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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年10月号

フォーラム2007

韓国障害者差別禁止法制定推進連帯とJDFの障害者差別禁止法セッション報告

山本眞理

9月5日より8日まで第7回DPI世界会議が韓国で開催されました。70あまりの国から計2700人が参加し、分科会や付帯行事を行いました。障害者権利条約の国連採択後、初めてのIDA(国際障害同盟)参加団体のDPIの総会ということで、大きな意義があったと考えます。

5年近くの間、IDAを中心にして、国際障害コーカス(IDC)が結成され、特別委員会の会期中も熱心な討論が続けられました。世界70団体あまりが参加したIDCは地域・国を越え、障害種別を超え、団結して条約へのロビーイング活動を行い、その力で私たちの障害者権利条約を獲得したことは、歴史的な障害者団体の勝利でした。

DPI総会という貴重な機会に、メーリングリストでしか話したことのない、世界からの仲間に出会い、直接議論できたことに大変感謝しています。とりわけこの世界会議開催中に同じ会場で、日韓差別禁止法セッションを開催できたことは大きな収穫でした。

このセッションは、日本障害フォーラム(JDF)と韓国の障害者差別禁止法制定推進連帯(障推連)の共催で開かれ、日韓両国から100人あまりの参加がありました。日本からはJDFメンバー以外にも権利条約関係に助成をいただいている、キリン福祉財団の国松様にもご出席いただきました。また、韓国の国会議員で障害当事者でもあるチャン・ヒャンスク議員もお忙しいにもかかわらず祝辞を述べてくださり、報告も聞いてくださいました。

韓国からの報告は障推連の法制委員であり、身体障害者のぺ・ユンホさんから差別禁止法制定に向けた障害者自身の闘いの報告、弁護士で推進連帯法制委員のパク・チョンウンさんから差別禁止法の背景とその中身についての解説がありました。日本側からは、東俊裕さんが日本のこれまでの障害者運動の総括と差別禁止法に向けた国内での取り組みの必要性を報告しました。

韓国では07年3月6日、国会議員197人中196人の賛成で「障害者差別禁止および権利救済等に関する法律」が国会で成立しました。08年4月11日から施行されます。ここに至る道のりは激しい闘いの連続でした。90年末より一部で差別禁止法の必要性が語られ始め、02年には「開かれたネットワーク」の案と障碍権益問題研究所の案の二つが出され、03年4月には韓国障害者団体総連盟と障害者団体総連合会、第三者などの障害者団体が総結集して「障害者差別禁止法制定推進連帯(障推連)」が結成されました。

各地での公開討論会の積み重ね、立場を超えて論争し、お互いを説得する作業が継続されました。障推連としての案を練り上げ、05年9月には民主労働党を通じて国会に提案されました。しかし、この案は障推連の意図に反し、法務委員会ではなく保健福祉委員会に回され、上程すらされずたなざらしとなりました。障推連としては06年人権委員会占拠籠城を行い、8月に大統領諮問機構である、反貧富格差・差別是正委員会主管で障推連と政府各省庁が民主労働党案を協議することとなりました。この間、デモや反対する経済界に向けた闘争が組まれました。政府と障推連との綱引きは続き、その結果、手直しされた案が国会に上程され、成立したのです。

ペさんはとても短い時間で、この7年間の闘いを話すことは不可能とおっしゃっておられましたが、障害者団体間の意見の違いを出し合い議論を積み上げ、そして国会籠城や路上での闘争など激しい闘争を繰り返して勝ち取ったという韓国の障害者運動の力強さに感動いたしました。被逮捕者も出て、いまだその罰金に各団体は苦しんでいる実態だそうです。

パクさんは韓国の差別禁止法の意義を説明してくださいました。主要な点を上げると、1.当事者主義―韓国の差別禁止法はまさに当事者が作り上げた法案を当事者の闘いにより成立させたという意味で、まさに障害者の勝ち取った果実であるといえる。2.連帯主義―障害者運動の分裂の歴史はあっても、差別禁止法制定に向け、全障害者団体(247の全国・地方団体)が一つとなって歴史上初の連帯闘争を繰り広げたこと。3.「慈善から人権へ」のパラダイム変換―慈善の対象から権利の主体として、権利侵害に対して救済される人権的パラダイムの確立。4.障害者差別禁止法の制定が韓国社会総体に与える影響―国内の性的マイノリティ、非正規労働者、等々マイノリティへの差別の実態に対して、禁止法制定が社会の差別文化総体への批判と多数派の認識変換への契機となった。さらに、総合的な社会的差別禁止法という基本法への展望も拓けた。

東さんは、韓国の差別禁止法制定は大陸法系の国では世界初の制定であり、この点で画期的意義があり、日本の差別禁止法制定にとっても大きな弾みがつくというお話をされました。日本の現状分析と今後の取り組みに向け、以下の内容を報告されました。

日本の障害者運動は、いわば高度成長のおこぼれを障害種別の団体が行政交渉の中で取ってくるという運動であったが、パイが小さくなれば当然のようにその成果も削られてきたのが現状であり、その象徴が、介助をたくさん必要とする人ほど重い負担を負わせるという障害者自立支援法であった。この障害者自立支援法反対闘争において、今までの軋轢を越え障害種別を超えた連携が始まった。法成立後は、さらに広い連携が抗議行動として取り組まれてきている。

今後は障害種別の行政交渉というやり方から、団結して国会での立法をターゲットにした闘いが必要であり、JDFの参加各団体が地方レベルで連携して、差別禁止法あるいは差別禁止条例制定に向けて取り組めるかどうかが問われている。そうした地域からの取り組みを背景に、条約批准と絡めて差別禁止法に向けた国会ロビー活動が今こそ必要である。

3時間という条件でかつ言葉の壁もあり、なかなか踏み込んだ討論が行えなかったのが残念といえば残念でしたが、障害年金制度も介助制度も保障されていないという韓国の実態の中で、街頭闘争その他の大衆的な闘争、地域での集会の積み重ねを背景とした国会ロビー活動という、いわば私たちの今後学ぶべきお手本を韓国の仲間から提示していただいたセミナーであったと思います。

さらにパクさんが触れられた、韓国の差別文化総体への影響、とりわけ障害者以外の被差別者の闘いへの影響という点は、非常に重要な指摘と考えます。韓国の人権闘争民主化闘争は私たちが常に注目してきたものですが、日本は韓国と違って国内人権機関もない、刑事司法手続きで言えば、起訴まで23日間も代用監獄に勾留される(韓国は48時間)という中で、人権の最低基準としての障害者権利条約の国内履行に向けては、日本の人権水準総体の向上が必須とも言えます。障害者権利条約の基本は「他のものとの平等」従って、「他のものの人権水準」の向上なくして障害者のみの人権水準向上はありえません。

とりわけ、障害者権利条約は33条において国内履行監視機関を明記しています。これは今までの人権条約にはなかった条文であり、国内人権機関創設に向けた大きな武器となるものです。

今後、障害者団体の連携はもとより、人権団体、他の被差別者団体との連携を深め、人権後進国日本の状況総体を変えるために、障害者権利条約を活用し、私たち障害者こそが先頭となって闘っていく必要があることを痛感しました。

ぜひもう一度、じっくり時間を取ったセッションを韓国の仲間と日本で開きたいというのが私の願いです。

(やまもとまり 全国「精神病」者集団)