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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年4月号

1000字提言

練習しよう!

伊藤知之

浦河べてるの家の当事者間の会話において、頻繁に出てくるキーワードがある。それは、「練習しよう!」「SSTしよう!」である。

SST(Social Skill Training)とは、別名「生活技能訓練」とも訳される。認知行動療法に基づく活動である。メンバーが輪になって、リーダー(進行役)・コリーダー(進行役の補助)とともに、実際に自らコミュニケーションで困っている場面をあげて練習するというものである。

SSTの特徴は、セッション時に場に貼るポスターにも書かれている「人の良いところを褒めましょう」という理念を大事にしていることである。練習後、まず練習者の良かった点を褒め、悪かった点ではなく、「ここをこうするとさらに良くなる」という点を取り入れて2回目の練習に入ることである。

練習の内容は、入院時の仲間・病院スタッフとのコミュニケーションから、地域生活での仲間・家族・支援スタッフへの対応や、「幻聴さん」・マイナスの「お客さん(辛くなったときに現れるマイナス思考や体への反応)」との付き合いなど、多岐に及ぶ。

浦河べてるの家での当事者の練習課題の特徴としては、べてるの店頭・出張販売時の新商品の紹介・接客時の対応など、べてるが30年間大事にしてきた「商売」にも活用されているということである。

このSSTは、集団でのセッション形式ばかりではなく、支援者・仲間との1対1形式でも行われることがある(1人SSTと呼ばれている)。先日も、役場の手続きに行きたいという相談を受けたべてるのスタッフが、「役場に付いていって手続きをしてもらうのではなく、自分の力で手続きをしよう」ということで、そのメンバーと支援者の間で1対1でSSTが行われた。結果、そのメンバーは、一人で役場に行き、手続きを無事済ませてきたとのことである。

SSTは、診療報酬に取り入れられた1994年頃はなかなか現場に定着しなかったと聞いている。それは、SSTを行う支援者がSST後の反省会で、リーダー・コリーダーの「ダメだし」をしてしまうところが多かったため、SSTの時間が近づくと憂鬱になるという事態が生まれていったところが増えてきたからだと思う。

エンパワメントということが言われることがある。障がい当事者は、物事が「できない」人と思われることもありがちだが、SSTなどを活用し、自ら練習し、仲間のパワーをもらうことで、物事をやり遂げることができ、達成感につながる。この当事者と支援者のコラボであるSSTが、当事者自身のパワーを引き出すツールの一つとして定着していけばいいと思う。

(いとうのりゆき 浦河べてるの家)