「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年3月号
工夫いろいろ エンジョイライフ
実用編●帰るコール・着いたよメール、他●
提案者:伊藤薫 イラスト:はんだみちこ
伊藤薫(いとうかおる)さん
ピア・カウンセラー。中途視覚障害者へのプログラムを中心に、地域自立生活支援などを行っている。幸せを感じるのは、平安に1日が終わる時、家族が元気で朝の食卓に向かう時。作りたい料理がうまくでき、食べた人が満足すればなお良し!音楽・手作業好き。スポーツ系番組好き。アニメ好き(少年ジャンプ系が多い)。
帰るコール・着いたよメール
別段返信のいらないメールに、返事を返して来る娘。「いちいち返信はいいから」と以前言ったこともありますが、まてよ、と思いました。あまり連絡粗雑になられても困るかもしれません。物騒なご時世ですし、もうすぐ年頃の大事な娘です。
帰りが遅くなる時に、30分くらいの遅延を目安に無意識にやっていた「帰るコール」。そんな私の行動が彼女に影響を与えているのなら、それはとてもうれしいことだなと思います。だから最近は、遠出の出張の時など、できるだけ「着いたよメール」を送るようにしています。これも携帯電話の読み上げ機能のたまものです。
子どもを心配するのは、娘からみれば、ある意味母親の主観です。きっと徐々に、彼女の都合で、連絡をして来なくなるかもしれません。けれども、「心配している人がいる」とか「連絡する場所がある」という認識を深層に持って、心強く感じてもらえたらうれしいと思うのです。そして、約束を守るとか、変更などの連絡を取るという基本を習慣とする大人になってほしいと、社会人の先輩として願う、娘の隣人の私です。
ネット通販でパソコン上達?
CDはネット通販で買います。試聴できる商品が多いのも、ちょっと魅力です。割引商品も多く、複数サイトの価格を比較してから買うようにしています。曲のリスト、インデックスなども、スクリーンリーダーで反復して聞き直せるところが安心・気楽です。子どもに買う、通称「夏休みの本」も、夜中にネットで、自分が楽しみながら、紹介文や読者の感想を読みあさって検討していました。
またいろんな地域の美味しい物を取り寄せられるのも、食べ好きの私には重要。都内のお気に入りの和菓子店は、わざわざ買いに出るとしたら往復の交通費だけで約1600円。月に1、2度くらいしか多摩地区を出ない私では、ついでの時にと言っていたのでは、旬の限定品を食べ逃してしまいます。
近所では買えない美味しい日本茶を注文したり、家族での花見旅行を予約したり、高齢の親が病院からもらって来る薬を検索したり、インターネットは生活に密着したツールになっています。アナログな私がパソコンに慣れ親しんだのは、食べたさ・見たさ・聴きたさのおかげかもしれませんね。
聴覚障害者は情報保障のパートナー
聴覚障害の同僚は、情報保障の信頼できる相棒です。団体生活では、ふとしたことでも知りたい、逃せない情報がいっぱい。「○○さんがヘアスタイル変えたよ」「新聞記事の回覧が回ってるけど読もうか?」……。しばしばナイスな情報をくれます。私のほうも彼女に、「△△さんが『コンビニに行くけど何か買って来てほしい人いない?』ってみんなに声をかけてるよ」「あなたが不在だった昨日のミーティングで、忘年会の日取りが×月×日に決まったよ」と、耳から入る情報を流します。
ある夏の日に公園の並木で、「この道すごいせみ時雨なんだよ」と伝えると、「そうなの!気づかなかったよ!」と、とても喜んでくれました。彼女は口話と発声をするので、私はずいぶんそれに助けられていますが、詳細な約束や情報確認では、携帯やパソコンを使い、文字で確認し合います。彼女に頼まれて、急ぎの代理電話連絡をすることもちょこちょこあります。
こんな関係も、互いの経験の積み重ねで、タイムリーに望むことを提供したり、意思確認しあえるようになって来ました。いわゆる「情報障害」の私たち、チャレンジの日々は楽しく続くことでしょう。