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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年5月号

障害種別を越えて
―ウィズ就労支援センターの取り組み

越川睦美

精神障害のある人との出会いから受け入れへ

ウィズ就労支援センター(以下、ウィズという)は、平成15年1月に、就労支援に特化した知的障害者作業所として活動を始めた。平成16年には「障害者の様態に応じた多様な民間委託訓練」事業を受託して、「訪問介護員(3級)およびビル清掃」養成講座を開始した。この講座では資格の取得だけではなく、「働く」ためのモチベーションの醸成やビジネスマナーの基礎を身に付けるようなカリキュラムを編成し取り組みを行った。その結果、就職者数は増加し始めた。

平成17年の同講座には、就職に結びつきやすいという評判を聞き、4人の精神障害者が受講を希望してきた。私たちスタッフも精神障害のある人の受け入れは初めてであったため、事前にスタッフ研修などを行い、受け入れに備えた。最初はスタッフも緊張しながら対応していたが、講座が終了する頃には、知的障害のある人も精神障害のある人も、支援に変わりはないと思えるようになった。実際に「働きたい」と思う気持ちは障害種別に関係なく変わらないし、支援の手だての80%くらいは共通している。丁寧なアセスメントに基づいた個別支援計画を立て、ジョブマッチングを行い、適切な支援を行えば就職が可能になり、「働き続ける」ことができることが見えてきたからである。

一般の社会では、障害のある人もない人も同じ社会の中で生活をしている。障害があるから、障害の種別が違うからといって、それぞれ特別な対応をしなければならないことにはなっていない。就労は一人ひとり、それぞれが職場で自立した職業人でなければならないし、その観点に立てば、障害種別によってサービスの提供を分けなくてもよいのではないか、と考えるようになってきた。

受講者は職員の心配をよそに、障害種別にはこだわらず、知的障害者も精神障害者も一緒になって就労に向けた挑戦をしている。知的障害者が分からないことがあると精神障害者が教えるという場面が見られたり、知的障害者が精神障害者に直接的な発言をしても精神障害者が傷つくことは少ない。それぞれが苦手なことと得意なことがあるので、お互いに助け合いながら作業に取り組む姿勢が出てきた。

このような経験をする中で、平成18年10月1日より障害者自立支援法の施行に伴い、ウィズでは、定員20人の就労移行支援サービスの提供を始めた。もちろん、障害の種別を問わず、3障害を対象としてである。

ウィズのサービスの特徴―グループ就労から一般企業へ

ウィズでは、グループ就労を取り入れている。朝礼で、その日の役割分担や作業手順を障害者自らが決めて、施設外の実習場所へと職員と一緒に出かける。実習先では1日の作業が終わると終礼を行い、その日の振り返りを行って終わりとしている。

利用者は実際の職場環境に近い実習先を選定することで、「働く」意味を理解するのだと考えている。ウィズの職員ではなく、実習先の社員さんなどに注意されたり、感謝されたりすることが利用者にとって自信につながり、マナーの形成やあいさつの確立に役立っていると思われる。

グループ就労を行う中で、就職を考えてもよいと、利用者とウィズの職員が同意すると、ハローワーク、長野障害者職業センター、長野圏域障害者就業・生活支援センター及び関係する支援機関が集まり、個別支援会議を行う。そこでは支援方法や職業選定などを行い、個別に就職可能な企業の中で職場実習を行い、就職、定着支援へとつなげている。図1のようにウィズでは就労へつながるロードマップができているため、利用者にとっても現在の自分の状況が理解しやすく、ステップアップしながら目標を達成し、就職へとつないでいる。

図1 ウィズの就労支援体制
図1 ウィズの就労支援体制拡大図・テキスト

また、大多数の利用者の利用期間(表1)は1年以内であり、年間を通じて利用者が入れ替わりしながらも、それがよい展開につながっていると認識している。

表1 平成20年度利用状況
表1 平成20年度利用状況拡大図・テキスト

ウィズでは、あくまでも利用者が主体であり、私たち支援者は黒子に徹することで、障害者の自立を促す効果が高まっていると考える。

ウィズの支援体制―実習から就職へ、そして定着支援を提供し「働き続けたい」に応える

ウィズでは就労移行支援サービスだけではなく、さまざまな支援制度を利用している。高齢・障害者雇用支援機構の第1号職場適応援助者事業、第4種グループ就労助成金制度や厚生労働省の「障害者の様態に応じた多様な民間委託訓練」事業などを活用し、効果的な就労支援を行っている。

ウィズでは、就労支援に携わる職員の半数以上が第1号職場適応援助者(ジョブコーチ)として活動経験があり、グループ就労から職場実習、就職、そして定着支援まで一体的な支援を行う体制を用意している。

また、さまざまな機関、支援者とのネットワークも大事なことである。ネットワークに参加するそれぞれの関係機関が役割分担を行うことで、過重な負担を防ぎ、効果的な支援体制が構築できると考える。たとえば、精神障害者の場合、主治医、デイサービス、ケースワーカーや保健師などとチームを組み、状況の変化に即応する体制を用意することができる。また生活面で不安がある人たちには、生活支援ワーカー、グループホーム世話人や金銭管理などの支援者とチームを組むことでバックアップができ、安定した就労へとつなげていくことができている。

図2 利用者割合
図2 利用者割合拡大図・テキスト

まとめとして

ウィズでは、障害種別を問わず、就労移行支援サービスを提供しているが、まだまだ障害者の就労を進めることに疑問を抱いている支援者は多いと思われる。しかし、多くの障害者が就労し、ウィズに顔を見せてくれたり、就労先の企業などで出会うその表情は自信に満ちている。いきいきとした表情で自分の生活を語る姿に出会うと、障害をもっていても働くことはできるし、働くことの意味はあると感慨深いものがある。

私たちの実践を通じて思うことは、障害種別でくくるとか、障害によって支援手法が異なるということが、障害種別を越えた支援を逆につながりにくくしているのではないかということである。

支援者として必要な視点とは、「適切な個別の支援計画の作成から始まる、誠実な支援の継続」だと考える。一人ひとりの障害者に必要な支援を適切に提供することは、身体、知的、精神障害を問わず必要なことであり、このような実践がウィズが障害種別を越えて支援を提供できることにつながっていると考える。

(こしかわむつみ ウィズ統括センター長)