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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年3月号

障害者自立支援法施行後3年の見直しについての概要と解説

成田すみれ

はじめに

平成18年4月に一部、同年10月に全部が施行された「障害者自立支援法」は、附則において、施行後3年を目途として法律の規定について検討を加え、必要な措置を講じることとされています。また、施行以降、現場からは利用者負担などさまざまな課題が指摘され、平成19年12月には「与党障害者自立支援に関するプロジェクトチーム」より、障害者自立支援法の抜本的見直しの視点と9つの見直しの方向性が提示されました。

このような背景のもと、国は社会保障審議会障害者部会(部会長:潮谷義子前熊本県知事)を開催、平成20年4月から延べ19回(関係団体ヒヤリング7回含む)の会合を持ち、重要な課題について議論を重ね、12月に部会報告としてまとめました。

以下、この報告書の紹介と課題のポイントについて記載します。

概要(報告書のねらいと見直しにあたっての視点)

本報告書は、障害者自立支援法各事業と関連事項を7テーマ(1相談支援、2地域における自立した生活の支援、3障害児支援、4障害者の範囲、5利用者負担、6報酬、7個別論点)に分け、今回の見直しで対応すべき事項、および今後さらに検討しなければならない事項として取りまとめたものです。また、今回の報告に基づき、国は見直しに係る関係法律・制度の改正、今春4月の障害福祉サービス費用の報酬改定など具体的な制度改正について検討や実現を図ること、併せて現在政府で検討されている「障害者の権利に関する条約」の批准に向けて、障害者自立支援法との整合性を図ることなどを提言しています。なお、本部会では見直しに際して、次のような視点が基本的に必要と確認されました。

  1. 障害者にとってより良い制度となるかどうかという、「当事者中心に考えるべきという」視点
  2. 障害者ができるだけ地域で自立して暮らせるようにするという基本理念の下、「障害者の自立をさらに支援していく」視点
  3. 安定的なサービス提供体制の確保という観点も考慮しながら、不都合については改善を図り、「現場の実態を踏まえて見直していく」視点
  4. 障害者の自立を国民皆で支え、共生社会を実現していくため、「広く国民の理解を得ながら進めていくという」視点

各テーマの課題と対応

1 相談支援

  • 地域における相談支援体制の強化(質的向上、相談支援の拠点的機関の設置)
  • ケアマネジメントの充実(サービス利用計画作成対象者を全障害者に拡大、ケアマネジメントに基づいて市町村が支給する仕組みを導入)
  • 地域自立支援協議会の充実、法律上の位置づけを明確化

2 地域における自立した生活のための支援

1.地域での生活支援

  • 地域移行への計画的な支援充実と、地域生活移行支援をするための工夫(退院・退所に向けたケアマネジメントの実施、入院・入所時から地域生活の体験ができる体験宿泊等の仕組みを検討、公営住宅の活用によるグループホーム・ケアホームの整備促進と質的充実、身体障害者のグループホーム等利用)
  • 緊急時に対応できる24時間サポート体制の充実(個別給付化の検討)

2.就労支援

  • 就労移行支援事業および就労継続支援事業の充実(一般就労への移行実績の評価、支援スキル保有者の配置、就労後支援体制の充実、本人適正評価のための短期就労移行支援事業の利用)
  • 工賃引き上げの取り組みの継続(官公需の優先発注等)
  • 障害者就業・生活支援センターの充実、人材育成、関係機関の連携強化等

3.所得保障

  • 障害基礎年金の水準引き上げ(社会保障制度全般の議論との整合性や財源確保も含め検討)
  • 住宅費支援(高齢者や母子施策との要整理と十分な検討)、地域移行必要経費検討

3 障害児

  • 障害児施設の一元化(多様な障害の子どもの受け入れ)、保育所等巡回支援機能充実
  • 放課後や夏休みの支援のための「放課後型デイサービス事業」の実施
  • 入所施設利用児の満18歳以降の障害者施策対応への見直し、支援の継続性確保、重症心身障害児・者の一貫した支援への十分な配慮

4 障害者の範囲

  • 発達障害や高次脳機能障害の自立支援法対象への明確化
  • 難病等支援の制度体系については、今後さらに検討

5 利用者負担

  • 利用者負担のあり方は今後ともさらに検討が必要。現在の利用者負担の仕組みについて所得に応じたきめ細やかな軽減措置の実施を国民へ明確にしていく
  • 特別対策等による負担軽減は、平成21年4月以降もさらに継続して実施
  • 障害福祉サービスと補装具の利用者負担を合算して軽減する制度を検討
  • 自立支援医療との合算は、医療保険制度との関係を含め今後さらに検討
  • 心身障害者扶養共済給付金の収入認定時の取り扱い、利用者負担軽減の際の資産要件の見直しについて検討が必要

6 報酬

  • 障害福祉サービスの質の向上、良質な人材の確保と事業者の経営基盤の安定のため平成21年4月に報酬改定を実施

7 個別論点

1.サービス体系

  • 「日払い方式」を維持しつつ、事業者の安定的運営が可能となるよう報酬の見直し
  • 利用者が欠席した場合等においても体制を整えていることなどにも着目し、報酬改定等において必要な措置
  • 旧体系施設の新体系への移行では、安定的運営ができるよう報酬改定等での見直し

2.障害程度区分

  • 身体障害、知的障害、精神障害の各特性を反映するよう抜本的に見直し、実際に行われている支援の実際に関する調査を早急に実施
  • 障害者支援施設の入所要件について、重度者という基本的考え方を維持しつつ、障害程度区分が低いものであってもケアホーム等での受け入れが直ちに困難な者は、一定の要件下での利用ができるようにすべき
  • 旧法の施設入所者の継続入所は、平成24年4月以降も継続
  • 訪問系サービスの国庫負担基準は区分間合算とも継続しつつ、重度者に配慮しながら額を見直し、小規模な市町村への財政的支援を検討

3.地域生活支援事業(統合補助金)

  • 重度視覚障害者の移動支援など、自立支援給付とすることを検討
  • 小規模作業所移行のため、地域活動支援センターについて、より少人数での活動形態を検討すべき

4.サービス基盤の整備

  • 福祉人材確保指針に基づく取り組みを進めるとともに、適切な給与水準を確保するため適切な報酬を設定
  • 中山間地等のサービスを確保するため、報酬上の加算措置、多機能型事業所の人数要件の緩和、小規模施設への配慮を検討

5.虐待防止・権利擁護

  • 障害者の虐待防止について、現行法に基づく取り組みとともに、虐待防止法を検討
  • 「成年後見制度利用支援事業」等の活用を進める

6.精神保健福祉施策の見直し

  • 精神科救急医療体制や市町村、保健所、精神保健センターの相談支援体制を充実
  • 精神保健福祉士の養成をあり方等を見直し

7.その他

  • 障害者の権利に関する条約の批准に向けて検討が進められるべき

おわりに

この報告書全54ページは、自立支援法が多くの障害者の課題や思いを消化せずに施行された経緯と事実を象徴するかのように、多岐に及ぶ問題や、対応すべき事項、示唆を含んでいます。障害を伴って人が生きること、生活をする、暮らしていくことの個別性や多様性をどう保障し、支えることができるか、そのための社会的スキームとしてはまだ未成熟で不備な点も目立ちます。今後も当事者の視点からの点検や精査をきちんと図りながら、障害者を巡る環境の変化を踏まえ見直していくことが必須です。

(なりたすみれ 横浜市総合リハビリテーションセンター)