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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年4月号

列島縦断ネットワーキング【埼玉】

WHO指定研究協力センターセミナー
「高等教育における障害学生に対する生活・学習支援」

寺島彰

去る2月7日、国立障害者リハビリテーションセンターで開かれた本セミナーは、障害があるために教育の場に行くことができないまたは教育の場に加わることができない人々に、医療・福祉的な視点から配慮することにより、教育の成果と一層の社会参加を推進するために、高等教育における障害学生への身体介助、生活支援、学習支援などの支援サービスについて考えることを目的として開催された。約100人の参加があった。各演者の講演内容は、次のとおりであった。

基調講演「アメリカの高等教育における障害学生―平等なアクセス、職業リハビリテーション、自立生活の融合―」
ジム・マークス(米国モンタナ大学障害学生支援部長、AHEAD:Association of Higher Education and Disability次期会長)

モンタナ大学は、全学生14,000人の中規模の大学で、学生の7%以上にあたる約1,000人に支援を提供している。障害学生支援部には、サービスコーディネーター、事務局員、支援機器技術者、手話通訳者・字幕サービス担当者、印刷文字から電子テキストへの変換担当等、約15人の職員が働いている。それ以外に、学生スタッフが20~30人ほどおり、さらに、10人程度の学生ボランティアもいる。支援を受ける学生の約半数は発達障害で、また同程度の精神障害学生が支援を受けている。車いすの学生は30人、ろう者6、7人、難聴15人で、心臓、呼吸器、脳外傷などの学生も支援を受けている。

米国の大学で障害学生支援が広がったのは、1973年のリハビリテーション法504条により、連邦予算に関わる事業者は、障害を理由に差別してはいけないということが決められてからである。また1990年、障害のあるアメリカ人法(ADA法)の成立により、さらに強化された。

AHEADは、国際的なグループで、高等教育における障害学生支援を行っている。爆弾により、脳外傷、視覚障害、聴覚障害などを来す者と心的外傷後ストレス障害の問題への対応と、障害学生が適切な職業に就くことができるように障害サービスプログラムの評価を行うことが大きなテーマである。

「大学、短期大学及び高等専門学校における障害学生の修学支援に関する平成19年度実態調査報告」
谷川敦(日本学生支援機構特別支援課長)

平成19年度実態調査の結果、全国の710校の大学・短期大学・高等専門学校に5,404人の障害学生が在籍(在籍率は、0.17%)していた。そのうち、519校で2,972人の障害学生に支援をしており、さらに、そのうちの129校で、障害学生の修学支援を対象とした専門委員会等(障害学生委員会、バリアフリー委員会、支援担当者会議等)を設置していた。また、専門部署設置校は44校、専門の支援担当者の配置校は22校であった。入試の特別措置を行った入学者は、障害学生約1,200人中、252人(特別入試)、246人(一般入試)であった。

「DO-ITJapanの活動と発達障害・高次脳機能障害のある学生に対する高等教育支援」
近藤武夫(東京大学先端科学技術研究センター特任助教)

DO-ITJapanは、障害のある高校生が大学進学をする上で必要な体験・知識・支援を提供している。2007年から東大先端研センターを中心に、多数の大学や企業、官公庁の支援に支えられて始まった。モデルとなっているのは、米国ワシントン大学のDO-ITである。DO-ITJapanの受講者は、第1期07年度11人、第2期08年度12人の計23人であった。障害のある高校生が5日間、親元から離れ、大学の講義や自立した生活を体験することを中心に、さまざまなプログラムを体験する。

「高機能自閉症者Kの大学・大学院進学と就学の支援について」
高橋和子(金沢大学子どものこころの発達研究センター特任助教)

高機能自閉症の学生が、大学および大学院に進学した事例を通して、大学進学のためには、1.本人への支援として、大学生活ができるコミュニケーション・ソーシャルスキルの獲得、本人の興味と障害特性に応じた専攻学部や学科の選択、自分の能力を客観的に知り無理なく学べる学校を探す、オープンキャンパスへの参加などを行う、2.周囲への働きかけとして、支援ニーズがあることを大学に伝える、大学に「発達障害者の支援システム・チーム」を作ってもらえるよう働きかける、3.大学での支援として、キーパーソンの配置、学科担任の高等学校訪問、カウンセラーによるレポートの書き方、インターネット掲示板の設置、工学部教務での窓口対応、語学・実験グループ編成時の配慮等が行われた。

「重度障害者の学習支援に不可欠な生活支援」
寺島彰(浦和大学総合福祉学部学部長・教授)

近年、障害学生に対する修学支援を行う大学等が増えてきているが、支援を学業のみを対象にしていることから、トイレ介助を必要とする重度の肢体不自由学生には、実質的に大学等での学習が保障されていない。そのために、憲法第26条の教育を受ける権利が侵害されていると考えられる。障害者の権利条約第24条においても、高等教育の機会の確保が規定されている。

障害のある学生に対する本来の修学支援のためには、権利哲学の実践的理解、福祉(リハビリテーション)の実用的知識、福祉従事者と教育関係者の連携など、福祉分野における生活支援の理念や技術を、教育分野に取り入れていくような取り組みが必要である。

「脊髄損傷学生の就学復学から就労への道」
大濱眞(NPO法人日本せきずい基金理事長)

交通事故やスポーツ事故によって脊髄損傷になった重度障害者の、大学等への進学や復学が困難になっている3つの事例が紹介された。

Aさん30歳、男性。大学時に柔道で頚髄損傷(C5)。車いす使用で、指もマヒがあるため補助具で筆記。3年制の法科大学院を卒業し、司法試験合格、司法修習も終了し今春から法曹界で活動予定である。1人暮らしで24時間ヘルパーが付き添い、入浴や排泄などの身体介護を受けているが、通学に介護者の支援を受けられない、学生時と卒業後で管轄する市町村が違うなど、介護制度の連続性に課題がある。

Bさん21歳、男性。高校時代に柔道で受傷。頚髄損傷(C1―2)のため、呼吸器使用で24時間介助が必要。大学への進学をめざしリハビリ病院入院中に共通一次試験を受験したが、試験時間や受験環境などが十分ではなく不調に終わり、再度挑戦を考えている。地元での24時間介護は困難なため上京し、24時間介護で1人暮らしをしている。

Nさん30代、男性。大学時代の22歳時に交通事故によりC5―6損傷で四肢マヒ。2年間の休学後に復学し、その後大学院を卒業。現在、都内の大学で研究職(助教)。ヘルパー介助を受け、大学の近隣で家族と住んでいる。講義のため立位車いすが認められた。

当事者に求められるものとして、1.身体の自己管理能力、2.ヘルパー派遣時間の確保、3.地域ネットワークへの参画等、就学支援の制度化として、1.アドボカシーなどの制度化、2.行政による高等教育における教育権の保障が必要である。

パネルディスカッションでの議論

パネラーの発表後、マークス氏から次のようなコメントがあった。1.パネリストの熱意が共通している、2.日本は統計がしっかりしているが、米国では、この秋にHigher Educaiton Oppotunity Act が通過し、高等教育における障害学生数の報告が公式に初めて求められた、3.技術活用が大切、4.重要な親の会、5.ビジョンを持つ、6.米国の憲法には障害者の権利について書かれてなく、教職員に理解してもらうことが大切、7.米国の頚損者に対する20年以上の支援の歴史を思い返した。

その後、パネラー間で、障害者の権利、大学教職員に対する働きかけ、障害者の潜在能力を発揮できる環境の整備、入試の改善、著作権の問題等について議論された。さらに、会場とパネラーとの質疑では、精神障害者の支援、障害者権利条約との関係、高等教育後の就職などについて議論が行われた。

(てらしまあきら 浦和大学総合福祉学部教授)