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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年3月号

今回の予算案に対する不安と今後への期待

西村正樹

はじめに

障害者の自立生活を支援するために良質な障害福祉サービスの確保と、その推進および今年の4月に5.1%の報酬の改定を行い、人材確保、サービスの質の向上、事業者の経営基盤の安定等を図るため「平成21年度障害保健福祉関係予算案の概要」が示された。

そこで示された、利用者負担に関する「資産要件」の廃止と「心身障害者扶養共済給付金」の収入認定からの除外については、一定の評価をしたいが、生活保護の収入認定から除外されているこの給付金が今日まで収入認定されてきたことは、この制度の根本的な問題を反映していると改めて感じてしまう。

また、与党プロジェクトチームが「抜本的見直しの基本方針」で示した応益負担の廃止との整合性がないことは、制度発足時に続き、3年目の見直しに当たっても、再び、大きな混乱を障害当事者、事業者および地方自治体等にもたらすことが懸念される。

予算は増額されたのか?

自立支援給付(福祉サービス)については、前年度予算の4,945億円に対して2.6%増の5,072億円の計上にとどまっており、昨年、概算要求として示された5,231億円に比較して3.1%減になっている。

これは平成20年度で補正減額予算が組まれたことにより、予算額が4,733億円に減額され、この額に対して5.1%を積み増した額であることが、昨年12月25日に開催された全国障害保健福祉関係主管課長会議で説明されている。

しかし、重度障害者の介護サービスに関して、国庫負担金の不足により市町村の持ち出しが生じていることを考えれば、補正減額が組まれたことに疑問を感じる。

確かに制度発足以降、毎年、予算が増額されてきたことは事実である。しかし、障害者自立支援法制定時の国会においては、わが国の障害福祉関係予算の国際的水準が、先進諸国の中でも低いものであることが指摘されている。

そして、その低い基準を基本とした伸び率であることから、現在のわが国の障害福祉関係予算に求められる水準がどのようなものかが明らかにならなければ、これまでの障害福祉予算増に対する評価は、困難である。

必要なサービスは確保されるのか?

厚生労働省は2月20日、障害福祉サービスを提供する事業所へ支払う報酬について、今年4月からの改定案を発表した。

そこでは、報酬単価の引き上げや利用時間の細分化、および重度障害者へのサービス提供に関する事業所への加算等が示されている。こうした内容は、現場の状況や現場の声を踏まえたものであり評価することができる。

しかし、これらの内容が、来年度、障害福祉サービスにどのような影響を及ぼすかを考えたときに、不安を覚える。

それは、現行よりも介助労働者の給与等が改善され、事業所の安定経営が確保されたとしても、同時に、障害者が必要とする重度訪問介護等のサービス時間が、十分に確保されるのかということである。

現在のサービス提供を中心とした市町村格差や必要とするサービス時間が確保されない大きな要因は、現行の国庫負担基準である。

現行の基準では、市町村の財政負担が多く、結果として、市町村の財政規模による格差や国庫負担基準を基本としたサービス支給量の上限が設定されている。

こうした現状からも国庫負担基準の見直しは極めて重要であり、今後示されるであろう、その見直し内容によっては、障害者が必要とするサービスの確保は、現状よりも困難になる可能性もある。

この現状に対しては、平成20年度補正予算として「障害者自立支援対策臨時特例交付金に基づく基金」の延長・積増しによる事業のひとつとして示された「重度訪問介護の利用促進に係る市町村支援事業」が新設され、国庫負担基準超過市町村に対する一定の支援策が盛り込まれている。

この新規事業の実施は評価できるが、反面、政令指定都市および中核都市が対象外であることや、制度の根幹的な課題を一時的な基金事業ではなく、国庫負担基準の見直しによって取り組むべきであることを指摘したい。

おわりに

「障害者自立支援法」は、1.障害種別ごとに縦割りでサービスが提供されており、施設・事業体系が分かりにくく使いにくい、2.地方自治体間の格差が大きい、3.財源確保が困難である、ことを問題点として指摘し、こうした課題を解決するために制定されたはずである。また、その法律名のとおり、障害者の自立を支援するために制定されたはずでもある。

しかし、制度の複雑さや市町村格差は増大し、財源の確保も不十分な現状である。

現在、政府は、障害者権利条約の早期批准を目指しているという。今後のわが国の障害者施策が、この条約にふさわしい、障害者の参画と、障害者の自己決定と自己選択を尊重し、障害者の地域での自立生活を支援するものとなることを期待したい。

(にしむらまさき DPI日本会議副議長、DPI北海道ブロック会議議長)