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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年3月号

ブックガイド

障害者雇用・就労支援に関するおすすめの本

小川浩

障害者福祉に関わるさまざまな領域の中で、障害者雇用や就労支援は書籍が少ない分野の一つでしたが、最近、少しずつ関連書籍が出版されるようになってきました。その中で、今回は「企業の立場に立つ」、「障害者雇用制度を理解する」、「精神障害者の就労支援」、「ジョブコーチ」をキーワードに就労支援の実践に役立つ数冊をピックアップしてみました。

1.『障害者の経済学』(中島隆信、東洋経済新報社、1575円)

障害者雇用・就労支援の直接的な入門書ではありませんが、障害者福祉の現状と問題を全体的な視点から見たうえで、就労支援の意味や必要性について考えてほしいと思い、本書を筆頭にあげました。障害者の親でありかつ経済学者である筆者の淡々とした記述の中から、なぜ福祉から就労への移行がスムーズに進まないのか、家族、学校、施設、企業、行政、それぞれの問題の本質が見えてくることと思います。

2.『障がい者雇用促進のための119番』(秦政、株式会社UDジャパン、2625円)

企業の人事・総務などの障害者雇用担当者を対象として書かれた本です。なぜ企業は障害者を雇用しなければならないのか、どのような不安や困難に直面するのか、その解決策は何か等について、119もの豊富な具体例を通して述べられています。企業の立場に立って障害者雇用を考えるために、企業をサポートする視点に気づくために、就労支援に関わる職員にも一読してほしいと思います。

3.『障害のある人の雇用・就労支援Q&A』(大阪障害者雇用支援ネットワーク、中央法規出版株式会社、2520円)

企業が障害者を雇用しなければならない理由、障害の理解、就労支援の社会資源、障害者雇用のアプローチなど、やはり企業の立場での疑問や不安に答えるQ&A方式で具体的に解説された本です。障害者雇用のノウハウが込められた本ですが、これも前掲書と同様に、障害者就労支援の基本的な心構えである「相手の立場に立つ」姿勢を身に付けるために、就労支援の実務に携わる人に読んでほしいと思います。

4.『障害者雇用ガイドブック』(独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構、社団法人雇用問題研究会、1890円)

障害者雇用に関わる制度は非常に複雑で、複数の行政機関が所管しているので、理解することが容易ではありません。本書は、障害者職業生活相談員資格認定講習のテキストにもなっており、「障害者雇用管理上の留意点」「障害別にみた特徴と雇用上の配慮」「障害者雇用促進施策の体系」「関係機関・施設等の概要と行政サービス」が1冊にまとめられていて、1冊で障害者雇用のすべてが分かるといった構成になっている基本教科書です。堅い感じの内容と書き方なので、サクサク読み進めるタイプの本ではありませんが、実務で困った時に、とりあえず手に取る情報源になると思います。毎年、法律や制度の改正に即して最新版が出されます。

5.『職業リハビリテーション学~キャリア発達と社会参加に向けた就労支援体系~』(松為信雄、菊池恵美子、協同医書出版社、4200円)

「職業リハビリテーション学」と銘打っているだけあって、学問体系として職業リハビリテーションを整理した、かなり専門的でアカデミックな内容です。53人にも上る執筆者が、それぞれの専門領域についてまとめている点も見逃せません。職業リハビリテーション・就労支援について全体を網羅した唯一の専門書であると思います。全体的な基本を押さえるためにお薦めします。

6.『現場で使える精神障害者雇用支援ハンドブック』(相澤欽一、金剛出版、2940円)

2007年の11月に出版されたばかりの新刊です。雇用率のカウント対象に含められたことによりニーズが高まりつつある精神障害者の雇用支援について、障害者職業カウンセラーとして長年の実務経験を有する著者が、基本知識及び実務的な方法と技術をまとめた本です。「現場で使える」とサブタイトルが付けられている通り、教科書的なセオリーのみでなく、失敗しがちなポイントなども示されていて、精神障害者の就労支援に携わる実務担当者必読です。

7.『働く広場』(独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構、1冊135円)

雑誌なので、このコーナーとしては番外編になるのかもしれません。就労支援の実力を高めるためには、多くの障害者雇用事例の引き出しを持つことと、どんどん変わっていく制度について最新の情報を持つことが大切であると思います。本誌は高齢・障害者雇用支援機構が出している雑誌で、毎号、障害者雇用事業所についての詳細な紹介が2~3社掲載されており、制度についての最新情報も得ることができ、しかも安価なのでお薦めです。

8.『重度障害者の就労支援のためのジョブコーチ実践マニュアル』(小川浩、エンパワメント研究所、1470円)

9.『重度障害者の就労支援のためのジョブコーチ入門』(小川浩、エンパワメント研究所、1575円)

10.DVDジョブコーチ入門 障害者への就労支援 全2巻』(小川浩監修、アローウィン、各巻9450円)

手前味噌になってしまいますが、ジョブコーチに関するものを紹介します。8.はジョブコーチの理念と方法について概要が述べられています。9.は現場でジョブコーチに求められる技術に絞り込んだ内容となっています。10.はジョブコーチの方法と技術について、実際の事例を取り上げ、アセスメントからフォローアップに至るプロセスを追って解説したDVDです。ジョブコーチに関する適切な理念、方法、技術を身に付けるための3点としてお薦めします。

(おがわひろし 大妻女子大学人間関係学部人間福祉学科教授)