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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年7月号

ブックガイド

障害者福祉を学びはじめた人におすすめの本

杉野昭博

春から障害者福祉を学びはじめたみなさんの中には、夏休みを前にして気合を入れなおしている人もいれば、「難しくて挫折しそうだ」と考えている人もいるのではないでしょうか。心配することはありません。すべて「いい苦労」で「順調」なんです。そんなふうに思える本を紹介します。

まずは「教科書」から

学校などで障害者福祉を学んでいる人は、指定された教科書があると思います。大学で私が指定している教科書は『よくわかる障害者福祉』(ミネルヴァ書房)です。教科書にありがちな、表面的な事項説明におわることなく、日本の障害者福祉を考える上で重要な課題や論点が述べられ、その歴史的経緯にも目配りがされています。私は、大学院の授業でも時々この教科書を使っています。

学校でこの教科書を指定されている人は、夏休み中にぜひとも「復習」してください。また、学校で他の教科書を使っている人は、1学期に学習した内容をこの教科書で復習してみてもよいと思います。視点が異なる2種類の教科書で勉強すると、理解が深まるのではないでしょうか。

「障害者福祉は難しい」と感じている人に

学生さんから、「自立支援法のよい参考書を教えてください」と尋ねられることがあります。自立支援法についての解説書はいくつかありますが、まず介護保険制度についてしっかり理解してください。障害者福祉制度は、介護保険から派生したものではなく、むしろ障害者福祉が先にあって後から介護保険ができたのですが、はじめて障害者福祉を学ぶ人にとっては、介護保険を「基本形」として理解してから、障害者福祉を勉強した方がわかりやすいと思います。

介護保険についての解説書はたくさんあると思いますが、私の一押しは『介護保険・何がどう変わるか』(講談社現代新書)です。この本は残念ながら現在品切れのようですが、Amazonなどでは中古本がたくさん販売されていますし、図書館などにも置いてあると思います。著者の春山満さんは、医療福祉のコンサルティング会社を設立した車いすの社長さんとして有名な方です。利用者さんの視点や事業者の視点から日本の介護制度の課題や問題点が論じられていて、教科書の無味乾燥な説明がなかなか頭に入りにくい人もこの本なら大丈夫ではないでしょうか。介護保険制度をよく理解したら、障害者福祉制度はどこが同じでどこが違うのかという点を中心に勉強してみてください。

障害者福祉の勉強が嫌になってしまった人に

勉強をやめたくなっている人は、やめる前にぜひとも『べてるの家の「非」援助論』(医学書院)だけは読んでみてください。戦後の日本で画期的な業績を残したソーシャルワーカーは糸賀一雄と向谷地生良だけだと言っても過言ではないと思います。この本は、向谷地さんがソーシャルワーカーとして関わった精神障害者社会復帰施設「べてるの家」の実践記録ですが、いわゆる教科書的な実践とはだいぶ違うことが書かれています。しかし、患者さんたちと寝食をともにしながら、その「苦労」を私たちみんなの「生きづらさ」とつなげてとらえようとする考え方などは、戦前の社会事業にも連なる「伝統的」なソーシャルワーク論だとも言えるでしょう。

また、この本の面白いところは、「統合失調症」という病気についてのユニークな見方が、患者さん自身の声で語られていることでしょう。「統合失調症」につきものの「幻覚症状」などの医学的な説明を教科書で勉強すると、とても「縁遠い病気」のように感じてしまうのですが、「症状」からいったん目を離して、「患者さんの人生」に着目すると、それは私たちだれもが共有している問題のように感じます。いちばん自分から「縁遠い」と思っていた障害が実はいちばん「身近な」障害なのかもしれません。

さらに勉強したい人に

以上3冊を私からの「一押し」として紹介しましたが、障害者福祉を面白いと感じている人には、まだまだおすすめの本がたくさんあります。1.『母よ!殺すな』(生活書院)。1970年代の障害者解放運動のバイブル的な本ですが、「障害」についての見方を根本的にくつがえすことによって、日本の障害者福祉にも大きな影響を与えました。2.『手話でいこう』(ミネルヴァ書房)。わかっているようでわかりにくい障害が「ろう」だと思います。3.『だれか、ふつうを教えてくれ!』(理論社YA新書)。目が見えない著者が、障害者と健常者の「共生」とは本当はどういうことなのか考えさせてくれます。4.『障害者の日常術』(晶文社)。働き、泣き、笑い、恋をする日常を29人のユニークな人たちが語ってくれます。5.『肉体不平等』(平凡社新書)。顔にアザのある著者が「身体コンプレックス」をキーワードにして、「障害者」と「健常者」の問題を一つの土俵にのせて見せてくれます。

こうして「おすすめの本」を選んでみると、障害者福祉は奥が深いなとあらためて思いました。みなさんも面白い本、ぜひ見つけてみてください。

(すぎのあきひろ 関西学院大学)

  • 『よくわかる障害者福祉』(小澤温編、2310円)
  • 『介護保険・何がどう変わるか』(春山満著、714円)
  • 『べてるの家の「非」援助論』(浦河べてるの家、2100円)
  • 『母よ!殺すな』(横塚晃一著、2625円)
  • 『手話でいこう』(秋山なみ・亀井伸孝著、1575円)
  • 『だれか、ふつうを教えてくれ!』(倉本智明著、1260円)
  • 『障害者の日常術』(障害者アートバンク編、2205円)
  • 『肉体不平等』(石井政之著、735円)