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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年4月号

ワールドナウ

第1回アジア太平洋CBR会議報告

上野悦子

はじめに

2009年2月18日から20日まで、バンコクにあるプリンスパレスホテルを会場に、第1回アジア太平洋CBR会議が開催された。会議を共催したのは、WHO(世界保健機関)、国連ESCAP(アジア太平洋経済社会委員会)、タイ政府およびAPCD財団(アジア太平洋障害者センター財団)である。

この会議のねらいは、WHOがILO(国際労働機関)、UNESCOと策定中のCBRガイドラインを紹介することと、この地域でCBR(地域に根ざしたリハビリテーション)に携わる人たちが一堂に集まる機会を提供したことである。参加したのは、58か国のCBR実践者、政策担当者、NGO関係者、障害者、国際NGO、援助機関、研究者など700人で、幅広い観点からCBRの議論が展開された。

CBRのこれまで

CBRはWHOが基礎的保健の一部で実践してから、30年が経った。WHOは2003年にCBR再考会議を開催し、その結果、貧困緩和のためにCBRが開発の中で実施されることの重要性を導き出した。2004年には合同政策方針の改正により、権利とコミュニティーの参加による幅広い連携の中で行われることになり、実施のためのガイドラインを策定している。CBRの定義(2004年)は次のとおり。

「CBRは、障害をもつすべての人々のリハビリテーション、機会均等、ソーシャル・インクルージョンのための包括的な地域社会開発における一つの戦略である。CBRは、障害者とその家族、組織や地域社会、そして関連する政府・民間の保健、教育、職業教育、社会的、およびその他のサービスの一致した努力によって実施される」

WHOによると、ガイドラインは今年12月に完成の予定である。

CBR会議の概要

今回の会議全体をとおして、CBRがコミュニティーにおいてインクルーシブ開発として実施されること、実施においては、多分野間で取り組まれることが重要であることが強調された。

3日間の会議は、7つの全体会と15の分科会があり、テーマは多岐にわたっていた。全体会は、障害者権利条約とCBR、CBRとインクルーシブ開発、CBRと連携・パートナーシップ、CBR・エンパワメント・障害者団体、CBRネットワークなどが取り上げられた。分科会のテーマは、CBRとインクルーシブ開発の各論、CBRと女性障害者、CBRの調査と証拠に基づく実践、CBRとハンセン病、CBRとキャパシティー・ビルディングなどであった。

(1)CBRとインクルーシブ開発

WHOのチャパル・カスナビス氏は、全体会での講演の冒頭で、これまでのCBRで行われてきたよくあるアプローチを紹介した。それによると、援助の専門家が行ってきたのは、理学療法、補助具、教育、環境のアクセシビリティ、職業訓練であるのに対して、途上国の人々のニーズは、収入創出、食糧、衣類など生活上の基本的なニーズであることを示した。先進国の援助が途上国の現状に合っていたのかどうかについて疑問を呈したと言える。海外援助においては、途上国の経済的社会的文化的状況から離れないようにすべきであると述べた。

カスナビス氏は、障害のモデルに触れ、医学モデル、社会モデル、さらに人権モデルが言われるようになったが、CBRはそのうちの1つだけを選択するのではなく、すべてを含む総合的なモデルであると述べ、CBRは、コミュニティーレベルでの保健、教育、生計などのプログラムに障害が組み込まれることで障害者のエンパワメントが進み、その結果、ソーシャル・インクルージョンへ向かう、と述べた。

グーラム・ナビ・ニザマニ氏(障害者団体代表、パキスタン)は、障害者はサービスの受益者と見られてきたが、コミュニティーに基づく開発アプローチを採用することによって、障害者と非障害者との間に双方向のコミュニケーションが生じ、障害者がコミュニティーで貢献できるようになる、と述べた。

その他の主な発表からいくつかを紹介する。

(2)障害者権利条約とCBR

権利条約とCBRの全体会では、国連本部障害フォーカルポイントの伊東亜紀子氏(国連経済社会局)が講演し、権利条約批准後の実施においては、CBRが重要なツールになると述べた。権利条約が草の根レベルの障害者に届くにはどうしたらいいか、というフロアからの質問に対しては、地方自治体の計画に障害者が参加することが重要であると答えた。

(3)調査と証拠に基づく実践

この分科会で、これまでのCBRの調査研究に関する問題点として、証拠に基づく科学的調査が少ないことが挙げられた。ブーツ・メンドーサ氏(フィリピン、現在チベットの国際NGOで活動中)は、社会開発としてのCBRには多くの投資が必要になるが、投資した側から見れば見返りを期待するため、ビジネスから学ぶことは多い。一方、証拠に基づく実践や調査は政府やドナーから要求されることがあるが、それと直接かかわらないことでも障害者と家族の声に耳を傾けることは重要であり、事実をありのまま受け入れることはより良い実践につながりより良い結果を生む、と述べた。

(4)CBRと連携・パートナーシップ

連携については、3つの全体会で取り上げられた。ビーナス・イラガン氏(RI事務総長)は、障害者団体はサービスの担い手として、CBRの実施では重要なパートナーになると述べ、マイケル・デイビス氏(CBM東南アジア太平洋地域ディレクター)は国際NGOとの連携について、これまで国際NGOは資金提供や技術援助を行ってきたが、自律発展性の支援へと変化が見られる。また、パートナーシップが多様性を増し、包括的なCBRの概念は関係者に受け入れられるようになってきたと述べた。マヤ・トーマス氏(CBRコンサルタント、インド)は、市民社会に焦点をあててパートナーシップの重要性を述べた。CBRはこれまで医療中心に行われてきたが、総合的で権利に基づく活動に進展している。障害者の主体的参加はあらゆる場面で主張されているが、CBRは障害者団体のイニシアチブだけで行われるのでもなく、さまざまな関係者とのパートナーシップにより実現される。アプローチを1つしか選択しない独断的な考え方はもはや適切ではない、と述べた。

おわりに

今回の会議の成果として、グローバルレベルでのCBRネットワークにつながるアジア太平洋CBRネットワークが形成された。

最終日の20日に、各国のネットワーク窓口となる組織の代表会議が行われた。アジア太平洋CBRネットワークが本格的に始動するのはこれからと思われるが、そのための議論が20日の会合に参加した人たちによって始められている。日本からはJANNET(障害分野NGO連絡会)が当面の日本の窓口として筆者が出席した。国内でCBR的活動をしている団体や個人と今後どうつながっていくかはこれからの課題だが、関心のある方はぜひご連絡されたい。

今回の会議は継続され、第2回会議は、2011年にフィリピンで開催されることに決定した。

(うえのえつこ 日本障害者リハビリテーション協会)