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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年8月号

高次脳機能障害者を支援する福祉機器・用具

粂田哲人

はじめに

「高次脳機能障害」は、脳卒中や脳腫瘍などの病気や交通事故などにより脳に損傷を受け、その後遺症などとして生じる注意や記憶、思考、問題解決などの認知や行動の障害全般を指す。

高次脳機能障害が原因となり、生活上で現れる問題はさまざまである。記憶障害により予定を忘れてしまい、スケジュール通り行動ができなくなる。注意障害により薬を飲み間違える、料理で火を使いながら洗い物をしていると火加減に注意できず鍋を焦がしてしまう、段差に気づかず転んでしまうなどである。さらに、自分にこのような症状があることに気づきにくい場合(病識の低下)があり、本人が生活上の問題を感じず、支援の必要性を理解してもらえないことがあるという点が特徴的である。

このような高次脳機能障害により生じる生活上の問題を解決・支援するために、福祉用具・機器の活用は有効であるが、高次脳機能障害者を対象に開発された福祉機器・用具は極めて少ない。しかし、一般向けに市販されている機器・用具が、高次脳機能障害による問題を解決するために利用できることがしばしばある。

機器・用具を支援に利用する時のポイント

高次脳機能障害は複数の症状が同時に生じる場合があり、機器・用具の利用に当たっては、この点について特に配慮する必要がある。

1.本人が機器・用具を利用する必要性を感じること

たとえば、注意や記憶障害のためスケジュールが守れなくても、「もともと時間にルーズだから大丈夫」と病識が低下しており障害に対する気づきがなく、問題を補うための機器・用具の導入が困難なことがある。生じている生活上の問題に対して気づきを促し、それが高次脳機能障害によって生じた問題であることを本人が理解することが重要である。

2.機器・用具の正しい使い方を覚えられること

新たに機器・用具を利用する際、操作手順が複雑で覚えられない、機器の設定や携帯すること自体を忘れるなどの問題が生じることがある。その場合、手順をメモにして書き出しておく、外出時の持ち物一覧表を作り、玄関の目に付くところに貼っておくなどの対策も必要になる。そのための準備には家族など支援者の協力が欠かせない。また、使いこなすまで時間がかかる場合も多く、根気よく対応することも必要となる。

支援のためのさまざまな機器・用具

高次脳機能障害者の生活支援などを目的に開発された福祉機器・用具として、以下の2点を紹介する。

生活・就労支援などを目的に開発された機器としては明電ソフトウエア(株)の「メモリアシスト」がある。携帯端末とソフトウエアで構成されており、ソフトウエアにより文字や画像を用いてOA機器の複雑な操作手順などを登録し、携帯端末に表示して参照しながら作業ができる。また、スケジュール機能も搭載されている(写真1)。

写真1 メモリアシスト
写真1 メモリアシスト

自動ブレーキ機能つき車いすは、注意障害によるブレーキのかけ忘れで転倒が考えられる場合に、安全を確保する目的で開発された用具である。数社から発売されている。

次に、市販品で高次脳機能障害による生活上の問題を解決・支援できる機器・用具を紹介する。

1.覚えておきたい内容の保存

相手の話していることが覚えられない、メモを取っている間に用件を忘れてしまう場合など、ICレコーダーが役立つ。録音機能で会話を記録しておき、後から何回でも再生して確認することができる。

2.スケジュール管理

予定を忘れてしまいスケジュール管理が困難な場合、「○○する時間になった」など用件を録音でき、設定時刻に自動再生してくれる機能がついたICレコーダーが利用できる1)。ただし操作方法が覚えられない場合、手順書を作って反復練習することなどが必要となる。

短時間のスケジュール管理にはタイマーが利用できる。「15分後に給湯器のスイッチを切る」など予定が決まっている場合、タイマーを設定し用件を書いたメモを本体に貼っておくことで、時間通りに行動することを助けてくれる。ただしタイマーが鳴っても自分への合図だと気づかない場合は、首から下げるなどの工夫も必要になってくる。

後ほど述べるが、携帯電話のスケジュール機能は1週間~1年といった長い期間でのスケジュール管理に利用できる。

3.薬の飲み間違い

薬局などで販売している服薬カレンダーや、タイマーつきの薬入れなどが利用できる。

4.火の管理

注意障害などで火の消し忘れがあり、火災の危険が考えられる場合は、温度センサーによる自動消火機能のついたガスコンロの利用や、電磁調理器の利用が考えられる。新たに電磁調理器を購入する場合は、操作手順がシンプルなものを選ぶことが重要である。

5.安全管理

注意障害や病識低下のため、ベッドからの乗り移りや屋内の移動が危険であるにもかかわらず一人で行ってしまう場合や、いったん自宅から出ると道順を忘れてしまっているために帰宅できないという問題のある場合など、離床センサーや人感センサーが利用されることがある。ベッド脇の床や玄関に置いておくと、離床や外出しようとした時に介助者に知らせてくれるので、見守りの必要が少なくなり、介助者の負担も軽減できる。

注意障害により屋内の段差で転びやすい場合、体を支えるためだけでなく、段差の目印として目立つ色の手すりを設置する場合がある。福祉機器・用具の情報はインターネット上でも公開されているので、参照されたい(こころWeb(http://www.kokoroweb.org/))。

最後に、高次脳機能障害者への機器・用具の有効性と使用定着に至るまでの流れを示す実例として事例を紹介する。

スケジュール管理に携帯電話を利用した事例

Aさんは交通事故により、注意障害、記憶障害などを生じた。記憶障害のため予定が覚えられず、時間通りに通院することや、約束事を守るのが困難であった。スケジュール帳は持っていたが、携帯するのを忘れてしまう、予定を記入しても必要に応じて確認できないことがあり、実用性は低かった。予定が分からなくなると、家族に確認しており、家族の負担も大きかった。

Aさんもスケジュールが守れないことを不便に感じていたため、携帯電話のスケジュール機能の利用を試すことにした(写真2)。

写真2 携帯電話のスケジュール機能
写真2 携帯電話のスケジュール機能

携帯電話が有効と考えられたのは、メールのやり取りで日常的に使用していたため操作に慣れており、ストラップで吊り下げているため置忘れがなく、アラームで本人に合図を送ることができるためである。

まず週に1回通っていた作業療法で、次回の予約日時を入力し、アラームを設定した。操作の手順は、繰り返し作業療法士と一緒に行い、約1か月(4回目)で習得した。同時に他の訓練部門の予約も入力し、スケジュール機能を使う頻度を増やした。その結果、訓練時の遅刻はなくなり、自分からプライベートな予定もスケジュール機能で管理するようになり、今までスケジュール管理をしていた家族の負担も軽くなった。

おわりに

高次脳機能障害者が利用しやすい機器・用具に共通する条件は、機能がシンプルで、操作手順が少なく操作が分かりやすいことである。今後、そのような機器・用具が多く開発され、利用できるようになることを期待したい。

(くめたあきと 横浜市総合リハビリテーションセンター 作業療法士)

【参考文献】

1)安田清:もの忘れを補うモノたち―簡単な道具と機器による認知症・記憶障害の方への生活支援5、訪問看護と介護、Vol.12、No8、682-687、2007