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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年4月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

当事者とその家族の願いを叶えるために!
―NPO法人東京高次脳機能障害協議会(TKK)の発足

細見みゑ

当事者とその家族の会が結集

思い返せば、今から約5年前になるでしょうか。その頃は、一つひとつの家族会がそれぞれに各方面に要望していましたが、なかなか施策に取り上げてもらえないジレンマを抱えていました。「何とかしなければ…」との思いが、平成15年6月、6団体の結集となり、「調布ドリーム」の矢田千鶴子氏を代表とする政策提言のための団体「東京高次脳機能障害協議会(以下、TKKと称す)」の設立となりました。

高次脳機能障害の家族会6団体は、障害の原因も症状も年齢層も異なり、その成り立ちや目的、活動も全く同じ訳ではありませんでした。そういう団体が集まって、果たして上手くいくかどうか…と、周囲からは疑問視されていたようです。しかし、それぞれに違いはあっても、当事者とその家族たちの、現状を改善し、将来の不安を解消したいという切なる願いは一致していました。TKK設立の趣旨書や会則を定めて、毎年、東京都に要望書を提出し続けてきました。そして東京のみならず、全国の障害者団体と協力して、中央省庁にも施策や制度の改善を求めて懸命に活動してきました。

やがて、私たちの地道な活動は周囲から認められるようになり、TKKは東京都の高次脳機能障害施策に参画する機会を得ました。また、TKKの趣旨に賛同して協力し、加盟する団体は、当事者やその家族の会だけでなく、医療・福祉の専門家や支援者の団体など多方面に渡るようになり、平成18年には10団体に増えました。

法人化への「きっかけ」となったシンポジウム

任意団体として活動してきたTKKが、NPO法人設立をめざす「きっかけ」になったのは、昨年7月8日、TKK主催で開催した「高次脳機能障害シンポジウム『ここからつくろう!支援と啓発』オーストラリアBIAQの実践から学ぶ」でした。もともと、名古屋リハビリテーション病院など名古屋の高次脳機能障害関係4団体がオーストラリアのBIAQ代表のジョン・ディキンソン氏を招待して講演会を開催するという情報が、田辺和子氏(サークルエコー代表)からもたらされました。このような素晴らしい企画に乗らない訳がなく、TKKにとっても絶好のチャンスでした。早速、TKKも企画に参加することになり、名古屋~大阪~東京をつなぐ「オーストラリアBIAQ代表ジョン・ディキンソン氏、日本大パノラマ(?)講演会」として実現しました。

東京は、第1部がジョン・ディキンソン氏の基調講演「脳損傷者・家族のニーズにどう応えるか」で、理解されにくく対応の難しい行動障害に焦点をあて、先進支援の具体例などを講演していただきました。第2部はパネルディスカッション「高次脳機能障害者支援の課題と今後に向けて」で、支援のリーダーたちに大いに語り合っていただきました。医療・福祉の専門家や支援者の方々、そして参加した家族から、大好評を博しました。

このシンポジウム開催に向けたTKKの結束力と集中力は、素晴らしいものでした。また、オラクル有志の会の助成をはじめ東京都や支援団体など、周囲からいただいた多大なご協力とご支援は本当に有難いものでした。この結集力と協力の輪がTKKに自信をもたらし、NPO法人化の活動に弾みをつけたと確信しています。ジョン・ディキンソン氏の基調講演から学んだ戦略的思考にも非常に大きな影響を受けました。

NPO法人成立をめざして

シンポジウム終了後、法人設立への準備は急速に進行しました。発起人メンバーたちは、東京ボランティア・市民活動センターのNPO法人専門員や東京都の管理法人課NPO法人係へ、相談や指導を受けるために何度も通いました。損保ジャパンからはNPO法人設立準備助成金の支援を受け、励みになりました。法人設立申請に必要な書類は、自らの手で作りあげました。

平成19年9月9日、TKKを一旦解散して、NPO法人TKK設立総会を開催し、理事長、副理事長、理事、監事を選任し、趣旨書並びに定款、目的実現のための活動や事業等々が承認され、発起人全員の決意が確認されました。9月25日、東京都へNPO法人設立申請書を提出、12月18日付けで、東京都から正式に認証々書が届きました。認証が下りるまで通常でも3~4か月かかると聞いていましたが、遥かに早い認証でした。私たちのこれまでの活動が認められたのだと確信しました。早速、登記のための書類作成に取りかかりました。12月26日、東京法務局にて無事登記申請が済み、書類が受理され、正式にNPO法人TKKの設立となりました。

新たなあゆみを、大勢の協力で大きなあゆみに!

「当会のように、その成り立ちも、高次脳機能障害の原因も症状も、年齢層も、活動内容も違う、当事者とその家族の会や支援者団体がまとまっている所は、他にない」「まとまったからこそ、大きな力になり、目的実現のための推進力になっている」という声をよく聞きます。その通りだと思います。しかし、私が思うには、前述に加えて、その大きなエネルギーの源は、「切なる願いを実現したいという熱き意志を持つ、多彩な人材」にあります。そして、「周囲の方々の深いご理解と篤いご協力」にあります。これがTKKの原動力だと確信しています。

障害者自立支援法に基づいた高次脳機能障害支援普及事業によって、地域における高次脳機能障害者支援体制の充実が全国的に図られようとしています。平成18年11月より、東京都では、東京都心身障害者福祉センターが地域支援拠点となって、自立支援法に基づく高次脳機能障害支援普及事業が強力に推進されてきていることに心から感謝し、今後の展開を期待しています。

19年度は、支援者研修会で講師派遣を依頼され、そのつど当事者や家族が出席し、高次脳機能障害者の現状や生活ニーズについて語る機会を得ることができたことは、医療・福祉の専門家や支援者の方々への啓発と社会教育の一旦を担えたのではないかとうれしく思っています。20年度からは、高次脳機能障害の社会的理解を深めるための「当事者や家族の講師派遣」はもとより、啓発事業として昨年同様、7月6日(日)に「高次脳機能障害シンポジウム」開催を予定しています。また、経験豊富なリハビリの専門家による講義・実習を通して、「高次脳機能障害者のためのボランティア・支援者養成講座」も開始します。この講座は年3回開催し、第1回の養成講座は5月25日(日)を予定しています。

人生半ばで突然、事故や病気などで脳に損傷を負い、後遺症として高次脳機能障害を負ってしまった当事者及び家族の混乱と辛酸は筆舌に尽くしがたいものがあります。制度の挟間で泣くことのないように、TKKは、政策や制度の改善はもちろん、高次脳機能障害者のニーズに適した支援のあり方を求め、当事者とその家族の願いを叶えるためにこれからも活動を続けていきます。TKKに賛同して、これからも多くの団体や機関が加盟してくださることを期待し、ご協力くださることを心より願っております。併せて、他の障害者団体や支援者団体の方々とも手を携え、当事者が健全で安心して暮らせる社会を目指して、共に発展していきたいものと願っております。

(ほそみみえ NPO法人東京高次脳機能障害協議会(TKK)理事長)

NPO法人TKKの加盟団体

高次脳機能障害者のつどい「調布ドリーム」(代表:矢田千鶴子)
高次脳機能障害若者の会「ハイリハ東京」(代表:小沢京子)
高次脳機能障害を考える「サークルエコー」(代表:田辺和子)
脳外傷友の会「ナナ」東京地区会(代表:板野遵三郎)
高次脳機能障害者家族会「かつしか」(代表:山嵜サカエ)
高次脳機能障害者自主グループ「コージーズKozy’s」(代表:張江永)
高次脳機能障害若者の会「メビウスのWA!!」(代表:広実真弓)
高次脳機能障害者と家族の会(代表:今井雅子)
世田谷高次脳機能障害連絡協議会(代表:今井雅子)
NPO法人VIVID(ヴィヴィ)(代表:池田敦子)