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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年10月号

心の原風景

造形

清水政直

1936年東京都生まれ。7歳の時に失明。現在、自称「造形詩人」として活躍。

私は、短い「光の故郷」を持っています。失明したのは7歳、国民学校2年生の5月でした。そして、戦後まもなく、10歳、4年生の年齢で盲学校に入りました。

今も思いますに私は、視覚的には敏感でしたが、触覚的にはどうも鈍感なようです。通信簿で、たしか工作だったか、その評価が低かったため、生意気な私は、その理由を先生に聞きただした際に、「触り方が下手、もっと指先に心を集めてお触りなさいね」とおっしゃいました。

それから半世紀を経て、自称「造形詩人」として初めて個展を開催することができました。しかしこうした粘土とのかかわりは、もう10数年遡(さかのぼ)って、西村洋平先生との出会いにあります。そして先生が、個展の開催を勧めてくださり、もろもろのご援助を賜ったというわけです。

その頃の作品はこうでした。付けた名前は「ささやき」、添えた言葉が「耳を澄ましています。ささやきが、天から、地から」。最初のうちは、自分の意志とイメージの力を、いかに粘土に表すかが問題でした。ところがこの問題は、私にとっては解決不可能ということが分かりました。技量の乏しさとプロセスのすばやい把握不足、第一、限られた創造時間がその理由です。もっとも時間に関しては、じれったいほど思うに任せず、悪戦苦闘、こちらは汗だくになっているにもかかわらず、相手はいよいよ固く硬く乾いていく。いっそのことこの造形は放棄して、水溜りへぶち込んで生まれ変わらせようとしたところで、私の努力は行ったり来たりのエンドレス、完成品は永遠にできそうにありません。

このかたくなな素材と折り合いをつけることは、私にとっては一種のあきらめにとどまることになりますが、その時点で、私は彼を、認知することに決めることにもなるのです。この物体は、明らかに、空間を少しばかり押しのけて存在したことだけは間違いありません。

土を形作り、形に名前を与え、紛れもない存在となったそのものに耳を澄まし、まさしく言葉を紡ぎ出して一つの作品を完成させています。これが私の作品づくりのこだわりと言ってもいいでしょう。そんな例を分かりやすい作品から一つあげておきましょう。

これは、足の乗る場所を二つ並べた存在です(本頁作品)。

ボクは歩かない
ボクは歩かない。
歩けないからではない。
ボクは考えない。
考えられないからではない。
ボクは食べない。
食べられないからではない。
ボクは泣かない。 笑わない。
ボクは話さない。 歌わない。
ボクは愛さない。
愛せないからではない。
ボクは眠る。
眠りたいからではないが…
ボクは疲れた。


造形

与那城智

クーピーファッションアートグループ事務局長

クーピービッグアート

クーピーファッションアートグループの「クーピー」とはフランス語で「中間」の意味があります。障害者とアーティスト、障害者と健常者の間に入り、両者を結びつけることでさまざまなコラボレーションを生み出そう、デザイン性の高い作品、ユニークな作品を生み出し世に出していこう、そのことから社会参加のきっかけを作り、才能を発掘していこうという活動をしています。

クーピーでは障害がある方が描いた原画を基にアーティストがデザインし、その施設の仲間やボランティア、一緒に描きたいという思いで参加した人々が協力して巨大な絵を完成させるビッグアートの制作を行い、貴重な交流の場になっています。その活動の輪は沖縄、東京、神奈川にも広がり、これまでにもさまざまな場所を舞台に多くの作品が生まれました。

教室、屋上、体育館、庭や広場。天気のいい日にアウトドアで描くビッグアートは気持ちよく皆さん喜んでくれます。最近ではお洒落なダイニングバーが会場の時も評判が良く、非日常的な空間でアート体験を楽しみにしている方もいます。

原画を見ると大胆さ、緻密さが極端に出ていている絵もあり見ていて飽きません。

刷毛や筆運びもテンポが速く線に迷いがないように見える作者がいる一方、丁寧に仕上げていくスタイルなど持ち味もユニークです。

障害のあるなしに関わらず大きなキャンパスに色を塗りはじめた時には見知らぬ同士だった人たちが、完成が近づくにつれ仲良くなっているシーンもよく見かけます。

完成したビッグアートは公共の場に展示され、多くの人の目に触れます。官公庁のロビー、企業の施設や各種イベント会場、2004年の障害者週間からは那覇空港ターミナルのウエルカムホールにも飾られるようになりましたが、このようなケースは日本初でした。

施設の付き添いの先生や父母の声を聞くと「以前は暇な時は何もせずボーッとしていたが、最近は自分から絵を描いたりしている」「外に出るのを嫌がらなくなった」一般参加者やボランティアからは「アート制作を通し自然な形で接することができました」という声があります。

これからもアートを通して繋がりを生み出したい。上手い下手ではなく少しの絵心と勇気があればOK。近くでビッグアート制作が行われる時はぜひご体験ください。