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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年4月号

ワールドナウ

ISO内に日本提案で、アクセシブルデザインの推進諮問機関が発足

星川安之

はじめに

真っ先に高齢社会に突入した日本では、高齢者及び障害のある方々への「日常生活における不便さ調査」を行ってきた。調査で明らかになった不便さは、製品に関しては製造メーカーがそれぞれに工夫をし、日本の市場には「より多くの人が使いやすい製品・サービス(共用品・共用サービス)」がこの10年で急激に増加し、1995年4,800億円であった市場規模は、2005年には約2兆8,000億円と6倍にも伸びてきている。

共用品の中には、配慮点を共通にする必要のないものもあるが、逆に企業、業界の垣根を越え共通にしていくことによってはじめて、その不便さが解消されているものも数多く存在し10数年前から標準化が始まった。

高齢者・障害者配慮の標準化

日本工業規格(JIS)を統括し、また国際標準化機構(ISO)の加盟機関である日本工業標準調査会(JISC)では、高齢者・障害のある人への配慮標準化に関する動きは、国内だけでなく、国際的に広げることによってさらに効果が上がると判断し、1998年チュニジアで行われたISO消費者政策委員会総会で、「規格を作成する高齢者・障害者への配慮を行えるためのガイド」の作成を提案した。結果は、満場一致で承認され、提案国の日本が議長国となり、8回の国際会議を経て、2001年11月に「ISO/IECガイド71」(Guidelines for standards developers to address the needs of older persons and persons with disabilities:高齢者及び障害のある人々のニーズに対応した規格作成配慮指針)がISOより制定された。

8回の会議の中で、同ガイドの目的となる「高齢者・障害者への配慮」に関して、二つの大きな事項が議論されたのでここで紹介する。

一つは、「障害者」という言葉を「障害のある人々」としたことである。「障害のある人々」にしたのは、ISO/IECガイド71では、一時的にけがをしている人、妊産婦、小さな子ども連れの人など、一時的で場所によっては不便を感じることのある人も対象にし、このガイドの対象を広げることにより、より多くの規格作成機関(技術委員会、作業グループ等)が関係できることを目指したのである。

もう一つは、ISO/IECガイド71が目指す「高齢者・障害のある人々への配慮」にあたる言葉の議論である。初めは「ユニバーサルデザイン」または「デザインフォーオール」を採用することが委員会内でも了解事項のように進んでいった。しかし、7回目の委員会で、各国の代表から「すべての人を対象とする製品・サービスは、理想だが実現は限りなく不可能に近い」との意見が多く出された。それ以降、国際的に使っていく言葉となるため、時間をかけて議論を重ねた。規格作成者、製品設計者に不可能と言われない言葉として、より多くの人への配慮を行うといった意味で「アクセシブルデザイン」(AD)を、英国、米国の代表が提案し、満場一致で採択に至った。

ISO/IECガイド71が制定されてから、欧州規格、スペイン、イタリア、ドイツ、韓国などが次々と同ガイドを国家規格として採用し、提案国の日本では、2003年6月にJIS規格JIS Z 8071「高齢者及び障害のある人々のニーズに対応した規格作成配慮指針」として制定された(図1)。

図1 アクセシブルデザイン(AD)関連JIS(2008年3月現在)

JIS Z 8071 高齢者及び障害のある人々のニーズに対応した規格作成配慮指針 共通ガイド
JIS S 0031 視覚表示物―年代別相対輝度の求め方及び光の評価方法(中国・韓国) 1.表示
JIS S 0033 視覚表示物―年齢を考慮した基本色領域に基づく色の組合せ方法 1.表示
JIS S 0032 視覚表示物―日本語文字の最小可読文字サイズ推定方法 1.表示
JIS S 0021 包装・容器(中国・韓国) 2.包装・容器
JIS S 0022 包装・容器―開封性試験方法(2007) 2.包装・容器
JIS S 0023―3 包装容器―触覚識別表示(2007) 2.包装・容器
JIS S 0023―4 包装容器―使用性評価方法 2.包装・容器
JIS S 0025 包装・容器―危険の凸警告表示―要求事項 2.包装・容器
10 JIS S 0012 消費生活製品の操作性 5.ユーザーインターフェース
11 JIS S 0011 消費生活製品の凸記号表示(中国・韓国) 5.ユーザーインターフェース
12 JIS S 0013 消費生活製品の報知音(中国・韓国) 5.ユーザーインターフェース
13 JIS S 0014 消費生活製品の報知昔―妨害音及び聴覚の加齢変化を考慮した音圧レベル(中国・韓国) 5.ユーザーインターフェース
14 JIS S 0024 住宅設備機器 5.構築(建築) 環境
15 JIS T 0921 点字の表示原則及び点字表示方法―公共施設・設備 5.構築(建築) 環境
16 JIS T 0922 触知案内図の情報内容及び形状並びにその表示方法 5.構築(建築) 環境
17 JIS S 0026 公共トイレにあける便房内操作部の形状、色、配置及び器具の位置 5.構築(建築) 環境
18 JIS T 0901 視覚障害者の歩行・移動のための音声案内による支援システム指針 5.構築(建築) 環境
19 JIS T 9251 視覚障害者誘導用ブロックの突起の形状・寸法及び配列 5.構築(建築) 環境
20 JIS X 8341―1 情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス―第1部:共通指針 情報 共通規格
21 JIS X 8341―2 情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス―第2部:情報処理装置 情報 個別規格
22 JIS X 8341―3 情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス―第3部:ウェブコンテンツ 情報 個別規格
23 JIS X 8341―4 情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス―第4部:電気通信機器 情報 個別規格
24 JIS X 8341―5 情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス―第5部:事務機器 情報 個別規格
25 JIS T 0103 コミュニケーション支援用絵記号デザイン原則 情報 個別規格
26 JIS X 6310 プリペイドカード 一般通則 情報 個別規格
27 JIS S 0023 衣料品 衣料 共通規格
28 JIS S 0023―2 衣料品―ボタンの形状及び使用法 衣料 個別規格

「個別規格」と「共通規格」

日本ではISO/IECガイド71に沿った「高齢者・障害者配慮設計指針」シリーズの規格が2008年3月までに28種類、制定されている。28種類を大別すると、個々の製品・サービスの規格にADの配慮を行うための「個別規格」と、複数の個別規格に当てはまる「共通規格」に分けることができる。「共通規格」の具体的例として、10(テン)キーに表示する凸点の高さ・大きさの規格があげられる。この凸点は、携帯電話の10(テン)キーだけでなく、家電製品のON―OFFスイッチのON側の表示、ヘッドホン左右の識別のための表示など、複数の製品規格に応用できる。現在JISには、共通規格は7種類であるが、あと約30テーマ以上が必要となると予想されている。

JIS規格のアジア連携での国際提案(図2)

日本の高齢者・障害者配慮規格28種類は、一部を除いてそのほとんどすべてが国際的にも通用し、有効なテーマと思われる。そのため日本は、次の5テーマを新規提案として、ISO/TC159(人間工学)と包装・容器技術委員会(TC122)に提案し承認された。

  1. JISS0011:消費生活製品の凸記号表示
  2. JISS0013:消費生活製品の報知音
  3. JISS0014:消費生活製品の報知音―妨害音及び聴覚の加齢変化を考慮した音圧レベル
  4. JISS0031:視覚表示物―年代別相対輝度の求め方及び光の評価方法
  5. JISS0021:包装・容器

図2

図2 JIS規格のアジア連携での国際提案拡大図・テキスト

AD標準化の体系化を考察する国際諮問機関の発足

ISO/IECガイド71の制定後日本は、国際的な高齢者・障害者団体と連携し規格へのニーズを反映し、共通規格と個別規格の体系的整理を行い、ADの標準化全体の体系図を作り、効率よくADの標準化を進められる機関を、ISO内に設立することが望ましいと考えてきた。

2007年11月のTC159の総会(ワルシャワ)において、日本から新たにADの普及のための体系化を検討する諮問機関をTC159内に作ることを提案した。その結果、日本提案は、満場一致で承認され、TC159内に「Advisory Group for Accessible Design(AGAD)」が発足した。AGADは、大きく4つの作業を行っていく。

1つ目は、障害者及び高齢者団体の方々と連携し、ニーズを規格に反映する仕組みを作ること。具体的には、既存の「不便さ調査」を規格に反映できる形式に変換し、そのデータ集に関して、各団体の方々にご意見をいただきデータ集を完成させることである。データ集は、1.既存の規格を見直す際、ADの配慮をすべきかの判断資料としての活用。2.複数の規格に共通して必要な人間工学分野のAD規格のテーマ並びに適用範囲の抽出の資料としての活用、が可能と考えている。2つ目は、抽出された人間工学分野におけるADの共通規格テーマの内容を確認する作業である。3つ目は、障害者及び高齢者団体の方々からの各個別規格におけるニーズを元に、該当するISO内の委員会に、既存及び新規の規格にAD共通規格を採用できる仕組みを作っていくことである。そして4つ目は、AD規格が、ISO内に広く普及するための戦略を考えることである。

AGADは、提案国であるJISCが事務局を担当し、実務面は国内でADの普及をしている共用品推進機構(ADFJ)が担当することになる。第1回目の委員会は、本年前半の開催を考えている。

(ほしかわやすゆき 財団法人共用品推進機構専務理事)