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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年5月号

わがまちの障害福祉計画 新潟県湯沢町

新潟県湯沢町長 上村清隆氏に聞く
バリアフリー観光とソーシャルファームで湯沢町を世界の発信基地に

聞き手:寺島彰(浦和大学総合福祉学部教授)


新潟県湯沢町基礎データ

◆面積:357.00平方キロメートル
◆人口:8,436人(平成21年4月1日現在)
◆障害者の状況:(平成21年4月1日現在)
身体障害者手帳所持者 309人
療育手帳所持者 49人
精神保健福祉手帳所持者 54人
◆湯沢町の概況:
古くから温泉場として知られ、川端康成の小説『雪国』の舞台となったことで有名。現在も気軽に立ち寄れる温泉・共同浴場が多い。また13のスキー場があり、中でも苗場スキー場は有名。ウインタースポーツや関連のイベントも多い。平成17年(2005年)に町制50周年を迎えたのを機に観光立町宣言をした。町中心街のバリアフリー化を進めることにより、障がいのある人も湯沢町を訪れやすくし、観光客の増加と町のイメージアップを図る。「湯沢町は一流の田舎町」を目指している。
◆問い合わせ:
湯沢町健康福祉課
〒949―6101 新潟県南魚沼郡湯沢町大字湯沢2877―1
TEL 025―784―4560(直) FAX 025―784―4536

▼湯沢町の特色や魅力を簡単にご紹介いただけますか。

清水トンネルを抜けると緑のにおいがしたり、雪が見えたりと、四季がはっきりしています。豊かな自然が湯沢町の特色であり魅力であると言えます。温泉やスキーだけではなく、キャンプやふるさとの味、歴史探訪などさまざまな楽しさに満ちています。

湯沢町は豪雪地域なので、障がいのある方々の生活は厳しいものがありますが、人口が多くないので、障がいのある方や高齢者一人ひとりを保健師や福祉担当職員が把握できており、さらに、民生委員や町内会などのコミュニティーが効果的に機能していますので、さまざまな角度からの支援が可能になっています。

▼湯沢町が力を入れている障がい者関係の事業がありますか。

町内にある指定障がい福祉サービス事業所「あさひばら」(旧旭原福祉工場)では、以前より、障がい者福祉施設としては珍しい、農業や花苗栽培・炭焼き等に取り組み、なかなか外出が難しい知的障がい者の働く場を、豊かな自然環境のもとで提供してきました。役場の花壇の花の植え替えなどもお願いしています。

また、温泉観光地という立地故に、マッサージ業を営む視覚障がい者が多く、自立支援法成立以前からガイドヘルパー(現在は、移動支援事業)による外出支援を他町に先駆けて行ってきました。

さらに、湯沢町保健医療センターと総合福祉センターを同じ場所に設置して、福祉・保健・医療の3機関の連携により、一体的なサービスを提供しています。病院は、24時間365日救急診療体制で対応しています。町の規模からみれば、診療所でもよいくらいですが、病気になったときの安心感が違うと、障がいのある方々を含む住民のみなさんに評価いただいています。また、ここでは、温泉を活用した障がい者や高齢者のための体操も行っています。

▼障害者自立支援計画の策定状況はいかがですか。

当町は、平成18年度に「障がい者計画」と「障がい福祉計画」を同時に策定しました。また、平成18年度から、これまでのサービス利用実績と今後のニーズを踏まえた「第二期障がい福祉計画」をすでに作成し終え、自立支援協議会においても承認をいただいております。現在は冊子作業中で、3月議会には説明させていただきます。

▼自立支援協議会はどのような取り組みをされていますか。

湯沢町自立支援協議会は、事業所や地域の特性を踏まえ、お隣の南魚沼市自立支援協議会と共催で各種会議や取り組みを行っています。専門部会として、「児童療育部会」「居住部会」を設置し、平成21年度からは、「相談支援部会」「日中・就労部会」の2つの部会を新たに設置する予定です。

実質的に、立ち上がってからまだ1年程度ですので、まだまだこれからという感もありますが、グループホームの設置や、移動支援事業、日中一時支援事業への新規事業者の参入など、少しずつ成果も見られています。

また、福祉や医療に加え、教育・就労などの機関も加わることで、今までなかった横の連携が徐々に構築できてきていますので、今後の展開に期待しています。

▼相談支援事業はどのようにされていますか。

障害者自立支援法施行当初から社会福祉法人南魚沼福祉会の「相談支援センターみなみうおぬま」に委託して実施しています。これも自立支援協議会と同様に、お隣の南魚沼市と共同で委託しています。平成21年度からは南魚沼市が銭渕公園の旧福祉センターを改修して「ふれ愛支援センター」を開設することに伴い、そちらに引っ越す予定です。事務所は広くなりますが、なにぶん湯沢町から遠いので、将来的には湯沢町内に相談支援の拠点ができないものかと考えています。

▼上村町長にはソーシャルファームに関するセミナーでお会いすることが多いですが、社会的企業に関心をお持ちでしょうか。

町の活性化のために、今後は、ソーシャルファームなどの社会的企業の考え方を取り入れていきたいと考えています。湯沢は交通の要所にあり、新幹線を使えば、東京から約1時間10分で来ることができます。しかも、越後湯沢駅の駅舎は、新幹線の駅の中でも2番目に広いのですが、活用されていないスペースが相当あります。このスペースを活用して、駅を活性化したいと考えています。そして湯沢が県の発信基地にならないかと思っています。

2014年に北陸新幹線が開業されることもあり、近年、話題になっている社会的企業やソーシャルファームを育成して、駅舎内で光合成を促す特殊な電灯を使って野菜の水耕栽培をする。その野菜を始発列車で東京駅に運んで販売すれば、障がいのある方や高齢者の職業開拓になるのではないかというようなことも考えています。

▼観光地として障がい者向けのサービスを実施されていますか。

越後湯沢駅の周辺道路は、できるだけバリアフリーにしたいと考えて、東口をバリアフリーにしました。また、温泉口もバリアフリー化を進めています。特に障がい者用トイレを充実したいと思っています。バリアフリーの状況は、南魚沼地域のバリアフリーマップを作成して周知しています。

青少年旅行村では、障がいのある方を対象として、冬はスキー、夏はトレッキングの企画を行っています。このような企画をさらに充実していきたいと思っています。たとえば、近年話題になっているアニマルセラピーやペットと人間が一緒になってスキーを楽しめるプログラムなどを考えています。

湯沢町は、平成17年に観光立町宣言をしました。最近は、年間約500万人の観光客に来ていただいています。そのうち、スキー客は約300万人で、新潟県の観光客の大半は湯沢に来てくれています。観光を目的に全国から障がいのある方々にも湯沢に来ていただきたいと考えています。そして、湯沢の施設を使っていただいて、地元の障がい者・高齢者との交流ができれば素晴らしいと思います。また、地元の支援者の育成も必要だと考えています。

▼今後の障がい者施策についての抱負をお聞かせください。

障害者自立支援法も施行後3年を迎え、当初より課題とされているさまざまなことに対し、平成21年度の見直しによって、一定の回答がなされると認識しています。湯沢町でも自立支援法の理念に基づき、各種事業を展開していきます。とりわけ、山間地であるが故の大きな課題である、「移動支援」については、今後とも研究し、利用者にとって便利で使いやすい制度の構築を目指していきたいと思います。


(インタビューを終えて)

上村町長は、「一流の田舎町」を目指すと言われました。「一流」とは、医療と福祉がしっかりしているということだそうです。また、たくさんの夢を持っているので、それを実現させて、多くのみなさんに喜んでいただきたい、もう一度湯沢に来たい、ここに住みたいと思う観光都市を創りたいと言われました。

今日、バリアフリー観光が取り上げられる機会が多くなってきました。わが国は、世界一のバリアフリー国になっています。わが国のように車いすで国中を旅することができる国は多くはありません。財団法人日本障害者リハビリテーション協会が実施しているダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業でも、アジアの国々から来日した研修生が、毎冬、湯沢町でスキー合宿を楽しんでいます。雪を見たことがない国から来た障がい者が、移動にあまり苦労せずにスキーを楽しめる国は世界にそれほどないのではないでしょうか。

また、上村町長は、ソーシャルファームに関心を持っておられ、障がいのある方々の就労についてのアイデアを持っておられます。ソーシャルファームは、社会的企業と呼ばれるものの一つで、営利を目的とはせず、広く社会福祉を目的とした企業で、次の新しい形の社会制度として着目されてきています。

上村町長の豊かなアイデアで、湯沢町が、バリアフリー観光とソーシャルファームの世界への発信基地となることを期待したいと思います。

合併しないまちづくりを選択した湯沢町は、かつてのバブル景気に沸いたイメージから脱却しつつあります。きめ細やかな、地域に密着した行政サービスを目指す先に、「一流の田舎町」が待っているのかもしれません。