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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年7月号

社会保障審議会障害者部会の改革を望む

笹川吉彦

厚生労働省社会保障審議会障害者部会の臨時委員として、平成19年3月まで関わっていた者の一人としてまず言いたいことは、同部会の抜本的な改革である。私の在任中に支援費制度と障害者自立支援法が制定され施行されたが、これに関わった一人として、その責任を強く感じている。なぜなら、障害者団体の諸要求を十分に実現できず、全国の障害者に大きな不安と混乱を招く結果になったからである。

障害者自立支援法施行3年後の見直しにあたっては、平成20年度中に障害者部会は頻繁に開かれ、部会としての抜本的な見直しが昨年の12月にはまとめられたが、このことが、これまでの障害者部会の改革の起爆剤となることを大いに期待したい。

まず第一に取り上げなければならないことは、部会の在り方である。審議機関であるにもかかわらず、ほとんど審議ができないところに最大の問題点がある。

部会の実態をご紹介すると、まず時間は2時間に限定され、そのうちほぼ1時間は提案説明に終わる。そして残りの1時間で審議ということになるが、委員は30人、1人の発言時間は2、3分に制限されるから、1回の発言がせいぜいである。委員の間で議論を交わすことなどほとんどできず、提案に対する意見を述べるにとどまってしまう。そして、その意見が提案の趣旨に沿っていなければ「聞き置く」に終わってしまう。

資料は膨大なものがその場で手渡されるから、内容を十分適把握することは不可能に近い。特に点字使用の私は、山積みにされた点字資料を説明を聞きながら読むことなど不可能で、項目を拾うのが精一杯である。せめて2、3日前に資料が入手できればよいのだが、現状では困難である。

ところで、極めて重要なことは、その提案がどこでどう作成されているかが明確でないことだ。説明では研究班が中心となって、ということになっているが、その研究班のメンバーは明らかにされない。おそらく厚生労働省が推薦する学識経験者が中心になっているものと思われるが、果たして、学識経験者が障害者のすべてを熟知していると言えるだろうか。はなはだ疑問である。

一例をあげると、介護保険と支援費制度の統合が問題となった折、障害者団体と研究班のトップとが話し合ったことがあった。私は同じ寝たきりの高齢者でも、目が見えると見えないでは大きなギャップがあると主張したのに対し、研究班の彼は「見える見えないは関係ない」と言い切った。また、同席していた厚生労働省の幹部は「設備さえ整備すれば対応できる」かのような発言をした。この回答を聞いて私はあぜんとするとともに、激しい憤りを感じた。

常識的に言って、「見える」と「見えない」の違いは極めて大きい。たとえ寝たきりでも周囲の状況が確認できるとできないでは、雲泥の差があるはずだ。障害程度区分で、第一次判定に介護保険の認定基準が導入されているが、その中に、「見えにくい」「聞こえにくい」という項目はあるが、「見えない」「聞こえない」という項目はない。「見えない」と「見えにくい」とでは大違いだが、このことさえも理解されていないのである。

これらのことから考えると、学識経験者も大事だが、障害当事者の存在がもっと大事ではないだろうか。この点が重視されていれば、支援費制度や障害者自立支援法の大きな誤算や行き違いはなかったと思う。

国際障害者年の基本理念では、政策決定の段階から障害当事者が参画することが謳われている。提案即決定、という現在の同部会の方式が継続されるのであれば、研究班に障害当事者も加えるべきである。

さらに同部会委員の選任だが、何を基準にされているかが明確ではない。少なくとも障害者問題を論ずる場であるならば、全国組織を持つ団体の代表が選任されるべきである。それも三障害ということではなく、たとえば身体障害者の場合、肢体、内部、聴覚、言語、視覚と障害種別によってハンディもニーズも大きく異なる。

最後に、同部会の開催だが、なぜか平成19年度には1回も開かれなかった。再三にわたって開催を求めたが、開かれない理由も明らかにされずに終わった。検討すべき課題は山ほどあるにもかかわらずである。

以上のことから、同部会を抜本的に改革し、真に障害当事者の主張が生かされ、支え合い、助け合う共生社会が一日も早く実現されることを望む。

なお、社会保障審議会には、障害者部会代表として同部会会長が出席しているが、同審議会で障害者問題がどう取り扱われ、審議されているかについては、障害当事者である私たちにはほとんど知らされず、議事録だけでは審議の状況を把握することはできない。障害者問題を発展させるには何らかのかたちで社会保障審議会に障害当事者が出席し、生の声を聞いてもらい、委員のみなさんに正しく理解してもらう必要があると思う。障害者権利条約が施行された今、社会保障審議会そのものの在り方も検討しなければ、障害者問題の根本的な解決にはならないのではないだろうか。

(ささがわよしひこ 社会福祉法人日本盲人会連合会長)