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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年12月号

特別支援教育、問われる実効性

船橋秀彦

「忘れないで お金よりも大事なものがある」とのキャッチコピーに共感したが、消費者金融提供と知り、冷めてしまった。特別支援教育のキャッチコピーは「『障害の種別と程度に応じて特別な場で行う特殊教育』から『一人ひとりのニーズを把握して必要な支援を行う特別支援教育』への転換」です。このコピーの実効性が問われます。

センター機能とコーディネーター配置

改正学校教育法の施行により、4月から盲、聾、養護学校の区分は廃止され、「複数の障害種別に対応した教育を実施することができる特別支援学校の制度」となります。

特別支援学校は、「その学校に在籍する児童生徒等に対する教育」と「小中学校等に在籍する障害のある児童生徒等の教育に関し、必要な助言または援助を行う」(センター機能、努力義務規定)の二つの機能を担います(06年4月文科大臣趣旨説明)。すでに現場では、少なくない学校でセンター機能に取り組んでいます。私の学校でも地域支援部を立ち上げコーディネーターを置き、近隣の幼小中学校等への相談活動や地域ネットワーク作りを旺盛に展開しています。それは在籍児の抱える困難の解決にもプラスです。

キーパーソンのコーディネーターは、校内で捻出し、当たり前ですが、残りの教員で授業を進めます。期待していた制度改正では、教職員定数として「標準法」(学校の教職員数を決める法律)に配置されませんでした。ですから校内の自助努力、すなわち「教員の再配分」で進めるのですが、支援が活発になればなるほど、残る教員数は減り、授業展開が困難へ……と2つの機能は対立関係となります。

この関係を調和的に保つために、教職員の意識改革が必要となります。個々の学校で見れば評価できるセンター化ですが、小中学校に在籍する6.3%、全国68万人の子どもたちを支援する大事業を進めるにはどう見積もっても無理があります。

「種別を超えた学校」はニーズに応えるか

茨城では、県都(水戸市)から離れた地域の養護学校(知的障害)には、すでに肢体不自由児が在籍し、医療的ケアのための看護師も6校(06年)に配置されています。課題は、障害(肢体不自由)への必要な支援として自立活動教諭や理学療法士を配置することです。しかし今回の制度改正では、学級数の最も多い障害種に応じて教職員定数を算出するという、障害種別に基づく従来の「標準法」に依拠したため、特殊教育(障害の種別による限定)は温存されたままです。

現在の養護学校には抱えているいくつかの課題があります。通学区域の広さと通学時間の問題、居住地域からの隔絶、教育・福祉・労働の連携の難しさ、そして、学校の大規模化と学校運営や教育活動の困難さ等です。

少子化の進行が言われていますが、養護学校在籍児は増えていて、“普通教室不足”というおよそ通常学校では考えられない事態が起きています。茨城の不足教室数は03年度・84教室、06年度・96教室と深刻化しているのです。

「障害種別を超える学校」構想は、不足教室の解消につながるのでしょうか。残念ながら、先行する地方自治体の施策を見ると、財政削減と人的再配分を前提としているため、盲・聾・養護学校を移転集中させた大規模な特別支援学校化や、あるいはそこまではいかないまでも、安易な統廃合計画が見られます。むしろその傾向にお墨付きを与えています。

私たち茨高教組では、解決策として、障害福祉圏域に重なる特別支援教育圏域を設定し、各圏域に学校規模130人を最大とする特別支援学校を再配置する(肢体障害と知的障害等が通える適正規模の学校を構想)教育計画を提案しています。

インクルーシブ教育へ

国連では障害者権利条約の制定作業が進んでいて、今後、日本政府による条約批准が課題となります。条約の教育条項では「インクルーシブ教育」(一般教育制度から排除されない)が提起されています。改正学校教育法の参議院附帯決議でも「国際的な障害者施策の潮流となっているノーマライゼーションやインクルージョンの理念を踏まえ、特別支援教育の定着・発展」とあります。インクルーシブ教育は、通常学級に障害児を在籍させるだけのダンピングを認めたり、特別支援学校の役割を否定するものでもありませんが、改めて特別支援教育のありようは課題となります。

最近の教育現場は、数値目標を掲げ、競争原理を働かせて結果を求める成果主義が進んでいます。新総理は『美しい国へ』(安倍晋三著)で「全国的な学力調査を実施、その結果を公表」と論じ、教育再生会議では、学校選択性や教育バウチャー制度が話題です。かつて、学力テストの成績を上げるためにできない子を特殊学級(テストを受けない)へ入れた事実を思うと、点数の取れない障害児が再び排除され、学業不振児が特別支援教育の充実との名目で対象児にされないか、不安です。

インクルージョンには、まず、国連子どもの権利委員会から勧告された日本の「競争的教育制度」を改善し、30人学級を実現することです。そして、特別支援学校と通常学校の位置的統合や両方の学校に籍を持つ複籍化も進めます。そもそも“競争”原理は、人間の原理ではありません。人間にふさわしい“共同”にこそ依拠した改革を進めるべきです。

(ふなばしひでひこ 茨城県立水戸飯富養護学校)