative Analysis)に基づいている(インターネットで閲覧可)。対象国は、オーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、イギリスの15か国である。

この研究の目的は、EUとして障害の法的定義の共通点や相違点を理解しようということで、定義・認定の統一をめざすものではないと断っている。

本報告はその中の「付属資料3:日常生活活動の支援と自立生活の推進の分野での定義」の部分のみを翻訳し、分析したものである。この分野は、日本の表現では「障害者福祉サービス」に相当する。ただし、ホームヘルプや移動介護などを中心としつつも、移動手当、住宅改造手当、その他「障害」に伴う特別な出費(介護や特別食の必要なども含め)を補償する各種の手当ても含まれている。

各国からの報告は代表的なもの一つを紹介している場合や、いくつかを紹介している場合があり、全体で25であった(名称程度の紹介は除外)。この中から、サービスの種類などについては詳しくても障害の定義や認定について詳しくないもの、特にだれがどんな基準で障害の認定や受給資格の確定を行っているのか不明なものは除いた。このため、結果的に21の福祉施策を取り上げることになった。

分析の方法

前述の21の障害者福祉施策について、「国・制度」「制度の内容」「一般的定義」「評価・決定職員」「基準と評価尺度」の項目について比較した。しかし「一般的定義」に書かれていることは、全体的に大きな違いがなかった。そこで「評価・決定職員」(だれが評価・判定するか)、「基準と評価尺度」(どんな基準で、どの程度厳密に)という2つの点で区分した。前者は医療職(医師など)、ソーシャルワーカー(SW)、行政職、学際チームという4つの違いがみられ、後者は厳密なものと柔軟なものとに区分した。活用したデータそのものが必ずしも明確に述べておらず、私たちの区分もやや主観的なものとなったと言える。

障害評価(受給資格認定方式)の7つのタイプ

「評価・決定職員」で4種類、「基準と評価尺度」で2種類に区分されたので、理論的には8タイプが考えられるが、実際には該当制度のないものもあったので、7つのタイプ(表参照、A~Gタイプ)となった。全体で21の制度のうち、評価・判定の中心が医療職であるのは11、SWは3、行政職は5、学際チームは2であった。「厳密評価」は8、「柔軟評価」は13であった。

表 15か国21の障害者福祉制度の障害(受給資格)評価のタイプ

  基準と評価尺度
厳密 柔軟
評価・決定職員 医療職 Aタイプ 6制度
■ベルギー・統合手当
スペイン・年金の介護加算
△ドイツ・介護保険
イタリア・付き添い手当
■オーストラリア・介護手当
ギリシャ・介護手当
Bタイプ 5制度
△オランダ・WVG
△デンマーク・LSS
■アイルランド・移動手当
■アイルランド・介護者給付
◎ノルウェー・SAA
ソーシャルワーカー   Cタイプ 3制度
△フィンランド・障害者サービス提供法
△スウェーデン・LSS
◎スウェーデン・社会サービス法
行政職 Dタイプ 1制度
■イギリス・DLA
Eタイプ 4制度
■アイルランド・CAA
■フランス・ADPA
■スウェーデン・障害者手当
ポルトガル・介護給付
学際チーム Fタイプ 1制度
スペイン・生活保護の介護加算
Gタイプ 1制度
■ベルギー・DP

下線部は南ヨーロッパ、その他は西・北ヨーロッパ。◎現物給付 △現物または現金給付 ■現金給付

南ヨーロッパのスペイン、イタリア、ギリシャ、ポルトガルの制度は5つで、そのうち「柔軟評価」はポルトガル・介護給付のみで後はすべて「厳密評価」であった。西・北ヨーロッパの16制度は、「厳密評価」は4、「柔軟評価」は12であった。明らかに「南」に厳密が多い。

現金給付か現物給付かという面で見ると、全体で14が現金給付、2が現物給付、両方あり(たとえば住宅改造をやってもらえることもあるし、自分で行ってその費用を後で給付してもらうこともできる、という場合と、1制度の中のメニューによって現物と現金に分かれている場合がある)が5であった。日本の感覚からは、このように多くの福祉サービスが、現金給付の○○手当、○○加算の形でなされているのは驚きである。なお、障害の定義・認定に関する調査なので、支給基準が比較的明確な手当系のサービスが選ばれたことも考えられる。

「柔軟評価」と「厳密評価」

「厳密評価」の8制度では、ほとんどが医師によって、かつ詳しい基準に沿って評価され、必要とされる介護の「時間」で判断したり、障害の程度を%で表したりすることが多い。障害の定義が機能的・解剖学的な方向に向かっているように思われる。

「柔軟評価」の13制度では、定義もなく制度の目的に沿ってサービスの必要の有無をSWが判断するスウェーデン・社会サービス法のようなものや、「ガイダンス事項はきわめて少なく、広義で、一般的。市町村の専門職員の裁量に任せる」(ノルウェー・SAA=社会サービス法による Personal Assistance 制度)というものも含まれる。

Bタイプ(医療職による柔軟評価)ではAタイプ(医療職による厳密評価)と異なり、評価者には医師以外も含まれ、看護やSWを含む専門職であればよいとしている制度が多い。

BタイプのオランダWVG(住宅改造・移動支援)の例では、「基準と評価尺度」は「地方自治体協会作成のガイドに書かれている判定要綱を使う自治体が多い(独自の基準のところもある)。この要綱には、医学的診断、機能障害、能力障害、ハンディキャップなどの項目がある」とある。

Cタイプ(SWによる柔軟評価)のフィンランド障害者サービス提供法の例では、「一般的定義」として「障害者とは機能障害または病気によって長期にわたり日常生活をするうえで特別な困難を持つ人のこと」とされ、この一般的な定義に続いて、サービスごとに、たとえば「ここでの重度障害者とは、移動に特別の困難のある人で、その機能障害または病気により過度の困難を伴わずに公共の交通機関を使用することはできない人である」(移動サービス)などと法律が規定している。それに該当するかどうかはSWが判断する。その際、判例がガイド役になっているという。

おわりに

いくつか参考になる重要な点が浮かび上がってきた。

第一に、あらかじめ手帳制度で(つまり原因疾患や機能障害の種類・程度で)「入り口規制」を設けている国は、少なくともこれらEU15か国にはなさそうであるということである。法律の目的に従って、つまり、ニーズで利用対象者を定義することが一般的である。

第二に、障害福祉サービスの必要度を「心身の状況」を基礎として、障害程度区分で示そうという国も例外的である。類似のものは、アルツハイマー病=100%障害などと診断名で障害程度を決めるイタリア・付き添い手当と「障害率評価」を用いるギリシャ・介護手当くらいしかなく、アセスメントツールを使う場合でもADLを直接評価するか、ADLや移動・住宅改造などへの支援ニーズを評価する。日本でも2003年度からの支援費制度では「支援の必要度」を評価する障害程度区分を採用していたが、障害者自立支援法では「心身の状況」に後退した。

第三に、日本では専門職や自治体の裁量がほとんど認められない制度となっている。また障害者自身も申請手続きをするだけで、自己のニーズを申告することもない。無駄をなくすことはもちろん必要だが、もう少し本人や専門職・自治体を信用し、ニーズに対応する支給の仕組みを開発すべきではないだろうか。社会福祉専門職も、ニーズ評価の仕組みのあり方と、そこにおける専門職や障害当事者の役割について、積極的な発言をすべきではないかと考える。

(増田有佳里、浅井万梨子、五十嵐由貴、海老沼良晃、鈴木善博、張悦、舟津千鶴、佐藤久夫)