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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年4月号

埼玉トヨペットにおける障害者雇用に対する考え方

渡辺新一

ショールーム内に「はあとねっと輪っふる」オープン

弊社のショールームの一角に「はあとねっと輪っふる」はあります。「輪っふる」には、地元の障がい者や子育て支援グループ、高齢者グループの活動の場としてさまざまな人たちが集まっています。本稿では、「輪っふる」誕生の経緯と就労支援についてご紹介します。

ロゴ はあとねっと輪っふる拡大図・テキスト

「輪っふる」の誕生は、2001年10月にショールームの一角を利用して福祉車両を展示する「ウェルキャブプラザ」のオープンがきっかけでした。

「ショールームにいつでも人が集まっていて、外から見ても華やかさがうかがえる、そんな場所ができないだろうか?」「空きスペースを活用して何かできないだろうか?」と弊社の平沼社長が模索していたところ、たまたまデイケアを運営されている電動車いすの方との出会いがありました。

その時の「グループでミーティングをしたくても、車いすで行ける場所がない」「障がい者だけ、健常者だけではなく、共に交流する機会がほしい」といった声が、地域貢献としてショールームを活用する構想につながりました。そして「輪っふる」を立ち上げるためのプロジェクトが結成されました。「OMIYAばりあフリー研究会」(通称バリ研)の方々と共に何十回ものミーティングを重ね、交流を深めていきました。

2002年4月1日、埼玉トヨペット本社1Fのショールーム内に「はあとねっと輪っふる」が誕生しました。「一緒にいることからはじめよう!」を合い言葉に、年齢、性別、障がいの有無などによって分け隔てすることなく、ここではさまざまな人々が「共にいることができる場」を基本理念に、人と人とのつながり(絆)を仕事や遊びを通じて体験的に考え実践していく場です。

準備期間中に足が遠のいていった人たちもいましたが、逆に足を運んでくれる人たちもずいぶんと増えました。その後、子育て支援グループや高齢者グループの参加もあり、利用する年齢層は本当に幅広くなりました。

平日に会議室を利用する団体も増え、現在は会議室とショールーム、野外を有効に活用しています。ホームページも立ち上がり、「かわら版」も定期的に発行し、毎月1回は世話人会議(6団体+2個人)を開いて「輪っふる」の進むべき方向を検討しています。

今年で発足から8年目を迎える「輪っふる」の課題は、今まで積み上げてきたもの、一つひとつの内容を充実させていくことです。そして、何か核になるものがほしいと思っています。

「輪っふる」だからできること、それはやはり「働く」ということではないかと思っています。モーターショーをはじめとする販売店主催のイベントでのアルバイト、関連会社での実習、定期的に開催している就労研究会も行っています。

平沼社長が投げた一石の波紋が、ゆっくりではありますが、大きな波紋になれるようこれからも活動を続ける「輪っふる」でありたいと思っています。

一緒にいることから……

私が「輪っふる」に関わるきっかけは、1枚の辞令でした。当時、異動になったのはいいのですが、何をしていいのか分かりませんでした。それまで30年間は車の販売と利益追求の世界、一転してノルマのない生活になりました。社長には、ゆっくりでいいからいろいろなことに「挑戦していこう」と言われました。

そのとき初めて「ノーマライゼーション」の文字が目に入りました。障がい者の方たちとショールームで一日中一緒にいることになりましたが、「何で俺が!この仕事を」と思っていると、当然、障がい者の方とコミュニケーションが取れずに何か月も悩んだ日々がありました。

もちろん、会社側も障がい者の就労に積極的に取り組んでいる状況ではありませんでした。しかし、障がいのある方と一緒に行動することにより、社内にも変化の兆しが見られるようになりました。それは、「輪っふる」の活動が少しずつ世の中に認められてきた頃だと思います。

心のバリアはなかなか取れませんが、「輪っふる」の仕事を通じて、たくさんの人と人との出会いが私の財産です。そして、今は皆さんと毎日楽しく、元気に仕事ができることに感謝しています。

就労実習

2003年1月に、弊社の子会社である「ハッポーライフ彩生」(発泡スチロールの再生事業)にバリ研のメンバーの2人(ダウン症のK君・半身不随の方)が初めて4日間の実習を行いました。私はK君と一緒に、電車とバスを乗りついで会社に行くことになりました。通勤途中での出来事や実習内容は、私が今までに経験したことがないことばかりで、その時のことは、いい思い出として心の中に残っています。

また、「輪っふる」スタート時から特別支援学校の先生と共に、障がいのある方たちが企業で実習を行うための勉強会を行いました。特別支援学校の生徒さんを受け入れることについて、当初、会社の上司は「仕事なんかないよ」「危ないからやめたほうがいい」等で、なかなか実習をさせてもらえませんでした。

そこで特別支援学校の先生と相談をして、仕事のできる元気な生徒さんに来ていただき、中古車の展示場で車を何台も洗車してもらいました。その他、DMのラベル貼りや事務所の掃除を行うことを通して、社員とコミュニケーションをとっていただきました。そうすることにより、社員にも障がい者のことを理解してもらえるのではないかと考えたのです。

このように、自分たちもいろいろな経験を障がい者の方たちと共に積んできました。おかげさまで、今では会社の各支店、各部署で、身体・知的・精神などの障がいをもっている方に実習をしていただきました(今まで53人)。その結果、特別支援学校や就労支援センター、施設から10人の方が入社し、埼玉トヨペットとハッポーライフ彩生で仕事をしていただいています。

この就労実習では、さまざまな声を耳にしました。ある先生からは「実習をしたので採用してください」とか、ある保護者の方からは「なぜ自分の子どもが働かなければならないのか」という声もありました。特別支援学校の生徒さんが、弊社で初めてアルバイトをしてそのアルバイト料をお父さんと一緒に受け取りに来られ「子どもが初めて働いてもらうお金です」と、お父さんがうれしそうに話されていたことは今でも忘れられません。

このように多くの方との関わりで、障がい者の方に教わることが数多くあります。障がいのある方が職場に参加することで職場内のコミュニケーションが増え、協力し合って生産性が上がるという話があります。“子どもは大人を育てる”と言いますが、“障がい者は健常者を育てる”こともあると思います。

障がい者雇用率は3月末で1.9%とまだまだですが、今後も優秀な人材の採用をして、共に将来に向けて進んでいきたいと考えております。

(わたなべしんいち 埼玉トヨペット(株)社会貢献課「はあとねっと輪っふる」担当顧問)