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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年3月号

障害保健福祉関係予算だけでは見通せない

中野敏子

1 取り巻く状況の変化

予算内容は、地方自治体、サービス運営事業体、そこで働く人たちに大きく影響してくる。しかし、最も影響を受けるのは、その予算内容によって決められたサービスを活用して「暮らす」人である。その「暮らし」が具体的にどのような変化を受けるのかである。今年は、以下の点から、今まで以上にその項目と予算額に厳しい目が注がれることになるであろう。

一つは、言うまでもなく、障害者自立支援法が施行(平成18年)されて3年後の見直しの年にあたるからである。見直しにあたっては、同法の制定の際、「附帯決議」として示された多くの課題を含め、すでに『社会保障審議会障害者部会報告~障害者自立支援法施行後3年の見直しについて~』(平成20年12月16日)によって、改善点が指摘されている。平成21年度予算がこれらの改善点にどれだけ応えたものであるかが評価されることになる。

二つ目は、障害者自立支援法の制定に向けて検討してきた時期、あるいは施行後、具体的に取り組まれてきた過去3年間と比較して、大きな変化要因が加わっていることである。つまり、今、出会っている世界的規模の経済危機である。生活の基盤が揺らぐ中、障害保健福祉予算がどれだけ暮らしの支えとして働いていくことになるかが懸念される。生活を支えるほかの施策状況、特に所得保障の実態が大きく影響してくるであろう。

2 障害者自立支援法体系実現の強化

障害者自立支援法による仕組みはまだ移行期にある。したがって、平成21年度予算は、新しい内容を示すというよりも、この体系を実現するために、新体系の発足以来指摘されてきた課題点を細部で補足修正する姿勢といえる。いくつかの特徴をとらえてみたい。

第一は、就労支援を抜本的に強化するという方針は揺るがず(24億円)、工賃倍増5か年計画、一般就労への移行・定着に対するきめ細かな報酬評価を実施し促進する方向も示されている。また、職業安定局予算でも障害者の中小企業の雇用促進を含める「福祉から雇用へ」推進5か年計画の推進(165億円)予算が組まれている。障害保健福祉部予算内でも発達障害者支援施策が拡充されるが、就労支援については、障害保健福祉部と職業安定局の協働による推進がなされる。

ところで、重点項目にある「自殺対策の推進」は、ストレス社会に苦しむ人々の存在をますます浮き彫りにするものであり、就労支援の抜本的強化とともに目配りしておかなくてはならない内容といえる。

第二は、サービス利用者負担軽減措置の継続である。それには加えて、資産要件の廃止、心身障害者扶養共済給付金の収入認定からの除外を実施するとある。しかし、利用者からその変更を強く要求されてきた「応益負担」の原則は変わっていない。そこで、その「応益」として、すなわち、負担するだけ「益」として利用者一人ひとりに提供されるのかが気になるところである。

この点に関連して、第三に、この「益」を担保するために「良質な障害福祉サービスの確保」が予算項目として配置されている(5,072億円)。新しい給付体系を支えるサービス提供に関してなされた規制緩和は、法外資源でありながら、実質的に障害のある人の地域での生活を下支えする機能を担ってきた小規模作業所に「報酬」という運営上の安定材料を提供する道を開いた。

しかし、一方で、人員配置要件の緩和、日払いなどの要素は人件費の削減による運営の安定化などの傾向をもたらし、不安定な雇用条件とともに福祉サービスからの人の流出という事態に連なることにもなった(『福祉新聞』2008年12月1日版)。

今回の予算の一つの目玉とでもいえる「報酬5.1%引き上げ」は人材確保、経営基盤の安定化、サービスの質向上に当てるようにとある。では、これはどのようなサービス事業体にも潤滑油の役割を果たすことになるのだろうか。たとえば、サービス利用計画作成費給付対象を拡大するなど、相談支援充実を明記している。対象拡大には、合わせて、サービス事業者の「報酬」と利用者にとっての「益」が相当であることを見えるようにしていかなくてはならない。報酬単価の評価のせめぎ合いを通して、この予算の実質が見えてくることになるだろう。

3 課題を見据えて

利用者個人の生活の充実という意味からは、障害者自立支援法の機能に応じたサービス体系(日中活動の場と住まいの場の分離)がどのようなサービスの質の向上となっているのかを実証していく必要がある。それには、具体的な支援方法の質的向上は利用者の「暮らし」にどのような状況として現れるか、共通理解が求められる。個別支援計画が重い意味をもっている。

一般就労への就労支援強化がなされることは、相対的に、工賃支給型でない生活介護事業や地域活動支援センターのサービス内容の充実の必要性を明確にしていく努力が必要であろう。

そして、児童は、児童福祉法に位置付けられることになった。そのことがどのような内実をもたらすのか、予算上ではまだ見えない。その動向を注目しておかなくてはならない。

(なかのとしこ 明治学院大学教授)