音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年4月号

重点施策実施5か年計画を読む
~障害者権利条約、生活支援、移動・バリアフリーの視点から~

平野みどり

制度移行に揺れながらの計画

現行の障害者計画(2003~2012年度)の前期計画は、支援費制度と同時にスタートした。その支援費制度にとって替わって、前期計画の途中で「障害者自立支援法」が導入されるなど、目まぐるしい制度改正に当事者・事業者・地方行政が翻弄され続けてきたことは言うまでもない。さらには自立支援法の制度そのものが、当事者の実態を十分に反映した制度とは言い難く、抜本的な見直しを求める声が全国から湧き上がった。それを受けて与党ですら、自己負担の一部軽減など小出しの改正ではなく、2009年の見直しに向けて、抜本的に見直すべきとの認識に立っている。

そんな中、今後の5か年計画では、政治的な動きと連動し、当然ながら数値目標達成以上に、現実に即した思い切った上方修正すら求められてくると思われる。その前提に立って、「障害者権利条約」「地域での生活支援」「移動・バリアフリー」の観点から、5か年計画を見ていきたい。

障害者権利条約への対応

2006年に国連で採択された障害者権利条約には、すでに日本も署名をしている。今後は、批准に向けての動きが出てくるが、その前提に立って、各省庁は当然条約の権利基準を意識して、国内法の見直しへの取り組みが必要となるが、後期計画を見る限り、どれほど意識されているのか心許ない。人権の視点、社会モデルとしての障害者観、合理的な配慮、自己決定といったことをベースにして、各省庁は計画策定にあたったのだろうか。

とりわけ教育においては、教員の専門性や資質向上、特別支援教育コーディネーターの指名などは数値として盛り込まれているが、肝心の“子ども”については、個別の教育支援計画策定率の向上(現行は20%、2012年で50%)くらいしか見当たらない。それも今後5年間で50%とはあまりに低すぎはしないか。権利条約でいうインクルーシブな教育にはほど遠い。もちろん財源の問題はあるにしても、通学支援や校舎のバリアフリー化、支援員の確保など、子どもが安心して通学でき、保護者の負担を軽減する体制への数値目標は掲げるべきではないだろうか。

自立支援法が、地域生活とともに就労支援を掲げているため、数値目標を具体的に書き込んである点は評価したいが、この分野でも高校や養護学校高等部卒業後の就労という点で、教育現場との連携がこれまで以上に強くならなければならず、計画の中での省庁間の温度差や今後の連携の実効性が気になる。権利条約を徹底して読み込み、各省庁や当事者間で解釈を共有し、国内法の改正に反映させる取り組みは、今後強化すべきであろう。

地域生活を実現していくには

地域生活と就労支援という自立支援法の理念からすれば、まずは14万6000人もの障害者が福祉施設に入所し、共同生活を強いられている現状をもっと厳しく認識すべきではないだろうか。計画では、入所者を1万1000人減らす一方、少人数で生活できるグループホーム、ケアホームの利用者を、現在の約4万5000人から約8万人へ増やすことを目標にしているが、もっとスピード感を持った数値目標にすべきではないかと率直に感じた。もちろん十分な準備もなく施設からの退所を進めることを是としているわけではない。そこには通所利用などを含めた、当事者本位の生活体制の整備が必要であるし、何よりも安心して相談できる支援体制が重要だ。

そんな中、後期計画では地域自立支援協議会を全市町村で実施するという数値目標が掲げられている。これまで全国に広がる自立生活センターは、サービスの利用援助、ピアカウンセリング、権利擁護などを実施し、障害をもつ仲間を長年にわたり支えてきている。しかし地域によって支援の手が届かない現実もある中、今後、自立支援協議会がどんな役割を果たしていくか注目したい。そして、自立支援協議会が当事者の関わりなくしては本当のニーズを把握し、支援することができないという意味で、「障害のある当事者」の役割がもっと認識されてもよいと思う。「当事者活動への支援」という視点も残念ながら見られない。

移動・バリアフリーは改善されるか

公共交通機関や公共施設のバリアフリー化は、日常生活と最も深く関わっている重要な課題である。ハートビル法、交通バリアフリー法によって、一定程度認知され進められてきたが、その後2006年12月施行のバリアフリー新法の活用が一層進んでいくことが期待されている。

後期計画では、不特定多数や障害者・高齢者が利用する床面積2000m以上の特別特定建築物のバリアフリー化が5年間で50%と目標設定がなされているが、権利条約が謳う権利という意味からすると、もっと高い数値目標であってもいいはずだ。小規模・中規模の施設が使えないと支障を来すため、熊本県では1000mの基準を条例で設定している。

公共交通機関の中で、鉄道ももちろん重要だが、軌道系でないバスは都市部から中山間地まで網羅できるという点で、高齢化も急速に進む中、ノンステップバス化を可及的速やかに進める必要がある。現在、東京などの大都市と地方都市とでは、ノンステップバスの導入に雲泥の差があり、この地域間格差を埋める手立てを、省庁を超えて行うべきであろう。新型のノンステップバスは、ほとんど環境配慮型でもあることから、地球温暖化防止という点で環境省との連携も模索していく必要がある。いずれにしても、5年間で30%の導入割合では不十分だと感じる。

(ひらのみどり DPI日本会議副議長、熊本県議会議員)