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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年3月号

就労支援予算から見えるもの

村上和子

1 はじめに

障害者自立支援法の施行にあたり、大分県障害福祉課では就労訓練を受けたい人を後押しする仕組みとして「就労継続支援金」(350円/日)を利用者に支給するようになった。また、雇用・人材育成課や職業訓練校も管理職をはじめ現場へ頻回に足を運ぶ姿から障害者の就労支援を本気で考えているのが伝わってくる。さらに県庁では、実習生だった知的障害者の雇用を実現するなど、地方でも確実に「就労支援」が進み始めたことを実感できるようになってきた。

2 平成20年度予算の概括

職業安定局障害者雇用対策課、職業能力開発局能力開発課より出された「障害者に対する就労支援の推進」~平成20年度障害者雇用施策関係予算案のポイント~を見ていくと、就労支援への力の入れ方がよく見える。一昨年に出された平成19年度予定額13,882百万円と比べても20年度予定額は、16,780百万円であり2,898百万円、率にして2割以上伸びている。

障害福祉課関係では、工賃倍増5か年計画の取り組み推進が挙げられているが、今回特筆すべきは、「発注促進税制の創設」であろう。これは、直接的に就労支援事業者に補助されるものではないが、障害者の「働く場」に対する発注を増加させた企業に、取得した固定資産の割増償却を認めるもので、企業側にメリットを用意することで間接的に工賃倍増を支援する仕組みであるが、有期限であることから、全国各地でぜひ有効活用をと考える。

そのためには、企業側への情報提供や説明が必要になるが、福祉の現場では固定資産の償却についてなじみのない者も多いことから、その周知・活用を図る手だてを抜きにしてはならない。

3 人材確保・人材養成

就労支援の現場で職員が困難を感じていることの一つに「複合的な支援」がある。就労支援においては、就労に必要な技能や体力等の獲得・向上に向けての支援が必要であることは言うまでもないが、就労への理解や意欲はもとより、対人関係や情緒の安定なども就労生活に大きな影響を及ぼすことから、これらについての支援も非常に重要になってくる。

旧体系では「作業指導員」と「生活支援員」が配置されていたが、新体系になってからは、就労継続支援A型・B型とも職員配置が10対1のため、バランスよく配置しにくい状況が生じている。

また、福祉現場では質の向上を図るために、国家資格の取得推進や社会福祉士等の有資格者を専門職として採用する努力をしているが、これらの者は、福祉の知識や技術は有していても、自分自身が職業人として初心者であるため、障害のある利用者への就労支援を行うには、まだまだ力不足の感がある。

逆に企業等での職歴を持つ場合には、就労についての知識や理解はあるが、利用者心理の理解や生活面での支援においては、知識や技術不足の場合が多く、いずれも支援において壁にぶち当たってしまう。こうしたことは、全国各地の就労支援系の施設・事業所において共通の悩みであり、給与の伸び悩みとも相まって、新卒者の応募数激減、職員定着率の悪化の要因にもなっている。

予算案では、就労支援を担う人材の育成・確保について調査研究費が用意されているが、現場では職員の確保や育成が間に合わず、サービスの質の低下や事業の存続さえも心配されることから緊急な取り組みが求められる。これは、福祉現場全体において真に逼迫(ひっぱく)した状況であり、内容の重要性から考えると、額においても実効ある予算であるかどうか気になるところである。

4 「2008年10月」問題

当法人は、平成11年4月に開設した知的障害者授産施設(通所)を核にデイサービスセンターやホームヘルプサービス等の各種事業を展開してきたが、2006年10月に就労継続支援B型と就労移行支援の多機能型及び地域活動支援センター等に移行し、2007年4月には就労継続支援事業A型も開始した。

当初、就労移行支援事業は、2年後の就労を目指して24人でスタートしたが、うち10人はすでにA型(雇用型)事業へ。途中増減があり現在は15人が求職活動や実習に取り組み、2008年4月には、さらに9人がA型、2人がB型に移行希望があり、4月になれば就労移行支援の利用者は定員要件(人員)を満たさず事業の存続が危うくなってくることが分かった。

これは、当事業所がいち早く就労移行支援事業を開始したことから、早くも2年間という訓練期間の満了を10月に迎えることとなり、しかも雇用型への移行を早く図ったことで拍車がかかり、こうした結果を生むことになった(もちろん雇用型へ移行した利用者には喜んでいただき後悔はない)。

そこで、やむなく4月に就労移行支援事業を終了することにした。損得勘定で開始・終了を決めるのでなく、新たな方向性を見いだしたからである。事業にこだわるのではなく、これまで就労移行支援事業で培ってきた支援のノウハウをB型事業でそのまま生かすことにした。独自にB型に就労支援員や生活支援員、職業指導員を配置して「就労移行支援」と同じ機能を持たせ、今後ひとりでも就労移行支援が必要な利用者がいた場合には、支援できる体制を残しておくこととするのである。

「2008年10月」問題は、確実に順を追って全国の事業所にやってくる。残念ながら、それについての方針や対策は、この予算案だけでは見えてこない。

(むらかみかずこ 社会福祉法人シンフォニー)