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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年7月号

さいたま市障害者職業能力開発推進会議に参加して

竹内政治

私は、埼玉県さいたま市に住む精神障害当事者である。発病して苦労も多かったが、現在は安定し、精神障害者の自助グループ・ウィーズを運営している。普段、当事者は病院などの施設で支援を受ける立場にあるが、ウィーズでは当事者主体の活動を続けている。

結成4年目を迎えた当会では、月1回、ミーティングと呼ばれる定例会を開き、当事者間の問題意識や危機感などを共有している。また、講演活動などを通して精神病への差別・偏見をなくしていくための啓発活動も活発に行っている。その中で、皆がもっとも注目し渇望しているのが、就労問題である。精神障害者は病状に波があるため、なかなか一般就労は難しく、病気を隠して働き、無理を重ねて病状を悪くする人も多いのである。作業所などで軽作業をしている人も多いが、工賃は安く、障害者年金と合わせても経済的自立の道は遠いのが現状である。病気を理解してもらい、無理なく働ける環境には程遠いと思う。

そのような現状の中、国は障害者の就労を推進するため法定雇用率を定めている。これをクリアしている企業は多いとは言えない。ましてや、この法定雇用率の数字は三障害が対象で、精神障害者だけのものではない。当然、雇う側は能力の高い身体障害者や継続力のある知的障害者を求める傾向にあると、個人的に考えている。

さいたま市では、平成19年度から障害者総合支援センターが中心となり、障害者職業能力開発推進会議が始まった。この推進会議は、障害者職業能力開発プロモート事業の一環として、開催されている。厚生労働省から委託を受けて、さいたま市が政令指定都市ということで実施している事業である。

プロモート事業の目的は、一つは教育・福祉から職業訓練への流れを形成すること。二つ目に、障害者一人ひとりの能力や希望に応じた職業訓練の実施、推進を図ること。三つ目に、これらの職業能力開発の推進基盤の構成をしっかりと作っていくこと、そのための検討、意見交換を目的として開催されているものである。この事業がさいたま市に打診されたのは平成18年の後半で、大阪市、横浜市、さいたま市の3市がモデル都市として国から委託されたと、障害者総合支援センターの所長から説明を受けている。

さいたま市障害者職業能力開発推進会議の委員は、保健所の職員、ハローワークの職員、養護学校の教員や大学教授などの専門家で成り立っているが、障害当事者の声も反映させようと、ウィーズ代表の私と難病を抱える会社員の男性が会議発足時から選ばれている。しかし、実態は行政と専門家が圧倒的に多い会議である。30人近い委員のうち当事者は私たち2人だけである。専門用語や横文字が会議の間飛び交い、正直戸惑う場面も多い。もっと分かりやすい言葉で、自己紹介から始めるなどの配慮があれば戸惑いも半減されると思うのだが…。

私は最初から欠かさずこの会議には出席しているが、いつも思うことがある。それは、毎回最初に報告される就労成功者の数や相談件数、職業訓練受講者数に象徴されるように、結果を重視すぎるのではないかということである。せっかく有識者が集まっているのだから、もっと障害者にとって働くことの意味や、働くことによって何を得られるかを議論してほしいと思う。

また、障害者の就労の根本的な問題が置き去りにされてはいないかと、私は委員の一人として発言するようにしている。委員長はとても真面目な方で、いつも最後に当事者からの発言を促してくれる。難病の会社員はほとんど意見を言うことはない。私も核心を突いた意見を言えたかどうか、毎回自問自答している。

そこで思うのは、もっと当事者本人が自分の意見を持つ必要性である。声を出さないから当事者抜きの政策や法律の制定がまかり通ってきたのではないか。障害者自立支援法などは、その代表的な例である。家族や職員、専門家任せの姿勢では、障害者を取り巻く現状は改善されていかないのではないだろうか。障害の程度や置かれた環境もあるだろうが、もっと障害をもつ本人たちが学習し、声を出していかなくてはならないだろう。

私はこの推進会議に出席する時、いつも精神障害者の代表で参加していると肝に銘じている。先で述べたように、就労に関しては、精神障害は他の障害に比べまだまだ遅れを取っている。声を出さないと書いたが、見ていると身体障害者の運動は歴史もあり、ある程度確立されていると思う。その点、精神障害者は障害と認定されてまだ日が浅く、運動形態も依然、確立されていない。いまだ、社会的入院により病院で生涯を終える人も多いのである。

私は、精神障害というのはコミュニケーションの障害だと考えている。故に能力は高くても職場にうまく適応できない、コンスタントに続けられないなどの問題が生じる。私が精神障害本人として経験してきて思うことである。

さいたま市障害者職業能力開発推進会議に期待することは、そんな精神障害者の特性に配慮した方針を打ち出してほしいことである。たとえば、ジョブコーチなど就労した後も支援が途切れない環境が大事だ。就職に繋がっても継続して続けられないのであればかえって悪影響である。安心して働ける環境の整備を急がないといけない。

私は今年度も推進会議の委員に任命された。引き続き、精神障害者の声を届けるべく、さらに学習し、ひるまずに意見を言おうと思う。それが、精神障害者の課題とも言える、働きながら自立できる社会になる足掛かりになると信じたい。

(たけうちまさはる 当事者会ウィーズ代表)