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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年7月号

中央障害者施策推進協議会の委員に尋ねる
―アンケート調査にみる特徴点

まえがき

わが国における障害のある人びとに関する政策課題は枚挙に暇がない。個別の政策を洗い出したり改善の方向を探る作業も大切であるが、問題はもっと根っこの部分にあるのではという意見も少なくない。その根っこの問題の一つにあげられるのが、本号の特集テーマと関連する「政策決定過程への当事者・関係者の参画」ということになろう。率直に言って現状は不十分であり、飛躍的な改善が求められる。改善への処方箋はいろいろと考えられるが、まずは現状を正確に押さえることが肝要である。

本稿では、現状把握の一環として障害分野の中心的な政策検討協議体である中央障害者施策推進協議会(以下、中央協議会)に焦点を当てることにした。

具体的には、中央協議会の委員全員(29人)にアンケート調査を実施し、その結果から現状と課題を探るという形をとることにした。ここでの傾向は、障害関連の各種の審議会や検討会などとも共通する点が少なくなく、今後の政策決定過程のあり方を考えていく上からも貴重な手がかりとなろう。

以下、中央協議会の紹介と合わせて、アンケート調査の結果を略述する。

1 中央障害者施策推進協議会の概要

中央協議会は、その根拠を障害者基本法に置いている。同法の関連条項を挙げると次のようになる。第9条第4項で、「内閣総理大臣は、関係行政機関の長に協議するとともに、中央障害者施策推進協議会の意見を聴いて、障害者基本計画の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。」とし、これを受ける形で第24条に、「内閣府に、障害者基本計画に関し、第9条第4項(同条第9項において準用する場合を含む。)に規定する事項を処理するため、中央障害者施策推進協議会(以下「中央協議会」という。)を置く。」と規定している。さらに第25条において、「中央協議会は、委員30人以内で組織する(第1項)。中央協議会の委員は、障害者、障害者の福祉に関する事業に従事する者及び学識経験のある者のうちから、内閣総理大臣が任命する。この場合において、委員の構成については、中央協議会が様々な障害者の意見を聴き障害者の実情を踏まえた協議を行うことができることとなるよう、配慮されなければならない(第2項)。中央協議会の委員は、非常勤とする(第3項)。」とある。要するに、障害当事者及び障害分野の関係者の代表によって障害者基本計画案を作成することが本務となっている。10年間にわたってわが国の障害関連政策の基調を成すのが障害者基本計画であり、その原案づくりが中央協議会に委ねられているとすれば、その役割は相当なものと認識すべきである。

2 アンケート調査の結果から

(1)中央協議会についての基本的な評価

アンケートは本年5月中旬から下旬にかけて本誌編集部が行ったもので、中央協議会委員全員(29人)に郵送で送付し、このうち22人(回収率75%)から回答があった。回答のあった22人の内訳は、障害当事者10人、家族3人、学識経験者8人、自治体関係者2人である(一人は、複数の立場で回答)。結果の報告にあたって、二つの点で数値で処理できるものを掲げることにする。

第一点目は、「障害者基本法に基づく中央障害者施策推進協議会の存在について」への回答である(グラフ1参照)。設問は三択で、1.重要だと思う:18人、2.どちらとも言えない:3人、3.あまり重要とは思えない:1人となっている。後述するように、中央協議会での審議内容や運営については満足できない旨の回答が目立つ中で、中央協議会の存在そのものの評価は肯定的な見解が多数を占めている。

グラフ1 障害者基本法に基づく中央障害者施策推進協議会の存在について
円グラフ 障害者基本法に基づく中央障害者施策推進協議会の存在について拡大図・テキスト

第二点目は、「現在の中央障害者施策推進協議会と障害者政策について」への回答である(グラフ2参照)。同じく設問は三択で、1.政策の発展にかなり貢献できている:5人、2.どちらとも言えない:7人、3.あまり貢献できていない:10人となっている。こちらの方は見解が分かれたが、否定的な見解が肯定的な見解の二倍になっていることがポイントであろう。注目すべきは、否定的な回答を寄せた者の大半が障害当事者で占められていることである。

グラフ2 現在の中央障害者施策推進協議会と障害者政策について
円グラフ 現在の中央障害者施策推進協議会と障害者政策について拡大図・テキスト

これら二つの傾向を合わせみるならば、中央協議会に対する期待は大きいものの、現状については満足できていない、もしくは問題があるということになる。

(2)機能・審議内容について

ここからは、記述回答を元にその特徴を記すことにする。最初は、中央協議会の機能及び審議内容についての意見や感想である。最も多かったのが、「形式的になっている」「形骸化している」「不十分」などの記述であった。具体的な意見のいくつかを拾うと、1.権限と独立性がなく十分機能しているとはいいがたい、2.各関係省庁への提案が行われるようにできないか、3.総合的調査機能をもたせるようにすべきだ、4.障害者基本法関連以外についても幅広く審議できるようにすべきでは、5.3障害すべてにわたって議論するので、広く浅い議論に終始しがちである、6.審議内容もすでに結論の出ているものがほとんどであり、審議はそれに「アリバイ」を提供するようなものになってしまっている、7.障害当事者の意見を挟む余地はなく、結果的にはただ内閣府の報告を追認するだけの会議になっている、などである。ほとんどが辛口の意見となっている中で、具体的な提案もいくつかなされている。一点だけ掲げると、「従前(昭和45年~平成5年)のとおり、1.障害者施策の樹立について必要な事項の調査審議、2.関係行政機関相互の連絡調整を要するものの基本的事項の調査審議、3.内閣総理大臣または関係各大臣に意見を述べることができる、といった機能・審議内容に戻すべきでは」というのがある。注目すべき視点である。

(3)運営について

次に、運営面についての回答である。現行は、年に1回程度の開催(障害者基本計画の策定時ならびに中間見直し時にはもう少し増える)、1回の開催時間が1時間30分程度、委員一人当たりの発言時間は数分であるが、圧倒的多数を占めているのがこれらを問題視する意見である。すなわち、回答者のほぼ全員から開催回数を増やすべきとあり(年に4回以上と記してあったのが6人)、開催時間と発言時間ともに増やしてほしいとする意見が目立っている。ここで、運営面に関して全体を反映するような意見の一つを紹介したい。「出席人数が多いわりには開催時間が短く、発言時間が限られることから一方的な発言になってしまい議論にならないうえ、出席者の意見が問題解決に貢献できていないと思う。せっかく日本の代表的な障害者団体が集まっているのに、もっと生産的な会議にならないものかと思う」というものである。なお、具体的な提案として、分科会や専門委員会を設けること(6人)、ディスカッションができるよう本委員会の人数を絞るべきでは(1人)、というのもあった。

(4)事務局等について

中央協議会の事務局等についても多様な意見が寄せられている。回答者22人のうち、「よく分からない」「現状でいいのでは」を合わせれば半数になる(11人)。ちなみに、現状は10人の常勤体制であるが、委員の多くは事務局の実情を十分には把握できていないような印象である。他方、半数の回答者から事務局を強化すべきとの意見が出されている。主なものとして、1.各省庁からの出向や兼務を含めて倍増すべきではないか、2.事務局が手分けして各委員を個別に訪問して予備的な意見聴取をすることも重要であり、そういう作業をすることを想定した際、現在の事務局態勢では不十分、3.質的にも改善が求められ、専門官(障害当事者を含む)の体制をつくる必要がある、などがあげられる。事務局とは別に「その他」の記入欄を設けているが、資料の事前配布(点字または音声コード付き)や本格的な協議とするために1か月前に協議の柱と基本資料を示すべき、などが目立つ意見である。また、「委員としての重責を果たしているという実感も充足感も感じられず残念です」という感想もあった。

(5)今後に向けて

以上、現行の中央協議会に対する意見や感想の特徴を記してきたが、全体としてはネガティブなものが多かった。期待感が強いことは前述した通りで、その上で現状を厳しくみているということは、換言すれば改善課題が多いということにつながろう。実際「今後に向けて」の設問に対しては、踏み込んだ意見が多く寄せられている。偶然にも内容の重複がだいぶみられるが、代表的なものとして、1.障害者権利条約の理念をわが国の施策とするには、障害当事者、団体が結束して、現在の中央協議会の人事、運営のあり方に異を唱え、改善を提言すべきである、2.世論調査の枠組みを使って、当協議会でも、障害ならびに障害者の国民意識調査を2年に1回くらい行えないか、3.重要テーマカテゴリー別に常設の、あるいはアドホックなワーキンググループを設置し、障害者基本計画の策定のみではなく基本的で基幹的な政策全般を検討すべき、4.国依存ばかりではなく、共助を考えていくテーマ設定があってもいいのでは、などがあげられる。

(6)海外の参考事例について

「こんな国のシステムは参考にすべきでは」の設問についての回答は少なかった(6人)。回答者の多くは関連した海外情報を持っていると思われるが、それらの評価は単純なものではなく、慎重に対応したものとみられる。記されたものを紹介すると、1.米国のADA(障害者差別禁止法の性格を強く帯びた法、1990年制定)を学ぶべきで、特に制定の過程と現状について(2人)、2.トリエステ(イタリア)の精神障害者の支援システム、3.ドイツのLRTを利用したまちづくりの実態、4.ニュージーランドの社会保障制度全般と障害者政策、5.米国のNCD(中央協議会の米国版のようなもの)についての研究・検証、6.海外での失敗事例やマイナス影響などのワースト記録も収集すべき、などがあげられる。

(7)当事者参加の全般について

アンケート調査の最後に、中央協議会を離れて、「障害関連の現行審議会や検討委員会のあり方及び政策決定過程における、障害当事者の参画に関する全般的な意見」を尋ねた。示唆に富む意見が豊富に記された。紙幅の都合もあり、ほんの一部しか紹介できない。主なものとして、1.障害者権利条約が誕生する過程で、「私たち抜きで私たちのことを決めないで」が重視されたが、このことをこの国の審議会改革にも踏襲すべきである、2.障害分野に限ってみても、現行の審議会や検討会への信頼はほとんどないように思う。それは、行政主導で進められているからにほかならない。行政が作成した原案の承認機関に成り下がっているところにその原因がある。審議会(中央協議会を含めて)のあり方を抜本的に改革する必要がある、3.障害当事者の参画は議論の深まりや広がりの前提となる。しかし、ある障害をもつ当事者が同様障害のある人の「代表」であるかのように委員会が認識することには、議論の公平性の観点から一定の危惧がある、4.都道府県、市町村の障害者計画作成の当事者参加率と障害種別参加状況を統計的に把握すべきではないか、などがあげられる。

以上、中央協議会委員に対するアンケート調査の特徴点を掲げてきた。調査項目に沿って、基本的には回答者の原文をそのまま掲載する形をとった。おそらくは初めての試みであり、貴重なデータが得られたように思う。回答に快く応じてくれた委員の方々に謝意を表したい。

(まとめ 本誌編集部)