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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年7月号

EU政策策定過程における障害者の役割

ヨーロッパ障害フォーラム事務局長
カルロッタ・ベソズィ

ヨーロッパ障害フォーラム(EDF)は、1996年に当時のEU(欧州連合)加盟国とノルウェー、アイスランド国内の障害者団体およびヨーロッパ地域の障害者団体により設立された。その後EUの拡大とともに成長し、国連障害者権利条約の採択を受けて、現在もヨーロッパ全域へと発展を続けている。

EDFの誕生

独立機関としてのEDFの設立は、まさに「私たちのことを私たち抜きで決めないで」というモットーの成果である。EUは、主に専門家を対象としたEUプログラムの資金援助を通じて、障害に関する好事例の情報を加盟国間で交換することを目的とした活動に資金を提供していた。しかし1990年代初めに、障害者団体のイニシアチブにより、欧州委員会を初代共同議長とするNGOネットワークであるEDFが設立された。そしてEUによる資金援助プログラムの終了に伴い、これらの障害者団体が独立したネットワークの設立を決定したが、これは当初欧州委員会(EUの行政部門)からの強い抵抗を受けた。実は障害者団体は、当時EUが障害に関して何ら法的権限を有していなかったにもかかわらず、障害者の生活に対する影響を強めていたことに気づいていたのである。

キャンペーン活動の成果

独立したEDFが、アムステルダムで行ったデモで最高潮を迎えた重要なキャンペーンの後に初めて手にした成果は、1997年、EU加盟国が署名した新条約における障害への言及であった。新たな条項は、障害を含む差別と闘う法律の採択を加盟国に認めた。3年後、雇用と訓練へのアクセスにおける非差別に関する指令が採択され、障害者の職場および募集における合理的配慮が導入されたが、これは現在ヨーロッパ全域で国内法に取り入れられている。また、2001年にバスの型式承認に関する法令にアクセシビリティ要件を導入することに成功し、ヨーロッパ全域の新型バスのアクセシビリティに否定しがたい影響を与えた。その他には、公共事業と公共調達の入札にアクセシビリティ要件を含めることと、契約履行の際に障害者雇用対策を含めることを公的機関に認める、公的調達に関する法令がある。また、EU全予算の約35%(6年間で3470億ユーロ)を占めるヨーロッパ地域開発基金および欧州社会基金の資金によるプロジェクトにおいて、障害者のアクセシビリティを考慮することを義務付ける提案も受け入れられた。

昨年、障害のある航空旅客者の権利に関する規則が全面施行された。これはヨーロッパ初の障害者を対象とした法に相当するが、旅行手段における差別を禁止し、支援基準を設定しており、空港やヨーロッパ内外を航行する航空会社にそのまま適用される。この最初の法を受けて、まず鉄道、次に水路と陸路について、障害者の重要な権利を認めた乗客の権利に関する一連の新たな法令がEUの検討課題とされ、後者については現在議論が進められている。

成功のカギは当事者の団結力

EDFによるキャンペーンの結果、2003年をヨーロッパ障害者年と宣言し、EUと加盟国において、数々の啓発活動が企画された。EDFが国内の委員会に会員を参加させ、ヨーロッパ障害者年を設ける決定だけでなく、国内の活動やヨーロッパ障害者年の名のもとに資金援助を受けて実施されるプロジェクトの見直しにも影響を及ぼしてきたことから、ヨーロッパ障害者年が障害問題と障害者自身の役割に対する意識の向上に貢献したことは間違いない。その後もこの独創的な方法は続けられているが、直接関係のある者が参加しリーダーシップをとった結果、ヨーロッパ障害者年は大いに成功を収めることができた。そのフォローアップとして、欧州委員会により障害者行動計画が採択された。この計画は、EUの障害政策策定者らの意識を向上させることとなった。

さらに2003年には、欧州委員会は非差別に関する権限に基づき、国連障害者権利条約草案協議に参加することを決定した。この結果EU加盟国は、同条約の協議だけでなく策定過程にも、より深く関与し協力することとなった。さらに、すべてのEU加盟国が同条約に署名し、批准とヨーロッパレベルでのレビュープロセスへの参加に向けて取り組んでいる。毎年、実施報告が発表され、また、進捗状況の見直しのための大臣会合が開かれるが、それにはEDFも招かれる。

EDFの成功は、団結が強い力をもたらすという信念に由来している。団結は、民主的に選出された機関による、通常全会一致で決定がなされる年次総会や、専門的な作業部会を含む会員との定期的な協議を伴う、構造化された組織により達成される。さらにEDFの設立者らは、国内レベルでも声を合わせることに価値があると強く信じていた。このため、一つの国から障害者の全国組織1団体だけがEDFの正会員となることができた。しかし、各国を代表する会員は、国内の障害者運動を反映しなければならず、また障害者を代表する団体に対してオープンでインクルーシブでなければならない。そして各会員の状況は定期的に見直される。また、各国およびヨーロッパの障害者連盟の政策決定におけるバランスを考慮し、EDFは常に障害者運動の多様性を反映することが認められている。結局のところ、EDFを支配しているのは、代表を送ることができない障害者や障害者の親の団体である。各正会員は、国内会員であるかヨーロッパ会員であるかを問わず、障害者が構成員の過半数を占め、またその理事会メンバーの半数以上に障害者を選出しなければならない。

現状と課題

EDFはまた戦略を策定し、それをヨーロッパの各機関に合わせて常に修正している。さらに、社会分野で積極的に活動している団体、他の差別を受けているグループ、女性・青少年団体、労働組合および消費者団体との連携も進めてきた。

それにもかかわらず、障害者の権利が十分に考慮されるように、今なおなすべきことは多い。EDFは、生活のあらゆる分野における障害者差別と闘う法律全般のキャンペーンをEUレベルで続けており、会員の積極的な参加によって130万人を超える人々の支持を得ることができた。ヨーロッパ議会議長、欧州委員会副委員長、そして加盟国を代表してポルトガルの障害担当大臣が出席し、ブリュッセルで開催された集会に、署名が提出された。それ以来、障害者も含めた非差別法に関する提案が提出されてきた。EDFが期待していたほど広範囲に及ぶものではないが、改正法が採択された場合、ヨーロッパにおける障害者のための製品およびサービスへのアクセスは大幅に向上するであろう。

EU域内市場は、アクセシビリティ対策を設けておらず、また国家レベルで非常に多様な規則が存在するため、障害者に真のアクセスを提供することができない。このため、インターネット、デジタルテレビ、電話、銀行取引および保険契約、歩道および建物、あるいは輸送インフラへのアクセスについて、課題が残されている。EDFは、消費者団体および特にこの分野における有効な戦略を開発するために標準化に関与している人々とともに、緊密に協力して活動を進めている。また、情報通信技術に関わる製品およびサービスへのアクセスを対象とした、eアクセシビリティ分野の法律の策定も強く求めている。

EDFの主な懸案事項は、ヨーロッパレベルでの障害に関する連携戦略の確立で、これはEU各機関と加盟国の両方に委ねられる。EDFはEU政府首脳陣による障害者協定の採択を求めている。共通の政策目標と、進捗状況の見直しのための指標を掲げた障害者協定は、雇用、貧困との戦い、社会的保護および教育分野における既存の連携メカニズムの開発に際して、障害者を十分考慮することにも貢献するであろう。

近く予定されている欧州共同体による障害者権利条約批准案の採択は、この目的の達成に貢献するであろう。欧州共同体が支持する初の人権条約として、国内レベルでの変革をもたらすだけでなく、EUの発展にも重大な影響を与えることは確実である。EDFが取り組んでいる重要な分野の一つは、障害者の施設を地域に根ざしたサービスへと置き換えていくことである。

新EU条約の批准と履行は、加盟国の研修と能力構築を伴う重要な優先事項である。EDFは、アジア太平洋地域など他地域の障害者団体との協力が全世界で障害者の人権を実現し、国連の課題に影響を与える上で不可欠であると確信している。特にEDFは、国際障害同盟を通じたそのような連携の強化が必要であると固く信じており、この活動に積極的に参加している。