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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年8月号

発達障害児者への支援に活用可能なテクノロジー

東川健

発達障害とは、ここでは自閉症スペクトラム(自閉症やアスペルガー症候群)、注意欠陥/多動性障害、学習障害などの発達障害に加え、知的障害も含むこととする。つまり、身体障害からくる生活の困難さというよりも、生来発達的に持って生まれた認知面の障害や偏りに由来する困難さを有する人たちへの支援がここでのテーマである。

ここでのタイトルを「発達障害児者への支援に活用可能なテクノロジー」とした理由について若干解説が必要である。ここで述べるものの多くが、発達障害の支援のためだけに開発されたものというよりも、もともとは他の目的のために作られたが、発達障害の支援に応用できる、というものである。また、機器というハードだけでなくソフトも含み、またハイテクだけでなく、サングラスやついたてなどのローテクであることも多いことから、テクノロジー、という表現にした方が、現状に合っている、と考えたからである。

さて発達障害と一言で言っても、その困難さが個人の中の処理過程のどの部分にあるのか、によって支援の仕方は変わってくる。単純化すれば、我々個人は、環境からの情報を取り入れ、記憶、保持し、そして出力する行動を繰り返している。

そのプロセスは、主に以下の4つのプロセスに分けて考えることができる。1.刺激や感覚の入力、つまり情報の入り口の部分、2.入力情報を認知的に理解するプロセス、情報が文字等の視覚情報であればそれらを読むプロセス、3.情報を保持し、記憶するプロセス、4.出力として、言語であれば言語を表出するプロセス、また情報が文字などの視覚情報であれば、書字、キーボードを押す、綴るなどの作業が含まれるプロセス、である。発達障害では、これらのプロセスのどこかに障害あるいは偏りが存在することが多い。以下、このプロセスに沿って述べる。

1 感覚入力への支援

発達障害の人は、感覚過敏などの感覚入力上のさまざまな問題を持っていることが多い。たとえば、聴覚過敏は、自閉症スペクトラムの人の多くが持っている問題である。イヤーマフ(図1)などのヘッドフォンは、もともとは工事現場の遮音のために使われていたものだが、聴覚過敏のある人への支援にも有効である。周囲の音をもっと積極的に消したい場合は、もともとは音楽を静かに聴くために開発されたノイズキャンセリングヘッドホンが使える。その他、蛍光灯や太陽光などの視覚的な刺激が苦痛な場合は、サングラスを活用することもある。周囲の刺激が気になって物事に集中できない場合は、ついたてが有効な支援ローテクノロジーとなり得る。

図1 イヤーマフ
写真 イヤーマフ
写真はPELTOR社のイヤーマフH510A

2 入力(理解面・読み)への支援

自閉症スペクトラムの人は、時間的な見通しがないと不安になるケースが多い。ところが、自閉症スペクトラムの人は、時計が読めたとしても、そこから時間的な見通しをイメージできないことがある。また、知的障害と自閉症スペクトラムを併せもつ場合は、そもそも時計が読めないために、時間的な見通しをもつことに困難を示すことが多く、課題や作業時間がどれくらい残っているのか、などが分からずに不安になり、パニックになることもある。そのような場合は、タイムエイド(図2)のような支援テクノロジーが利用可能である。

図2 タイムエイド
写真 タイムエイド
残り時間が視覚的に理解しやすい。写真は、タイムタイマー社のタイムタイマー

学習障害の中で、読みに特に困難がある場合は、パソコンのワープロに含まれるフォントや文字の大きさ、文字の間隔、ふりがな、ルーラー機能などを活用することで、読みやすいレイアウトの文章を作ることも可能である。その他、全盲の人向けに開発された画面読み上げソフトも一部利用可能である。

3 記憶への支援

注意欠陥/多動性障害の人が示す不注意などが理由で、大事な用事を思い出すことが難しい場合、近年進化の著しい携帯電話に含まれる機能を活用することが可能である。たとえば、黒板の文字を覚えていたい場合は、携帯電話にあるデジタルカメラで撮影することが可能である。また、約束の時間を忘れないように、スケジュールのアラーム機能をリマインダー(物事を思い出させてくれる手がかり)として活用できる場合もある。

4 出力(表出面・書字)への支援

発語が不明瞭である等話し言葉の表出に困難を示す場合は、音声出力装置コミュニケーションエイド(Voice Output Communication Aid:VOCA)の活用も可能である。もっとも高度にハイテク化されたVOCAに Touch & Speak(図3)がある。これは、各個人に合ったレイアウトのボードを作成できるソフトとタッチパネル式のパソコンを合わせた意思伝達装置である。

図3 VOCA
写真 VOCA
写真は、アクセスインターナショナル販売のTouch&Speak

また、バーコード付き台紙を活用して、場面に合わせてシートを交換できるVOCAフレックス2は、発達障害者本人が場面にあった話題を管理できる可能性を持つコミュニケーション支援機器である(図4)。一方で、新たな機能はないが、これまでより安価に入手できるVOCAが開発されてきているのも最近の傾向である。

図4 VOCA
写真 VOCA
写真は、パシフィックサプライ販売のVOCAフレックス2

書字への支援については、パソコンの機能の活用が有効な場合がある。JIS規格配列のキーボードでは文字を綴るのが困難な場合は、50音配列のキーボードを活用することで、入力がスムーズになる場合がある。Windowsの日本語変換システムのIMEパッドの中には、50音配列に切り替え可能なソフトキーボードが含まれている(図5)。

図5 50音配列のキーボード
図 50音配列のキーボード
Windowsの日本語変換システムのIMEパッドの中にある、50音配列に切り替え可能なソフトキーボード。Windows XPでは、標準だが、Windows Vistaでは、Officeのインストールが必要

発達障害と言っても、その状態は個人個人によって異なる。従って正確な評価に基づいた支援方法を個人に合わせてカスタマイズすることが求められる。しかし、このカスタマイズを体系的に行える専門家はまだ少なく、このことは、新たな支援テクノロジーの開発とともに、本領域における今後の課題でもある。

(とうかわたけし 横浜市西部地域療育センター)

参考図書:「発達障害の子どもの「ユニークさ」を伸ばすテクノロジー」中邑賢龍著、中央法規出版、2007

(文中で紹介した製品の問い合わせ先)