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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年7月号

列島縦断ネットワーキング【岐阜】

「ひなたぼっこ」でお年寄りもしょうがいを持つ人もあったかサービス

斉藤啓治

ゆったりと のんびりと あったかサービス

NPO法人「ひなたぼっこ」が運営するグループホーム「そよかぜ」には、9人のお年寄りと4人の青年が一緒に暮らしています。青年たちは一人を除いて何らかのハンディがあり重度訪問介護など居宅介護のサービスを受け、うち2人はそれぞれの自室で365日24時間の支援で生活をしています。そよかぜは、たくさんの人たちの支援によってできたもので、開設して3年、認知症対応型のグループホームとしょうがい者の自立支援居室を持ち、アルプスの南端、岐阜県の東側恵那山を前方に眺望豊かな小高い丘にあります。ここに開設当初から住んでいるサービス提供責任者の女性が、1年前の総会で次のように発言しました。

「朝ゆっくりできるときには、ホームの方へ行ってゴロンゴロンとしているのが好きです。同じ所でおばあちゃんたちが思い思いのことをしています。こういう場面が私にとっては幸福の瞬間で、若い3人とおじいちゃんおばあちゃんたちが長生きしてここに居ることに感謝する瞬間です」「そよかぜには家族から離れて、お互いに持っている力を発揮しながら一緒に暮らしているという関係があります。お互いが持つ力を発揮するとは、その存在を実感することであり、やさしい声かけや生きがいのある仕事をすることであり、一緒に笑ったり泣いたりすることだと思います」。今年度の通常総会では、「知れば知るほど、それぞれの人にある魅力が見えてきます。ある方の、その感性が表現された作品は人々の心をくすぐり、温かい気持ちが広がります。この方の笑顔がみたくて、多くの職員が卵焼きとだじゃれがとても上手になりました」と発言しました。

日中はひなたぼっこで就労、全員が非常勤職員として処遇

3人の重いハンディを持つ青年たちは、全員がひなたぼっこの事業所で仕事をしています。事業所では、1.日誌を入力して保存する仕事、2.角封筒作り、3.介護(補助)業務の3つをお願いしています。それぞれができる時間の範囲内での「就労」です。1日30分のときもあれば、それさえできない日も珍しくありません。介護の仕事をする人は週10時間就労をめざしています。

また3人以外に、自宅から通いながら介護(補助)業務に参加している女性がいます。彼女は今春、特別支援学校を卒業したばかりですが、在学中から日常的にひなたぼっこの生活支援を受けていたので就労は準備万端でした。手の洗い方、車いすの押し方、見守りでの配慮、お年寄りとのお話の仕方もうまくできるようになりました。職員たちの対応に彼女が戸惑うことはほぼありません。

事業所の職員たちは「自分たちの仕事の一部を彼らに分け合う」ために、長い時間をかけて議論を行ってきました。しょうがいを持っていても、法人が非常勤職員として雇用すること、出来高制を取り入れず、給与面での一切の差別はしないということも一致しました。とはいうものの、労働時間が少ないため、非常勤職員と同じ950円の時間給でも最大の方で4万円程度にとどまってしまいます。これでは年金と合わせても生活費はギリギリです。それでも先月初めて2万円を超えた人は、言葉には出しませんが、満面の笑みを浮かべその喜びを何度も伝えていました。

40人余りの職員たちは、毎月職場ごとのケア会議でしっかりと「情報」を共有しています。そのため重大事故につながる可能性があるときも、何事もなかったかのようにチームワークが機能する場面が少なくありません。

昨年そよかぜでは、新しい就労事業が始まりました。新しい仲間も参加した「農薬を使わないお茶」(そよかぜの香り)の販売事業です。「福祉事業所でこそ就労の拡大が可能」ということに気づき、住まいと就労の工夫が進められています。「全国のあらゆる福祉事業所であと1人ずつ平等な処遇で雇えたら、日本の障害者雇用は大幅に前進するかも…」と職員たちは大真面目に話題にしています。差別を減らす環境づくりが元気の源なのだと思います。

150年の古民家で再び出会う「笑顔」

8年前にできたミニデイ宅老所「ひなたぼっこ」は、中津川市の住民グループが築150年の古民家を買い取り、延べ180人を超える多数の地域ボランティアによって大改修が行われ、ゆったりとした田園風景に自然に溶け込んでいます。幼い頃この家で遊んだ方、ここで生まれ育った方、この周りの田畑や山々で楽しんだ方たちが、老いて再びデイサービスで顔を合わせることになりました。働く人たちも皆さん地域の人たちです。青年の一人が作った、♪ワイワイガヤガヤ夏の朝、楽しく歌う……♪の「ひなたぼっこの歌」もできました。しょうがいのある青年たちも一緒に歌っています。

うれしいことに、「家や町の絵本コンクール」で入賞した『ひなたぼっこの家』が最近刊行されました。作者は食事スタッフとしてデイサービスで働いています。大規模で集団活動の多い事業所ではなく、思い思いの生活と、かつての日常の暮らしぶりをしのばせるひなたぼっこのあり方は、確実に住民に受け入れられているように思います。小規模かつ多機能性を力に、今なお健在です。

理念「みんなで運営」を追求する

理事会は、「どんなに重い認知症があってもその暮らし方はご自分の意思に基づいて、毎日の運営はみなさんで決めましょう」という呼びかけを行い、グループホームやデイサービスでは、随時お年寄りたちによるひなたぼっこ会議(相談会)が持たれるようになりました。ここでは1か月の行事と内容、毎日の食事のことなどが話し合われます。会議の議長、書記もお年寄りが担います。職員は、要望提供側優先の論理を戒め、一歩下がってゆっくりと話し合いを聴くことにしています。そして決定した計画を具体化することに協力します。ここでの生活はお年寄りの方のものです。普段の運営に参加し、自分の意思が具体化されることこそがお年寄りの元気の源です。

ひなたぼっこを運営する人たちは、介護保険法が実施される2年前、市場原理や応益負担、利用契約制度などの導入が社会福祉にもたらす影響に大きな不安を抱きました。そして学習を重ね、これらの廃止を求めつつも自分たちで事業を起こすことを決め、地域福祉の再生を願う次のような「共生」と「協同」の理念を掲げました。

ゆったりと のんびりと あったかサービス ひなたぼっこ
みんなで運営 みんなで資金 みんなで働く
語り合おう 福祉の地域づくり 新しい時代の 新しい働き方

運営(経営)は、正会員、賛助会員と協力者など数百人の支援者を基礎に、常勤、非常勤のすべての職員も参加する2つの運営委員会が月間の収支決算書に基づいて経営状態を審査します。一時金や昇給など働く条件や環境などは、常勤非常勤で構成される職員処遇委員会が検討し決めています。職員採用では、「働く仲間は自分たちで選考しましょう」と採用委員会が実施します。こうして2つの運営委員会の下、17の各種委員会が活動しています。

「みんなで運営」とは、まさに職員と地域の人たちが直接に事業を運営するということであり、みんなの声が形になるということを意味します。理事会は自らの権限を制限し、それを運営委員会に移し、生活支援と介護の場面で、運営と職場作りの場面で、「みんなで運営」を追求しています。

介護とは、一人ひとりの職員の感性を生かす作業でもあります。職員たちは、自ら人としての自立を基礎に、集団の中で個性が尊重される職場作りをめざしています。すべての職員が経営に参加する方向にこそ、ひなたぼっこの未来があり元気の源なのです。

(さいとうけいじ NPO法人ひなたぼっこ理事長)

事業内容

●高齢者
デイサービスひなたぼっこ (定員10人)
グループホームそよかぜ (定員9人)
●しょうがい者
居宅介護・重度訪問介護
地域生活支援事業(移動支援・日中一時)
就労支援
●自主事業
助け合い活動……ひなたぼっこ宿泊、家事援助、通院、移送など
福祉用具販売、相談、福祉車両貸出