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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年8月号

福祉機器・福祉用具の支給システムの現状と今後の展望

黒田大治郎

はじめに

「福祉機器・福祉用具(以下、福祉用具)」が障害者等のリハビリテーション(以下、リハ)の実現に重要な役割を担うものであるといわれる。多少なりともリハに関わるものであれば、「福祉用具」とは何かと聞かれても、それがどんな物で、何に役立つかを説明することは多分できるはずである。しかし、福祉用具の「正確な定義」となるとどうだろうか。また福祉用具がどのようなシステムで供給されているか、社会保障制度の対象となる福祉用具とそうでないものとの異同についてなどを答えられる者となると、リハ専門家といえどもそうは多くない。

ただ、福祉用具に関わる者の共通の願いは、障害者等のリハ効果を高めるためには、福祉用具支給に関わるさまざまなストレスを可能な限り少なくすることである。端的にいえば「的確な情報が提供され、給付や購入のための方法や手続きが簡単で、希望どおりの福祉用具が供給され、かつ費用負担はできるだけ掛からない」支給システムの実現に他ならない。

そのためにはわが国における福祉用具支給システムの現状、とりわけ公的制度の中核となっている障害者自立支援法を中心に、介護保険法その他の社会保障制度による福祉用具提供サービスのあり方についての理解を深めておかなければならない。

福祉用具の概念と公的支給制度

現行の「福祉用具の研究開発及び普及の促進に関する法律」(福祉用具法、1993年)では、福祉用具を「心身の機能が低下し、日常生活を営むのに支障のある老人または心身障害者の日常生活の便宜を図るための用具及びこれらの者の機能訓練のための用具並びに補装具」を総称するものと定義している。これに2000年4月から介護保険法による福祉用具の給付と貸与制度が加わり、福祉用具の範囲も拡張し、わが国の福祉用具の全体像は図1に示すとおりとなった。

図1 福祉用具の全体像
図1 福祉用具の全体像拡大図・テキスト
A:社会福祉・保険系における補装具
B:主に社会保険系における治療用装具
C:社会福祉系における日常生活用具
D:介護保険適用具(A.B.Eの一部分)
E:A.B.C以外の用具
F:A.B.C.Eを含む用具
G:障害者等にも利便性の高い一般汎用機器
H:一般機器
参考:福祉用具の研究開発及び普及の促進に関する法律(平成5年)

ところで「相互扶助」を共通理念とするわが国の「社会保障制度」は、生活保護、老人福祉、障害者自立支援(身体障害者福祉・知的障害者福祉、精神保健及び精神障害者福祉を含む)などの公的扶助・社会福祉制度からなる「社会福祉系サービス」(社会福祉系)と年金保険、医療保険、労働者災害補償保険など保険・年金制度からなる「社会保険系サービス」(社会保険系)とのそれぞれ制度成立の根拠を異にする二つのサブシステムにより成り立っている。前者は国民全体が対象で、税金で賄われ、後者は制度加入者を対象とし、その拠出保険料を財政基盤として、表1のとおり、それぞれに福祉用具支給制度が整えられているが、システム相互に全く整合性がない。公的給付制度の対象者として、一制度しか適用されないのであれば不整合なシステムでも不都合はない。

表1 福祉用具(補装具・日常生活用具・治療用装具)の公的給付制度と給付対象用具(2008 黒田作成)

区分 補装具(更生用) 日常生活用具 治療用装具
法律 〔社会福祉系〕 障害者自立支援法
(身体障害者・児童対象)
障害者自立支援法
(身体障害者・児童対象);
(大体1~2級を対象)
老人福祉法(概ね65歳以上)
生活保護法


老人福祉法
〔社会保険系〕 介護保険法(65歳以上)
労働者災害補償保険法
船員保険法
船員法
国家公務員災害補償保険法
地方公務員災害補償保険法
  国民健康保険法
健康保険法
国家・地方公務員共済組合法
私立学校教職員共済組合法
日雇労働者健康保険法
自動車損害賠償保障法
性格と目的 (1)身体の欠損又は損なわれた身体機能を補完、代替するもので、障害個別に対応して設計・加工されたもの
(2)身体に装着(装用)して日常生活又は就学・就労に用いるもので、同一製品を継続して使用するもの
(3)給付に際して専門的な知見(医師の判定書又は意見書)を要するもの
以上をすべて満たすもの
(1)安全かつ容易に使用できるもので、実用性が認められるもの
(2)日常生活上の困難を改善し、自立を支援し社会参加を促進するもの
(3)製作や改良、開発にあたって障害に関する専門的な知識や技術を要するもので、日常生活品として一般的に普及していないもの
以上をすべて満たすもの
治療上必要なもので疾病障害等の回復改善を図る
種目 義肢装具(穀構造・骨格構造)
座位保持装置 車いす 電動車いす
歩行器 歩行補助つえ 盲人安全つえ
義眼 眼鏡 補聴器 重度障害者意思伝達装置
座位保持いす(児のみ)
起立保持具(児のみ) 頭部保護具(児のみ)
排便補助具(児のみ)(介護保険法は車いすの一部のみ)
盲人用時計 点字タイプライター 電磁調理器 盲人用体温計(音声式)盲人用体重計 視覚障害者用拡大読書器 視覚障害者用活字文書読上げ装置 歩行時間延長信号機用小型送信機 点字デイスプレイ 聴覚障害者用屋内信号装置 聴覚障害者用通信装置 聴覚障害者用情報受信装置 浴槽(湯沸器を含む。) 浴槽 湯沸器 便器 特殊便器 特殊マット 特殊寝台 パーソナルコンピュータ 特殊尿器 入浴担架 体位変換器 重度障害者用意思伝達装置 携帯用会話補助装置 入浴補助用具 移動用リフト 歩行支援用具 住宅生活動作補助用具(住宅改修費) 透析液加湿器 酸素ボンベ運搬車 ネブライザー(吸入器) 火災警報器 自動消火器 電気式たん吸引器 訓練いす 訓練用ベット 頭部保護帽 点字器 人工喉頭 収尿器 ストマ用装具 T字杖、棒杖 福祉電話(貸与) ファックス(貸与) 視覚障害者用ワードプロセッサー(共同便用) 点字図書 健康保険法の対象となる治療用装具 練習用仮義足
身体条件 障害が固定し永続する場合 疾患・障害が永続し介助を必要とする場合 症状が変化する場合(急性期~亜急性期)
使用期間 日常的・継続的に使用する耐用年数が定まっている破損消耗の場合は、再交付/修理が認められる 不定期破損消耗するまで 不定/短期間の場合が大半である
引き続き同じ種類のものの支給は認られない
その他 〔社会保険系〕両方給付できる制度であるが、身体的状況 使用目的、種目などの限定条件がある    

しかし、社会福祉系の適用対象は国民全体で、状況次第でだれもが対象となる。その上に、それぞれの生活及び職業等の条件次第で、社会保険系の対象にもなりうる。そのため身体障害者が主な対象となる障害者自立支援法(社会福祉系)や労働者災害補償保険法(社会保険系)等の複数制度が適用され、各制度から福祉用具が支給される個人ユーザーも少なくない。現行では、制度間で社会保険系を優先するという法調整の規定もあるが、拘束力がなくほとんど機能しない。従って、一つの法のみの適用者(自立支援法が大半)と、複数制度適用者とで、生活自立に明らかな格差が生じるという状況にある。

ところでわが国の公的に支給される福祉用具の種類は、障害者自立支援法により厚生労働大臣が定める「補装具の種目、購入又は修理に要する費用の額の算定等に関する基準」(平成18年)に採用されるものが公的制度全体の共通基準となっており、図1のA補装具、B治療用装具、C日常生活用具、D介護保険適用具で障害者個々の心身の状態に適合するオーダーメイドか、部分的に調整された既製品がこれに該当する。しかも、この基準をもつシステム以外の方法では福祉用具が受給できない極めて限定的で、狭隘な仕組みとなっている。

しかしながらリハ関係者ですら補装具・日常生活用具とその他の福祉用具及び一般生活用品との相違について、その認識はまだ不正確であり、リハ全体への広がり、浸透も不十分な状況であるといわれている。そして依然として、障害者等のため作られたものなら、またそういう人たちに用いられるものならば、「どんなものでも」福祉用具であるとの思い込みと、それらはすべて社会保障等の公的制度で「無料」もしくは「ごくわずかな負担」で支給(サービス)されるものだとの誤解が根強い。すなわち制度の趣旨や目的、それぞれの特徴、支給対象種目の違いが的確に理解されない上滑り状態が生じてしまっている。その結果、福祉用具支給のための制度の選択、手続きに遺漏が起こり、希望する福祉用具を適切に受給できなくなるという事態を招くことになる。このことが、福祉用具供給の円滑化を妨げる要因の一つになっていると考えられている。

こうした状況を招かないためには、ユーザーニーズの視点に立って現行制度を柔軟に運用できる、社会福祉士・生活支援専門員、福祉用具プランナー等の専門職の機能をフルに活用することが望まれる。

このことから、さらなる福祉用具市場の展開を可能にするためには、公的制度による福祉用具支給システムのあり方を抜本的に改革していく必要があるが、複雑かつ特異化した公的制度を一挙に一元化することは困難で、それによらずに制度調整を行う対策が必要である。それには1.複数制度適用の制限または撤廃による福祉用具給付公平化、2.共用福祉用具等の「補装具の種目、購入又は修理に要する費用の額の算定等に関する基準」への繰り入れ、3.レンタル制の規模拡大などの取り組みが考えられる。ただしこれには公費(税・拠出金)執行の要否判定等の調整責任が避け難い。従ってこれらの遂行には、法・制度間調整機能を持つ機構もしくは機関があたらなければならない。

このことから現行の公的制度では、最も多くの制度間調整を伴う補装具の処方、適合、給付判定を行う身体障害者福祉法の技術中枢機関・身体障害者更生相談所をその中核機関とし、これに地域リハビリテーションセンター、障害者等在宅支援センター等の機能をネットワークしたシステムを創設すれば、直ちに福祉用具の実際的な供給調整が可能となると考える。

またこのシステムは、パーソナルユースのために生産され流通する商品が、福祉用具としてユーザー等の日常生活支援に効果的で、適切な役割を果たすかどうかを判定評価するシステムとしても期待することができる。さらに製品流通の基盤となる品質ならびに安全基準、製品及び部品等の標準化整備に、関係方面に対して意見具申が行えるなど大きな可能性が認められる。

自立支援法における制度上の論点とその改革への取り組み

2005(平成17)年6月、厚生労働省の「補装具等の見直しに関する検討委員会」において、

1.給付制度の基本方針として、対象種目の構造・形式等の基準や指針が適正であるか。
2.給付制度の対象となるべき工作物の研究・開発・普及の体制は整備されているか。
3.利用者に対する処方・適合から給付・アフターケアに至る支援体制は万全であるか。
4.補装具の給付に伴う援護の実施者と利用者の費用負担は合理的に行われているか。
5.補装具の利用と普及に関する啓発・周知について情報の提供は適切に行われているか。
6.福祉用具の法体系は地域生活支援の制度として一貫した体系が保たれているか。
7.多様な法体系により手続きや給付内容の差異と混乱の解消は図れないか。

について検討が重ねられてきた結果、現行の補装具の価格体系は古く、現状と合わないとの認識に立って、補装具の価格や種目の適正化への対応と、価格、種目の見直しのための仕組みが必要であるとの報告書がまとめられた。この報告書において、従来、補装具の種目は法的に固定化されており、技術の進歩をいち早く取り入れ、障害者のニーズに即応することが難しいシステムになっていたが、これを改革することが、障害者のリハビリテーションの充実には急務であるとの認識に立って、時代の要求に応えられる制度設計とその運用を担う補装具専門の機能の必要性が提言された。

これを受け、平成18年11月に開設された新システムが「補装具評価検討会」(図2)である。このシステムは障害者のニーズにより合致した制度運用を目指し、これまでの補装具の種目、名称、型式、交付額等の支給体系を今日的視点に立って抜本的に見直し、補装具支給の適正化、種目の採り入れの円滑化が図られるようにした。そして当事者、メーカー、研究者等からの幅広い要望を聴取検討し、そのニーズを可能な限り実現することを目指すこととし、前述の問題点のうち、当面1~4の課題解決に取り組むことによって、障害者の自立支援に寄与する方針とした。補装具に関わりを持つ者すべてが参加できる、これまでにないシステムとなっているところが注目されている。

図2 補装具評価検討会のシステム
図2 補装具評価検討会のシステム拡大図・テキスト

平成19年10月27日に、当事者、メーカー、研究者等からの補装具に関する要望ヒアリング(第3回補装具評価検討会)が行われ、約200件の申請があり、申請者のデータを補装具の定義、社会的ニーズ、耐久性、安全性、実用性等 費用対効果等で評価採点を行い、総合評価を経て1.おおむね補装具として妥当性があるとされたもの、2.補装具として課題ありとされたもの、3.補装具として妥当性が乏しいものまたは要望を取り下げたもの、の3つの群に大別した処理が行われた。このうち、1には、車いす及び電動車いすにティルト機能の加算が承認され、平成20年度予算案に盛り込まれ、告示に反映されるべく価格調整中である。また2に分類されたもののうち、義肢装具、車いす、歩行車、補聴器などに関連する福祉用具については、21年度に実現可能かどうかの検討が現在も継続して行われて、具体的に意見が整理され、法的な実現を図っていくこととしている。補装具評価検討会としての結論が20年度中に得られることとされている。

今後の展望

わが国の福祉用具供給関連システム(処方・適合評価、装着・使用指導、研究開発・製作流通、商品情報、社会的支援制度等)は、これまで障害者等ユーザーの状況、そのニーズの多様化、増大化を予測して、そうした変動に柔軟に対処できるようには計画され整備されてきていなかった。そのため、公給制度である身障法の補装具・日常生活用具給付サービスにおいて、以前から地域格差が著しいことが指摘されていた。それが地方分権により社会福祉サービスの自治事務化が進み、都道府県から市町村に補装具・日常生活用具給付サービスの権限が移譲されたことで、さらにその格差が拡大しているといわれる。また保険系と福祉系の「公給制度間」格差もいまだ甚だしく、一向に解消されない。このままでは多種多様化する福祉用具の中から、自分の生活に適したものを選び、上手に使いこなしたいというユーザーのニーズと、福祉用具の研究開発、生産ならびに情報提供、供給側のシーズが大きく乖離していくことは避けられない。

すなわち、現状においても「的確な情報が提供され、給付や購入のための方法や手続きが簡単で、希望どおりの福祉用具が供給され、かつ費用負担はできるだけ掛からない」支給システムの実現は程遠いものがある。

しかし、新たな発想による「福祉用具支給システム」の改革が緒に就いたところであり、福祉用具の支給の改革における速効性に難はあるものの、現行の福祉用具支給制度を統合一元化する礎となる機能を「補装具評価検討会」は備えているといえよう。

この観点に立って、補装具等の利用者はもとよりリハに関わる者は「補装具評価検討会」の動向を注視し、これまで以上に福祉用具の公的支給制度が、障害者等の自立支援にとって、ストレスの少ないシステムになるよう、補装具等の福祉用具の支給システムの日常的な改革を継続的に行わなければならないと考える。

(くろだだいじろう 神戸学院大学総合リハビリテーション学部社会リハビリテーション学科教授)