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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年8月号

ワールドナウ

国際連合第63回総会へ向けて
―障害者政策の3つの流れ

伊東亜紀子

国連障害者世界行動計画とポスト条約後の国連における障害者政策の枠組み

国連では第63回総会に提出される「障害者に関する世界行動計画実施に関する事務総長報告書」(The fifth review and appraisal of the implementation of the World Programme of action concerning Disabled Persons)がこの秋の総会に提出される。この協議では、障害と開発、そして障害者権利条約が発効した新たな段階における国連の障害者政策が焦点となる。

昨年、国連総会決議62/127「障害者に関する世界行動計画の履行―障害者とミレニアム開発目標の達成」の採択で、障害を開発のプロセスにメインストリームしていくために、ミレニアム開発目標を実施していくプロセスおよびそのモニタリングに障害をメインストリーム化していく方向性が確認された。

この5年ごとの報告書は、障害者権利条約の起草等で遅延、それと同時に世界行動計画の内容自体を更新する必要と、その具体案も同時に事務総長報告書の付帯文書(Annex)として提出されるべきことも決められた。

本来の世界行動計画の目的である障害者の社会と開発へ平等に基づく完全参加が、国連の意思決定過程でいかに国連の枠組みの中で実際的、実践的に促進され、そのモニタリングを効果的に行うことができるようになるかが最も重要事項である。

これからの障害と開発の分野の主眼点は人権の概念、規範、モニタリングシステムがどのように開発に貢献できるか、障害者、そして障害自体の概念がこれからの開発援助、開発協力の中でいかに新たな視点を提供しうるかを考えていかねばならない。

障害者権利条約締約国会議

障害者権利条約の締約国は、2008年7月25日現在で30か国にのぼる(http://www.un.org/disabilities/default.asp?id=257)。そして、11月3日には障害者権利条約委員会の委員の選出が行われる。しかしそれ以前に、将来的に締約国会議が担う役割を条約の実施に関する内容にも関わっていくべきだとする案が話し合われると考えられる。また締約国間協議であっても、障害者の組織をはじめNGOの声をより反映しやすいような体制にするべきであるとの意見が出されており、今までになかった新たな締約国会議の形態が模索されている。

障害者の機会均等化に関する標準規則の特別報告者の任命─国連社会開発委員会

昨年までは、国連の政策決定過程では「障害者の機会均等化に関する標準規則」は、社会開発委員会の討議を経て経済社会理事会による決議が行われた。またその一方、障害者権利条約起草のプロセスとその関連決議および「障害者世界行動計画」実施に関する決議は総会で、というように別々に扱われてきたが、前述のフィリピン決議案から、「3つの柱」として、世界行動計画の実施にもその「シナジー」(相乗効果)が盛り込まれることとなった。

一方、「障害者の機会均等化に関する標準規則」実施のモニタリングを任されている社会開発委員会の特別報告者は、今年末で任期切れとなるが、障害者権利条約の締結で新たな障害者に関する政策的枠組みが拡大したことを受け、特別報告者の任期を1期(3年)更新することと、障害者政策の「3つの柱」に共通する障害者の人権全般に関する意識改革を、特別報告者の任務の一部とする決議案が提出された(E/CN.5/2008/L7“Further Promotion of Equalization of Opportunities by, for and with Persons with Disabilities and Protection of their Human Rights”現在は、カタール出身のシェイカ・ヘッサ・アルタニ氏が特別報告者に就任している。)

この社会開発委員会における決議は、本年7月24日の国連経済社会理事会で採択された。この決議に基づいて、国連から加盟国に送られる文書に基づき、特別報告者の加盟国の推薦が求められる。この推薦によって国連内部で協議を重ねた後、事務総長が今年12月までに特別報告者を任命することになる。今までよりも、前述したような3つの障害に関する国際文書―障害者権利条約、世界行動計画、標準規則のシナジーの下に、標準規則の実施のモニタリングの報告者となるという位置付けであるため、どのような人材が推挙されるかに関しても関心が集まっている。

以上、国連における障害者政策の3つの柱の流れは、この秋それぞれ別の経路をたどって一つの流れに合流し、これからの国連障害者政策の枠組みを形成することとなる。国際規範が各国、世界中の地域の障害者政策の礎となり、障害を通じて社会改革の動力源となることが期待されている。

(いとうあきこ 国連経済社会局社会開発部国連障害問題権利条約事務局チーフ)