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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年3月号

障害保健福祉関係予算から見えるもの

崎濱秀政

1 はじめに~予算の全体像を俯瞰(ふかん)して~

平成21年度障害保健福祉関係予算案における「就労支援」を切り口に俯瞰してみた。就労支援においては、工賃倍増事業と障害者就業・生活支援センター事業に関する地域生活支援事業からの予算の移替が主な施策である。これらは、障害者雇用施策と有機的な連携がなされなければならないことは論を待たない。障害者雇用施策関係予算では前年比21%増となっており、一層の充実が企図されている。予算執行の面でも、福祉と労働の十分な連携が図られることを期待したい。

2 地域生活支援事業

これまで障害者就業・生活支援センター事業の生活支援に関する事業は、各都道府県の地域生活支援事業の一環として行われている事業に対し、国が補助する形をとってきた。今回の予算案でも補助の形態が変わるわけではないが、独立した予算額が確保された点は大きな進展といえる。しかしながら、このことが、各都道府県において就業・生活支援センター増設や機能強化に対する追い風になるとは考えにくい現状がある。

その理由は、予算として確保されても補助率の増加や国の直接的な指導が入るわけではなく、あくまでも設置については自治体の意向が最優先となるからである。国の成長力底上げ戦略を受けて、多くの自治体が各障害保健福祉圏域に1か所ずつの配置をすることは障害者計画に記載されている。

ところが予算的な措置の厳しさ、担い手の不足から遅々として進まないという現状ではないだろうか。就業にかかる「生活支援」という事業は、幅が広く、そして奥の深いことは言うまでもない。その事業の特質や地域における役割、あるべき姿をしっかりと明示していく必要がある。国策として配置を位置づけている以上、各都道府県任せではなく、予算的裏づけをもって具体的な施策展開を望みたい。

3 工賃倍増事業

工賃倍増事業に関する施策においては、各都道府県が5か年計画を策定しているところである。そこでは福祉施設の経営基盤(ヒト・モノ・カネすべてにおける経営財産)の脆弱さを課題として、経営力の強化をうたっている。いくら福祉の経営基盤が強化され収益力が向上しても、利用者の工賃は大きく向上されるとは考えにくい。設備投資等の借入に係る債務保証料への助成が挙げられているが、ハード面を整備するよりも、施設経営者が経営者足るにふさわしい人材とならなければ工賃向上は望めない。

また、地域の実情に応じたコミュニティー・ビジネスの主体者として、福祉サイドが機能できるようにするためにも経営者の意識改革は不可欠である。

4 人材育成

就労支援の推進には、何を置いても人材育成以外にはない。育成が必要な人材には、次の3つが挙げられる。

一つめは、「経営者の育成」である。工賃向上とも関係してくるが、障害者雇用をキーワードにしたビジネスモデルを構築できるような戦略的経営者の育成が必要である。障害者雇用施策においても、中小企業に対する障害者雇用促進施策として、事業協同組合の設立助成などが盛り込まれている。この点を活用しながら、既存の企業への雇用を推し進めるだけではなく、積極的に起業することも必要となってくる。

二つめは、ジョブコーチの育成である。予算案においては、就労移行支援事業の配置職員の育成としての表記であるが、ジョブコーチ・スキルは一般就労のみに奏功するものではない。福祉施設での支援においても必要不可欠なスキルである。このスキルを学べる機会を広く拡大すべきである。また、精神障害者や発達障害者の支援においては、心理やカウンセリングの知識や技術も必要になってくる。この点の研修も強化していく必要がある。

三つめは、就労支援にかかるケアマネジメントのコーディネーターの育成である。おおむね就業・生活支援センターの主任就業支援担当者やセンター長、あるいは就労移行支援事業所のサービス管理責任者がコーディネーターを担うことになるであろう。さまざまな機関の連携を機軸に就労支援が構築されていくうえで、サービスのマネジメントは非常に重要となる。また、個別支援計画の立案前のアセスメントや見立ては、一人の人間の人生を大きく左右する。この点にかんがみ、人間的な魅力と優れた技術に裏打ちされた人材を育成していく必要がある。

いずれにしても、人材育成なくして発展はない。その視点で予算を見ると、やはり事業者の意識に頼らざるを得ない状況である。報酬単価が引き上げられることにより、事業経営のいくばくかの助けにはなるだろうが、支援者の待遇向上に資するまでには届かないであろう。最悪の経済情勢により労働市場に人は余っている状態ではあるが、就労支援の現場に集まるほど、職員の待遇は高くない。

人材育成の前に人材確保をどうするかは非常に大きな課題である。どんな素晴らしい理念や施策も、それを担う人材なくして具現化されることはない。人材を確保し、処遇を適切化して長期安定雇用に裏打ちされた人材育成ができない限り、どんな施策も空回りすることとなる。今回の予算案でもこの不安を払拭することはできなかった。

(さきはまひでまさ 社会福祉法人名護学院)