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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年3月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

障害当事者が行うバリアフリーリーダー育成プログラム

今西正義

「バリアフリー当事者リーダー養成研修」がDPI日本会議が呼びかけとなって、2008年10月と今年2月に2日ずつ計4日間のコースで、東京・新宿区障害者福祉センターで行われました。主催はバリアフリー障害当事者リーダー研修実行委員会で、エコロジー・モビリティー財団はじめ日本福祉のまちづくり学会、全国自立生活センター協議会(JIL)が共催になっています。東京・名古屋・大阪から、またそれ以外の地域から、北は秋田・山形、南は熊本・佐賀など全国各地から26人が参加しました。参加者の多くは各地で交通問題に長年取り組んできた人たち、また、新たにこれから取り組もうとする人たちで、いずれも交通問題に日ごろから関心の高い、車いす・電動車いすや白杖を使う視覚障害の人たちです。このバリアフリー当事者リーダーの育成プログラムは2007年度より取り組み、50数人の障害当事者が修了し、バリアフリー当事者リーダーとして各地域で活動を行っています。

設備改善が進む中で

交通バリアフリー法が施行されて8年が経過しました、駅や駅周辺の道路のバリアフリー整備は大きく改善が進んできています。しかし、バリアフリー整備が進展していく反面、鉄道やバスなど交通事業者の人的なサービスや運営のあり方が、改めて浮き彫りになってきました。移動円滑化基準など国の法律の定めに照らして、せっかく作られた施設や車両が使えなかったり、使いにくいものであったりします。また、障害への理解が乏しく配慮を欠く扱いや、設備の不慣れな操作により鉄道・バスの乗車、飛行機への搭乗、建物やレストラン等の利用で、一般の人と比べて不利益を被るケースが多々起きています。

他方、地域の生活関連施設のバリアフリー整備を委ねている市町村においては、基本構想策定の運営のあり方で当事者不在の状況が目立ち、協議会がまったく設けられないところや協議会を作っても当事者抜きであったり、当事者がいても一言の発言もないお飾り的なものであったりしています。

障害当事者の役割

このような状況を改善していくため、2007年に1回目の「バリアフリー当事者リーダー養成研修」をスタートさせました。この目的は、障害当事者がそれぞれの地域で行政や鉄道・バス事業者、施設管理者にきちんと意見や説明、提案できる人たちを増やしていくことです。30年前から車いすや視覚障害の人たちが鉄道・バスなどの設備改善を国や事業者に求めてきた運動の歴史を顧みながら、交通機関を利用する上での問題点や課題を共有すること。特に、新たな対象として知的障害や発達障害、精神障害、難病や内部障害など他の障害者や、ほかの地域での実情・実態を知るなかから、それぞれの地域の運動に活かせるものとして進めています。

また、基本構想策定協議会や委員会への参画や、その他の研修等の機会に、広い視野から障害当事者の立場で発言できる知識を得ていくことです。

2006年に施行された「バリアフリー新法」では、駅や乗り物、建物等の生活関連施設の整備に加え、ソフト面の整備として「当事者参画」と「心のバリアフリー」が法律の枠組みに明記されました。バリアフリー整備を進めていくPDCAサイクル(計画、実施、評価、改善)の各プロセスに当事者参画とスパイラルアップを、また、交通事業者が行う社員教育やマニュアル作成等にも当事者の意見を聞くことがうたわれています。

バリアフリー当事者リーダーの育成プログラム

このような背景のもとでバリアフリー当事者リーダーの育成プログラムが作られました。講師には、基本構想策定の委員長を数多く務めてきている、この分野では著名な先生方をはじめとして、長年、交通アクセス運動を牽引してきた当事者たちです。

プログラム内容は、1.法律の概要と基本構想の仕組みと先進事例、2.施設や車両の移動円滑化基準、3.リーダー研修の意義と目的、4.交通アクセス運動の背景と歴史、5.他の障害の理解と気づき、6.鉄道・バス事業者研修への当事者参画の事例、7.班グループ・ワークショップなど、実践として役立つポイントを4日間に凝縮して学んでいくものです。

昨年10月に行われたプログラムの一つ「基本構想づくり」では、当事者参画の先進的事例で「新宿駅周辺の基本構想づくり」と、住民提案による「土浦市の基本構想づくり」について発表がありました。参加者の中には中小都市で活動している人も多く、全国で初めて住民提案によりゼロから基本構想策定協議会を作らせた経過、障害者の結束や住民の巻き込み方、バリアフリーチェックの方法、マスコミの活用、行政や市議会とのやり取りなど、参加者は熱心に聴きいっていました。

また、今年2月の2回目の研修では、基本構想におけるワークショップを体験しました。実際に駅やまちを歩き、車いすや電動車いす利用者、上肢障害、言語障害、弱視や全盲、聴覚障害、知的障害など多岐にわたる視点より利用上の問題点や配慮など、バリアフリーチェックのポイントを確認しました。研修施設の周辺の4つの駅でグループごとに、駅前周辺の道路、地上から改札への階段やエレベーター、券売機や自動改札、ホームと車両の隙(すき)間と段差、可動式ホーム柵、乗り換え経路など、移動円滑化ガイドラインに沿ってチェックを行い、グループ討議と発表を行いました。

プログラム全体として、各講義ではディスカッションの時間をなるべく多く取り、単に法律や基準、障害の理解など知識を得るというものでなく、それぞれの人たちが各地で抱えている問題や新しい取り組みなどを共有できるように配慮しました。

エコモ財団との連携

バリアフリー当事者リーダーの育成プログラムを修了した人たちに活躍の場を提供することは大変重要です。せっかく、研修を受けたにもかかわらず具体的に活かす場がなければ活動を続けていくことは容易ではありません。

エコモ財団が交通事業者向けに試行的に行っている教育トレーニング「鉄道とバス事業者を対象にした研修」に、このプログラムを修了した人たちを積極的に講師として受け入れてくれています。受け入れの人数は多くはありませんが07年度は関東で、08年度は関西と仙台で、講師として加わりました。事業者が単独で行っていた職員研修と比べ、電動車いすや車いす、白杖を使う人たちが講師として、利用上の問題点や配慮の仕方について話したり、交流したりすることによる「気づき」の効果は高く、参加した乗務員さんの声からも明らかでした。

プログラムを修了したバリアフリー当事者リーダーは少しずつですが全国に広がりはじめました。各地域の基本構想づくりや交通・まちづくりの運動に、また交通事業者の研修へと機会を広げていくには、実行委員会だけでは困難です。この事業を継続していくには、「交通事業者との繋がりのある」「福祉のまちづくりの専門家集団」「自立生活を目指す当事者を抱える」3者の協力による連携と、それぞれが全国に持つネットワークを活用した支援体制を築いていくことが必要と考えられます。

(いまにしまさよし DPI日本会議バリアフリー担当アドバイザー)