「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年4月号
フォーラム2007
知的障害児(者)基礎調査結果の概要
上原吉人
はじめに
厚生労働省は、平成17年に在宅の知的障害児(者)の調査を実施した。この調査は障害の程度、生活の状況、就労の状況等を把握することによって、在宅知的障害児(者)の福祉施策の推進に必要な基礎資料を得ることを目的としている。ここでは、調査結果の主要事項について報告する。
なお、この調査における「知的障害」は「知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ、日常生活に支障が生じているため、何らかの特別の援助を必要とする状態にあるもの」と定義している。
在宅知的障害児(者)数(推計値)
平成17年11月1日現在、在宅の知的障害児(者)数は419,000人と推計され、前回(平成12年10月)の329,200人と比較すると、27.3%の増加となっている(表1)。
表1 障害の程度別・年齢階層別人数(推計値) (単位:人)
総数 | 最重度 | 重度 | 中度 | 軽度 | 不詳 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
平成17年 | 総数 | 419,000 (100.0) |
62,400 (14.9) |
102,200 (24.4) |
106,700 (25.5) |
97,500 (23.3) |
50,100 (12.0) |
対前回比 | 127.3% | 137.1% | 110.4% | 137.5% | 133.2% | 124.3% | |
18歳未満 | 117,300 (100.0) |
22,000 (18.8) |
28,100 (23.9) |
26,200 (22.4) |
33,300 (28.4) |
7,700 (6.5) |
|
対前回比 | 125.3% | 123.6% | 91.5% | 147.2% | 182.0% | 85.6% | |
18歳以上 | 289,600 (100.0) |
39,800 (13.7) |
73,700 (25.5) |
78,700 (27.2) |
63,000 (21.8) |
34,300 (11.9) |
|
対前回比 | 130.9% | 149.1% | 123.5% | 137.1% | 120.9% | 135.6% | |
不詳 | 12,100 (100.0) |
600 (5.0) |
400 (3.3) |
1,800 (15.0) |
1,200 (10.0) |
8,100 (66.7) |
|
対前回比 | 84.0% | 60.0% | 18.2% | 75.0% | 42.9% | 135.0% | |
平成12年 | 総数 | 329,200 (100.0) |
45,500 (13.8) |
92,600 (28.1) |
77,600 (23.6) |
73,200 (22.2) |
40,300 (12.2) |
18歳未満 | 93,600 (100.0) |
17,800 (19.1) |
30,700 (32.8) |
17,800 (19.1) |
18,300 (19.5) |
9,000 (9.6) |
|
18歳以上 | 221,200 (100.0) |
26,700 (12.1) |
59,700 (27.0) |
57,400 (25.9) |
52,100 (23.6) |
25,300 (11.4) |
|
不詳 | 14,400 (100.0) |
1,000 (6.9) |
2,200 (15.3) |
2,400 (16.7) |
2,800 (19.4) |
6,000 (41.7) |
※( )は構成比%
これを障害の程度別にみると、「最重度」が62,400人で前回比37.1%の増、「重度」が102,200人で前回比10.4%の増、「中度」が106,700人で37.5%の増、「軽度」が97,500人で33.2%の増となっている。
年齢別にみると、18歳未満が117,300人で前回比25.3%の増であり、18歳以上が289,600人で前回比30.9%の増となっている。
なお、今回の大幅な人数増加については次のように分析している。
知的障害は発達期にあらわれるものであるが18歳以上の人数が増加していること、また、18歳未満の中軽度の増加が顕著であることから、今まで障害福祉サービス等を利用せずにいた、若しくは利用できずにいたため潜在化していた知的障害者が、措置制度から支援費(契約)制度への切り替えや、それに伴う周知広報の実施および各地で療育支援体制が整備されてきたことにより、知的障害に対する認識が変化し、顕在化してきたことが増加の主な要因であると推測できる。
生活の場の状況
生活の場(住まい)の状況について18歳以上でみると、「自分の家やアパートで暮らしている」が前回の84.2%から82.0%と若干減少しているのに対し、「グループホーム」は5.4%から8.9%と3.5%増加している(表2)。
表2 地域における生活の場の状況 (単位:人)
総数 | 自分の家やアパート | 会社の家 | グループホーム | 総数 | その他 | 不詳 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
平成17年 | 総数 | 2,075 (100.0) |
1,779 (85.7) |
6 (0.3) |
136 (6.6) |
2 (0.1) |
132 (6.4) |
20 (1.0) |
18歳未満 | 581 (100.0) |
559 (96.2) |
1 (0.2) |
(-) |
(-) |
21 (3.6) |
(-) |
|
18歳以上 | 1,434 (100.0) |
1,176 (82.0) |
5 (0.3) |
127 (8.9) |
2 (0.1) |
108 (7.5) |
16 (1.1) |
|
不詳 | 60 (100.0) |
44 (73.3) |
(-) |
9 (15.0) |
(-) |
3 (5.0) |
4 (6.7) |
|
平成12年 | 総数 | (100.0) | (86.9) | (0.5) | (3.7) | (0.2) | (7.5) | (1.0) |
18歳以上 | (100.0) | (84.2) | (0.7) | (5.4) | (0.1) | (8.3) | (1.2) |
※( )は構成比%
将来の生活の場の希望においても(表3)、「ひとりで」「グループホーム」が合わせて20.7%で前回の17.8%と比較して2.9%増加しており(18歳以上では3.7%増加)、地域での自立生活の意向が高まってきていることがうかがえる(なお、表2以降は、実回答数(有効回答数2,075件)による集計である)。
表3 将来の生活の場の希望 (単位:人)
総数 | ひとりで | 夫婦で | 親と | 兄弟姉妹と | 友達などと | グループホーム | 施設 | その他 | 不詳 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
平成17年 | 総数 | 2,075 (100.0) |
164 (7.9) |
267 (12.9) |
665 (32.0) |
133 (6.4) |
36 (1.7) |
266 (12.8) |
156 (7.5) |
172 (8.3) |
216 (10.4) |
18歳未満 | 581 (100.0) |
25 (4.3) |
97 (16.7) |
209 (36.0) |
7 (1.2) |
7 (1.2) |
76 (13.1) |
25 (4.3) |
58 (10.0) |
77 (13.3) |
|
18歳以上 | 1,434 (100.0) |
133 (9.3) |
161 (11.2) |
447 (31.2) |
119 (8.3) |
29 (2.0) |
183 (12.8) |
128 (8.9) |
112 (7.8) |
122 (8.5) |
|
不詳 | 60 (100.0) |
6 (10.0) |
9 (15.0) |
9 (15.0) |
7 (11.7) |
(-) |
7 (11.7) |
3 (5.0) |
2 (3.3) |
17 (28.3) |
|
平成12年 | 総数 | (100.0) | (6.3) | (11.6) | (33.2) | (8.3) | (1.6) | (11.5) | (8.6) | (6.8) | (12.2) |
18歳以上 | (100.0) | (7.6) | (11.0) | (31.5) | (11.4) | (1.0) | (10.8) | (9.2) | (6.2) | (11.3) |
※( )は構成比%
将来の日中活動の場の希望
日中活動の場について、学校を卒業している人たちの現在の状況と将来の希望を比較してみると(表4)、現状維持を希望している人が多い中にあって、現在「自分の家」にいる人のうち約3割の人が、「職場・会社」「作業所」「通所施設」「デイサービスセンター」など、家から出て外での活動を希望している。
また、現在「作業所」や「通所施設」で日中を過ごしている人のうち約1割が、「職場・会社」で一般就労に就くことを希望している。
表4 学校を卒業している人の「現在の活動の場」と「将来希望する活動の場」の比較 (単位:人)
将来の希望 | 総数 | 職場・社会 | 作業所 | 通所施設 | デイサービスセンター | 自分の家 | その他 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
現在 | |||||||
総数 | 1,294 (100.0) |
329 (25.4) |
201 (15.5) |
367 (28.4) |
58 (4.5) |
267 (20.6) |
72 (5.6) |
職場・社会 | 216 (100.0) |
203 (94.0) |
(-) |
1 (0.5) |
(-) |
8 (3.7) |
4 (1.9) |
作業所 | 200 (100.0) |
20 (10.0) |
165 (82.5) |
10 (5.0) |
(-) |
4 (2.0) |
1 (0.5) |
通所施設 | 366 (100.0) |
31 (8.5) |
9 (2.5) |
310 (84.7) |
4 (1.1) |
6 (1.6) |
6 (1.6) |
デイサービスセンター | 48 (100.0) |
(-) |
2 (4.2) |
2 (4.2) |
43 (89.6) |
(-) |
1 (2.1) |
自分の家 | 306 (100.0) |
44 (14.4) |
12 (3.9) |
14 (4.6) |
8 (2.6) |
219 (71.6) |
9 (2.9) |
その他 | 158 (100.0) |
31 (19.6) |
13 (8.2) |
30 (19.0) |
3 (1.9) |
30 (19.0) |
51 (32.3) |
※( )は構成比%
いやな思いや差別の有無
「障害があるために差別を受けたり、いやな思いをしたことがある」と答えた人は35.4%で、前回調査時の56.9%より大幅に減少している(表5)。前文で述べたように、今回の調査結果(人数の大幅増加)は知的障害に対する認識の変化によるものが要因の一つであるとしているが、この質問の結果からも、周囲の人達の障害に対する理解が進んでいることがうかがえる。
ただ、35.4%の人が「いやな思いがある」としていることから、引き続き、障害に関する普及啓発が行政の重要な役割であるといえる。
表5 いやな思いや差別の有無 (単位:人)
総数 | いやな思いがある | いやな思いがない | 不詳 | ||
---|---|---|---|---|---|
平成17年 | 総数 | 2,075 (100.0) |
734 (35.4) |
1,093 (52.7) |
248 (12.0) |
平成12年 | (100.0) | (56.9) | (31.4) | (11.8) |
※( )は構成比%
仕事をしている人の状況
就労形態別にみると、就労している人のうち「正規の職員」および「臨時雇用」として働いている者は30.6%である。また、「作業所」(授産)形態で働いている者が58.3%と、半数以上を占めている(表6)。
表6 就労形態 (単位:人)
総数 | 正規の職員 | 臨時雇用 | 内職 | 家の仕事の手伝い | その他 | 作業所 | 不詳 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
平成17年 | 総数 | 779 (100.0) |
122 (15.7) |
116 (14.9) |
5 (0.6) |
35 (4.5) |
40 (5.1) |
454 (58.3) |
7 (0.9) |
最重度 | 59 (100.0) |
2 (3.4) |
1 (1.7) |
(-) |
(-) |
3 (5.1) |
53 (89.8) |
(-) |
|
重度 | 182 (100.0) |
14 (7.7) |
5 (2.7) |
1 (0.5) |
6 (3.3) |
9 (4.9) |
146 (80.2) |
1 (0.5) |
|
中度 | 236 (100.0) |
34 (14.4) |
38 (16.1) |
2 (0.8) |
18 (7.6) |
8 (3.4) |
135 (57.2) |
1 (0.4) |
|
軽度 | 213 (100.0) |
56 (26.3) |
57 (26.8) |
1 (0.5) |
8 (3.8) |
14 (6.6) |
75 (35.2) |
2 (0.9) |
|
不詳 | 89 (100.0) |
16 (18.0) |
15 (16.9) |
1 (1.1) |
3 (3.4) |
6 (6.7) |
45 (50.6) |
3 (3.4) |
|
平成12年 | (100.0) | (19.6) | (10.9) | (1.2) | (7.5) | (6.4) | (50.5) | (3.9) |
※( )は構成比%
これを障害の程度別でみると、最重度、重度の者の多くが「作業所」であるのに対し、中度、軽度と障害の程度が軽くなるに従って、「正規の職員」「臨時雇用」の割合が増えている。
また、誌面の都合上、表の掲載は割愛させていただくが、就労による給料については、「1万円まで」が44.7%と最も多く、次いで「1万円から3万円まで」が13.0%となっている。これを障害の程度別からみると、最重度、重度の者の多くが3万円までに含まれているのに対し、中度、軽度と障害の程度が軽くなるに従って高所得の割合が高くなっており、前述した就労形態の結果とリンクしているといえる。
さらに就労形態別に給料をみると(表7)、「正規の職員・臨時雇用」と一般就労の場合では「7万円から10万円まで」が26.1%と最も多いのに対し、「作業所」で福祉的就労の場合は「1万円まで」が70.7%と最も多くなっている。
表7 就労による給与(就労形態別) (単位:人)
総数 | ない | 1万円まで | 1万円から3万円まで | 3万円から5万円まで | 5万円から7万円まで | 7万円から10万円まで | 10万円から13万円まで | 13万円から15万円まで | 15万円より多い | 不詳 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
正規の職員 臨時雇用 |
238 (100.0) |
1 (0.4) |
5 (2.1) |
12 (5.0) |
31 (13.0) |
44 (18.5) |
62 (26.1) |
43 (18.1) |
20 (8.4) |
14 (5.9) |
6 (2.5) |
作業所 | 454 (100.0) |
10 (2.2) |
321 (70.7) |
75 (16.5) |
8 (1.8) |
4 (0.9) |
1 (0.2) |
(-) |
(-) |
(-) |
35 (7.7) |
※( )は構成比%
さいごに
平成17年度知的障害児(者)基礎調査結果の主要事項について報告したが、今回の調査結果の特徴として、人数の増加、すなわち、障害福祉サービスの対象となる方々が増加しているということが挙げられる。
先般の障害者自立支援法の施行により、今後は「どこでもサービスを受けることができる環境」の整備が目標とされていくこともあり、さらなる人数の増加が予想される。
障害者自立支援法においては、市町村および都道府県は、サービス量等の具体的な数値目標となる障害福祉計画の策定が義務づけられている。今後も増加していくであろう障害福祉サービス利用希望者に対し、十分なサービス提供ができるような計画策定が望まれる。
(うえはらよしひと 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課統計調査係)