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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年10月号

列島縦断ネットワーキング【山梨】

「やまなし障害者企業立ち上げプロジェクト」への取り組みについて

福本康之

1 はじめに

山梨県では、平成18年4月1日から施行された障害者自立支援法を踏まえ、これまで以上に障害をもつ方の雇用や就労の支援に取り組んでいくため、本事業を含め、福祉的就労の場の確保や一般企業への就労に向けた支援など、当課をはじめ商工労働部職業能力開発課などにおいて、新規・継続を合わせ計40事業を実施しております。

この中の一つの事業として、障害をもつ人が中心となり、活(い)き活きと働けて経済的にも自立し、社会貢献ができる、魅力ある一般就労企業を立ち上げる取り組みを支援するため、平成18年度からの新規事業として「やまなし障害者企業立ち上げプロジェクト」を実施しています。

障害をもつ方について、その障害の如何に関わらず、持てる力を最大限に発揮し、生きがいを持って働くことができる環境づくりは非常に重要であります。しかし、本県においても一般就労企業に就職したくてもその想いを叶えることができない人たちの話をさまざまな場面で聴いてまいりました。この状況をどのようにしたら変えていくことができるか、障害当事者の方々やその保護者、障害当事者団体等との対話を通じて得られた一つの答えとして、「障害をもつ方が主体となって運営される企業の立ち上げ支援」を行政が行うという、「逆転の発想」の事業を実施することとしました。正直なところ、現在の経済環境下にあって健常者であっても新たに企業を立ち上げることが厳しい状況にあるなか、障害をもつ方が主体となって起業を行うことは、非常に難しいことが容易に想定されます。

本事業の実現に当たっては、数多くの議論が繰り返され、果たして事業が成立するのか庁内においても疑問視する声があったことも事実です。しかし、事業の立ち上げに際して、障害者を多数雇用している他県の先進事例を実際に視察するなかで、私どもが想像していた以上に障害をもつ方が活き活きと企業の主戦力として働いている姿を目の当たりにし、本事業に取り組む担当者に大きな自信と期待を与えてくれました。

2 事業の概要について

本事業については、平成18年度から20年度までの3か年継続事業として、大きく分けて「県民等への啓発(18年度)」「企業立ち上げ支援チームの選考と障害者起業塾による企業経営の実務等の研修(18年度)」「企業(法人)立ち上げに対するアドバイザー派遣と初期投資の一部助成(19~20年度)」の三つのステージで展開する予定としています(図1)。

図1 やまなし障害者企業立ち上げプロジェクト
図1 やまなし障害者企業立ち上げプロジェクト拡大図・テキスト

まず、障害当事者をはじめ、県民の皆さんに本事業の主旨の普及啓発を行うため、「啓発セミナー」を実施しました。この中では、実際に障害者を多数雇用している企業のトップ等を講師とし、「障害者が主役の企業を立ち上げる秘訣(ひけつ)」と題し、講演をいただきました。この中で、障害をもつ人が自らの障害特性を活かし、障害当事者の視点でなくては気がつかないことをビジネスチャンスとしてとらえ、健常者の立場にも立ったサービスを提供するという新たなビジネススタイルの提案等もあり、これまで本県の障害者雇用の現場で常識と見られてきた、「補助的な立場での就労」ではなく、障害をもつ方が中心となって運営する企業の存在を大きくアピールすることができました。

続いて、6月から実際に企業の立ち上げを支援するチームの募集を行ったところですが、前記の主旨をより明確にするため、応募条件として、チームの構成人数を5人以上とし、このうちの過半数については、障害者手帳をお持ちの方を対象としました。さらに障害の内容については、障害者自立支援法で、これまでの身体・知的障害に新たに精神障害が加わったことから、これら三障害のすべてを応募の対象としました。さらに、事業の実施テーマについても、募集チーム数5に対して、1チームについては指定テーマとして、本県内の授産製品等の共同開発・販売会社とし、残る4チームについては、事業テーマについても公募する形としました。

公募開始後、このような新たな事業に応募してくるチームが果たしてあるのか、心配をしていたところですが、各方面に積極的に働きかけた結果、幸いにも前記三障害をもつ方をメンバーとする8チームの応募があり、去る8月18日に、日本経団連障害者雇用アドバイザーの西嶋美那子さんを委員長とする審査会を実施し、支援を行う5チームの決定を行うことができました。

この審査会の実施にあたっては、次の3点に留意しました。1.チームの事業にかける想い、2.資金面から見た事業実現可能性の有無、3.他の障害当事者等への波及効果です。審査会においては、各チームが今後実施していきたい事業テーマなどについてプレゼンテーションを行っていただきましたが、特に1の事業にかける想いの部分について、応募8チームそれぞれから、就労に対する願いと、働くことによって社会に貢献をしていきたい、という強い意志を感じとることができました。

3 支援を決定した5チームの事業概要と今後の事業の展望について

今回、支援を決定した5チームの事業概要については、1.肢体に障害をもつホームページ作りの達人の方等が県内授産製品の共同販売会社を設立するもの、2.廃家電リサイクル業を通じて精神障害者等のグループ就労をめざすもの、3.市街地の商店街にコーヒーを淹(い)れる達人の知的障害者等がカフェをつくるもの、4.温泉旅館で提供される食事に添える「妻もの」などの農産加工を行うもの、5.中途失明の方がリハビリの過程で体験した大豆作りの経験を活かし、味噌の製造販売を行うもの、とそれぞれ自らの企業の立ち上げについて強い期待を抱いています。

そんな彼らの想いを実現するために、本事業では、本県の障害当事者団体の取りまとめを行っている社会福祉法人山梨県障害者福祉協会に民間企業出身で豊富な経験を持つ専任の支援スタッフを採用することにしました。そして、この9月から約半年間をかけ、起業家支援に豊富な経験を有する中小企業診断士をメイン講師として、企業経営の実務研修などを行う「障害者起業塾」を開催する中で、来年度中の企業(法人)立ち上げをめざし、県をはじめ、地元市町村行政機関及び商工会等とも連携を取りながら支援を行ってまいりたいと考えております。

本事業を開始して約半年が経過しようとしていますが、これまで現実の障害者の雇用という課題に対して、保護的な見方はあったものの、能動的な見方がそれほどなされてこなかったことを担当者は強く感じています。そして、このことは今回、本事業に参画してくれた障害をもつ方々それぞれも同様に感じていることがわかりました。

本事業については、これまでの行政の障害者福祉施策にはない、障害者自ら「打って出る」という新たな分野への進出となるかと思います。今後、支援を行う5チームそれぞれの想いを実現することで、本事業が全国のモデルとなり、障害者雇用の支援の輪が拡がることを願ってやみません。

(ふくもとやすゆき 山梨県福祉保健部障害福祉課副主査)