音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年3月号

1000字提言

浅はかなり クローズアップ現代!

橋本みさお

「私の呼吸器を外してください」と題した番組が2009年2月に放映されました。前年の首都圏ネットワークに続いて、2度目のニュース特集であります。ALS患者の主張が、せめて「いますぐに、私の呼吸器を外してください」であれば、チョットは手伝えるのだけれど、しょせん「たら?れば?」の話であります。

「私のコミュニケーションがとれなくなったら人工呼吸器を外し、自然に任せて【勇気ある撤退?】をしたい」とのことであるそうだ。勇気ある…については、私自身触れられない。なぜならば、私の【勇気レベル】は信じられないくらい低くて、とてもとても一般の人々と勇気について語れない。資質と言われれば返す言葉もないが、普通に根性無しであります。

そもそも人工呼吸器は、いとも容易(たやす)く外れてしまうものです。かくいう私も何度か【偶発的な撤退】をさせられかけてきた。かなり苦しいことをお知らせしておこう。せめて安楽死メニューの選択をしておかないと、呼吸器を外して2分後の断末魔が待っている。その瞬間に立ち会ったすべての人にとって、幸福な死が訪れることを祈らずにはいられない。

NHKを責める筋合いのものではないのですが、記者さんはやり過ぎだと思うぞ。NHKの取材を受けて15年。いつもALS患者と家族の置かれている苛酷な療養環境に配慮し、乱暴な番組は作らない。松岡幸雄初代事務局長に紹介していただいた記者氏は「橋本みさおさんは一般的な患者に見えないので誤解されますね。今回は他の人にお願いしましょう」と仰(おっしゃ)いました。そう言われればそうですね。当時から24時間他人介護で家族介護は嫌!!の家でした。障害者ヘルプサービスが応能負担の時代で、経済的な余裕は、楽しくなるほどありませんでしたが、東京都民だったから貧しさが楽しくもあったのです。都民は命が買えたのです。民間の看護派遣会社も医療行為を任せられる介護事業所もありました。地方には今もありません。

現在(いま)を語る患者に取材してもいるのに、記者さんの拘(かかわ)りは「私の呼吸器を外してください」なので、キラキラした患者の意見を排除し、初回は橋本みさお、今回は松本茂名誉会長でお茶を濁している。姑息!2人とも立場上、本音や個人の利益に帰する発言はできない!案の定、終末期医療検討会のお呼びだしっ。コラっ!ポンが留守番だぞ。シノダッ!呼吸器、外れちゃうんだよ。

「たら?れば?でモノを言ってはいけません」は、父の残した貴重な遺産であります。もしも○○だったらは、○○の人が語るべきで私が語ってはいけないと思っている。

(はしもとみさお 日本ALS協会会長)