音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年12月号

人権を重んじる教育の大切さ
―当事者として―

平井誠一

機能訓練が主だった教育

私は今年で53歳になりました。私が受けてきた教育は養護学校義務化以前の教育で、小学生時代は施設内学級で普通学校の分校ということで教育を受けてきました。私が主に教育の中でやってきたことは機能訓練であり、歩けなかったので歩くことが目標にされていました。そのため、1日の授業のうち3時間位は機能訓練にあてられていました。

養護学校が出来始めたのは私が中学生になった頃でした。その頃言われていたことは、優等生の障害者が養護学校に行けるのだと。私は中学生の頃に養護学校に移り、その養護学校では男子は木工科、女子は被服科となっていました。木工科では机や椅子を作ったり、時には園芸をやったりといろいろありましたが、ここでも機能回復訓練というものが教育の中にかなりの部分を占めていたと思います。言語訓練や機能訓練というものが教育としてあったのです。私の行っていた養護学校では、この学校にいては就職ができないという理由で、先輩や同級生の多くは普通学校へ転校していきました。

当時の養護学校の課題

障害者と健常者が分けられて教育をされてきたために就職、さらには職場においてなかなか健常者との関係性がつくれない状態にあったと思います。また職業というと、木工科と被服科という学科だけでは障害者が働けることにつながらなかったということも言えると思います。

また養護学校卒業生に対する評価が低く、社会や健常者との関係づくりや仕事をこなすことに対する評価の低さ等が言われていました。さらには障害に対する理解がなく、障害=重いという一言で片付けられてしまう一面もありました。

現在の養護学校生及び卒業生から感じること

今の養護学校生及び卒業生の実習や自立・就職相談で来る若い障害者に感じることとして、一つは現実離れしていると思います。知識や情報はいっぱい持っているけれど、現実と向かい合おうとしない、現実を変えようとしない。さらにはやってもらう・してもらうのが当たり前であり、コミュニケーションは教師、または施設の職員を通してしか障害者仲間ともとれないという現状を見た時に、何か今の養護学校教育というものに危機感を感じざるを得ません。

また、いろいろな養護学校に足を運ぶ中で感じるのは、特別支援教育というものが言われていますが、学校現場ではほとんど分かっていないような気がします。さらにはある養護学校では生徒数が増加している傾向を見ますと、今特別支援教育の対象にされている人たちが入ってきているのだとは思いますが、逆に言えば、普通学校における教育そのものが教育とは何かを問われていると思います。

確かに、特別支援教育の対象の人たちはある面では特別な支援というものが必要なのかもしれませんが、それを普通学校から取り出して養護学校でやらなければいけないということに疑問を感じています。

今の教育に対しての疑問

近年、詰め込み教育批判の中でゆとり教育というものが打ち出されましたが、今そのゆとり教育も問題にされ、さらには子ども、教師も含め、自殺者や精神的に悩みを持つような学校に変貌していっていることを目の当たりにした時に、単なる学力低下の問題として今の学校教育を片付けていいのかということを思います。

今年から障害者自立支援法が始まりましたが、ここで言われている自立、そして就労支援というものを考えた場合、今の養護学校教育の限界と、その先にある大人になってからの生活というものを考えた時に、必ずしも障害者が就職して自立していけるような教育体制になっているとは言えません。

今一番思うことは、教育とは何なのかということです。周りが受けさせようとする教育と本人が受けたいと思う教育の内容にズレがあるような気がします。昔と比べて今は情報を得る手段が多く、「読み書きそろばん」と言われていた頃と比べると、教わらないといけないものは少なくなったと思います。

たとえば文字などは、パソコンやインターネットを通して覚える人も多いと思いますし、計算といっても買い物に行けばほとんど自動的に計算され、レジでレシートをもらって確認するという形の物が多くなっています。必然性からいくと、今の教育を受けるということを考えた時に絶対的なものとしてはないような気がします。その反面、人権というものが非常に薄くなっていると思います。人、仲間、痛み、いたわりというものがすごく抜け落ちてきているように思います。

特別支援教育・障害児教育に期待すること

1つは普通学校から取り出して特別な支援を行うのではなく、みんなの中で一緒に生きていくように支援する教育の内容作り。2つめは一部の人たちによる専門教育ではなく、いろいろな人が関われる支援体制をつくっていくこと。3つめは社会との関わりを大切にした支援のあり方を考える。4つめは管理監視にならない特別支援教育をめざすこと。そのためには、今の学校のあり方そのものを変えないといけないと思います。障害児教育だけをいじくるだけでは解決しないような気がします。

(ひらいせいいち 自立生活支援センター富山理事長)