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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年5月号

列島縦断ネットワーキング【福島】

障がいがあっても地域で生活できるために
─安心して暮らせる環境を創る─

熊田芳江

1 こころんができるまで

平成16年3月に「精神障害者地域生活支援センター」としてスタートした「こころん」は、主に精神障害者の生活相談と地域生活支援が中心でした。当時、福島県県南地域には精神障害者を支援する社会復帰施設は、作業所が2か所、グループホームが3か所あるだけでした。人口15万人の福祉圏域をカバーするにはあまりにも少なすぎます。

センター開所の2年前より、この地域で精神障害者を支援する社会復帰施設を創るため、精神科医を含めた関係者でNPO法人を立ち上げ、「精神障害者地域生活支援センター」の準備を進めてきました。ところが施設整備費の予算が採択されず、この計画の実現が難しくなってしまいました。しかしさまざまな働きかけの結果、福島県単独事業として建物が整備され、ようやく運営することができました。

名前は一般公募し「こころん」という素敵な名前を付けていただきました。

2 精神障害者の支援はまず相談から

こうしてオープンした「こころん」ですが、相談に来られるご本人やご家族は、病気やそれに伴うさまざまな障害に対して、どう向き合ったらよいのか、今後どのような生活が待っているのか見当がつかず、拘縮した状態から抜け出す手だてを求めて相談に来られます。

心のバランスをとりにくい精神障害をもつ方たちにとって、いつでも相談できる人、自分を理解してくれる人がそばにいることによって、安定した生活を送ることができます。地域の中に「相談できる人」「障害を理解できる人」がたくさん増えることで解決できるのです。従って、地域全体を支援の対象として「障害のある人もない人も安心して暮らせる地域作り」を目的に活動を開始しました。

職員研修はまず「地域づくりコーディネーター養成講座」等に参加し、地域の中での福祉施設作りを目指しました。また、新潟の清水義晴さんに講師を依頼し「地域作り人づくりネットワーク作り」ワークショップ講座を3年間開催し、さまざまな職種の方々に参加していただき、こころんをどのような施設にしたいかをみんなで協議しました。この研修はワークショップの技法を学べ、将来設計を立てることができ、その上にネットワークも作れます。これらの経験が今日のこころんの礎(いしずえ)にもなっています。

3 直売・カフェこころや

障害をもっていても「働きたい」という願いは同じです。次の目標として授産施設を目指していましたが、基準を満たすハードルは高く、資金もありません。

人口6700人の泉崎村は農業が中心で、施設の周りは田んぼばかりです。観光資源や特産品も特にありません。目の前には美しい田園風景があるだけです。この地域でできることは、農業以外のことは考えられませんでした。農業の技術を持たない私たちにできることは、農家と連携して直売所の運営ならできるだろうと考え「直売・カフェこころや」をオープンしました。

「こころや」は地域の農産物や特産品を販売する直売所とカフェからなります。お店で販売される野菜は、一部集荷に行くところもありますが、開店前に地元の農家が直接朝取りの野菜を持ち込みます。

カフェは、お店で販売される野菜や調味料を使ったランチ、元和菓子屋だった利用者の幹夫さんが作る手作りケーキセットやコーヒーなどメニューも充実し、大変評判が良く、テレビや新聞等でも紹介されました。

ログハウス風の店内は、ゆっくりとした雰囲気で、利用者と会話を楽しむため、毎日訪れる常連客もいます。

また、隣接する白河市内の空き店舗を利用し、他の団体と共同で週1回「にこにこや」というお店を開きます。空洞化した商店街で買い物に不便を感じているお年寄りや近所の人たちが、開店を待ちきれないで朝早くから並んで待っています。

その他、車で団地等にも販売に行きます。こうして「こころや」は地域の中に“当たり前”に存在し、多くの方に利用していただき、売り上げも伸びています。

「こころや」のこだわりとして、次のことを大切にしています。

  1. 安心・安全・新鮮・おいしい
  2. できる限り添加物は使わない
  3. 生産者の顔が見える
  4. つながりがあり信頼できる商品だけを取り扱う
  5. その日のうちに消費できるものを中心に扱う
  6. 利用者ができることはすべての仕事に従事していただく

4 障害者自立支援法の課題

賃金は時給300円~500円です。しかし自立支援法施行当初は、利用料が月1万円にもなり、一生懸命働いても手元に残らない人がいるような状況でした。それでもこれまでより働いているという実感があるため、満足されている方もいましたが「お金を取られてしまうので納得できない」という方も多く、この点が自立支援法の最大の問題だと思います。現在は利用料も軽減され、手取り8万円を超える方もいます。

5 里山再生プロジェクト

さらにステップアップして、一般就労を目指したい方が増えてきましたので、企業との連携も必要になってきました。

里山再生プロジェクトは農業生産法人「白河園芸センター」、酒造蔵元「大木代吉本店」、「NPO法人こころん」の3社により、料理酒用の好適米作りを3年間実施しました。主に田植え、田の草取り、稲刈りなど収穫までの作業を地域交流事業として行いました。参加される方は実にさまざまで、そこでは障害者も健常者もなく、田んぼの畦(あぜ)で食べるおにぎりや豚汁のおいしさは格別です。

みんなで作業をすれば楽しく、早く終えることができます。今日本の農業は耕作放棄地が増え、大きな問題となっていますが、こうして工夫をすれば、問題の解決につながるのではないか、などと考えています。

農業生産法人では、職場実習受け入れ整備事業を利用して、ビニールハウス、加工場、休憩室等を整備していただき、現在5人の利用者がグループ就労として働いています。また4月から、別の農家でも職場実習の場を作っていただきました。

将来は「こころや」で販売される野菜や果物を利用して、加工品を自分たちで開発する計画もあります。こころやの事業はさまざまに変化します。

6 障がいがあっても地域で生活できるために

病院や施設で暮らしていた人たちが、こうした支援を受けながら、地域で生活することにより、病状が改善し、安定して働くことができます。働くことで生きることが楽しくなります。あまりにもシンプルなことですが、こうした「当たり前」を支援することが、我々支援者に求められることではないでしょうか。そのためには、何が必要なのか、どうすればよいのか、その人の状態や環境や地域性を考慮して、考えることが大切だと思います。

こころんとして大切にしていること。

*本人の想いを形にする
*いつでも相談できる支援体制を整える
*地域の人たちを巻き込んだ連携
*本人の力を利用する(失敗も想定内)
*仲間の力も借りましょう(ピアカウンセリング)
*あきらめない

(くまだよしえ NPO法人こころん施設長)