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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年9月号

私の子育て体験
育てることで自分も育つ

立道聡子

2006年5月、私は待望の赤ちゃんと対面しました。

産む前には「両親に障害があるのに遺伝はしないのか。それにきちんと育てられるかどうかも分からないのに」と周りからの反対意見もありましたが、出産当日感じた壮絶な痛みもすべて何てことはないのだと思えるほどの感動でした。私には兄がいますが、身近に小さい子どもがいない環境で育ったので、まさにゼロからのスタートでした。おむつや哺乳瓶も初めて触るような状態でしたから、看護師さんの温かいまなざしと決して過剰ではないアドバイスとでようやく納得でき、どうにか安心して退院までこぎつけました。

心配していたミルク作りは付属のスプーンと計量カップを使えばとてもスムーズで、一度感覚をつかめれば後は不安もストレスも感じることは全く無く、充実した環境での生活が始まりました。ただ、私と主人は互いに全盲だったため、ベビーカーは使うことができません。そのため移動は片手で白杖を持ちながら、抱っこ紐で子どもを固定(またはおんぶ)しての外出ということになります。そこに買い物も加わった場合は、もう片方の手で荷物を持つことで安全を確保していきました。

私たちは自力での子育てを望んでいたので、自分たちでできるだけやっていけるようにと考えていました。とは言え、たとえば爪は非常に柔らかく、切ってあげることによって傷つけてしまうこともあるかもしれません。そこで出産を機にお願いすることになっていたホームヘルパーさんに相談してみると、適応外だけれどとおっしゃりながらも快く引き受けてくれました。耳掃除もかなりの難関でしたから、合わせてお手伝いいただくことにしました。

しかし、郵便物の確認や必要な書類の文字記入など、他にサポートいただかなくてはならないことが重なると、いつもいつもというわけにはいきません。そこで月に1回は主人の実家へお邪魔してお願いすることにしました。

私たち夫婦は子どもにできるだけ見える世界で過ごせる環境を整えておきたいと常々思っていました。一日でも早く慣れさせておこうと、1歳になる少し前から保育園に通わせることにしました。そんなことも功を奏し、発熱や肌や皮膚、顔などの状態も含めて気になる部分があるときには保育士さんにご指摘いただいたり、手を貸していただくことも何度もありました。

また、保育園が始まると連絡事項をやり取りしなくてはいけない状況が待っていました。家での様子は朝の通園時に直接お伝えし、保育園での様子は帰り支度を整える間に音読していただいたり、区で用意してもらったICレコーダーに録音してもらったりという対処をしていただきました。

半年を過ぎるころから、音のでるおもちゃで遊べるように工夫しました。ますます活発になってくると、いるはずのないところにちょこんと座っていたりということもあり、いつけがをさせてしまうかとはらはらの毎日。そんな時にインターネットでサークルの存在を知って購入し、近くにいられない時間帯はその中で遊ばせることにしました。サークル備え付けの新しいおもちゃやいろいろな音に彼なりに感動したのか、飽きずにずっと遊んでくれたので本当に助かりました。そのうちにサークルを無くしても遊ぶ音やある程度の行動パターンが分かってきて、毎日を通して危険のないことを耳でほぼ確実に感じられるようになっていました。

また、わが家ではアイコンタクトというのは当然存在しませんので、どうしても会話が重視されます。そのため子どももおしゃべりする時期が早かったように思います。指や手を口に持っていくことも初めは多くあったので、おしゃぶりを早くから与えるようにしました。外すのに時間がかかるかと心配していたのですが、汚れが目立ち始めて買い換えたものが普段と違う種類だと気づいたのか拒否するようになって、その日から自然にほしがらなくなり意外とあっさりしたものでした。そんなことがあってからは、考えすぎや心配しすぎることは何も意味は無いのだと私なりに解釈しています。

子連れの外出で困るのが雨の時です。小さいうちはおんぶで乗り切っていましたが、さすがに12キロを超えるとそうもいきません。2人での傘使用は危険を伴います。結局、子どもには長靴とレインコート、彼と手を繋ぐことになる私は片手に傘と白杖というところで落ち着きました。ところがこれだと周りの環境を杖で把握することが困難で、避ける前に柱にぶつかってしまうことも何度もありました。そうこうする間に子どもが自然に道を覚えて障害物を避けて歩けるようになり、危険物を回避できるようになってきました。

最近ではガイドヘルパーの方にもお手伝いいただくようになり、子連れ外出も一人でこなすより負担が無くなりつつあります。本来ならば障害者のためにだけあるガイド制度ですが、子どもがいる場合には、公園に連れて行って遊ばせるだけのことすら不都合が生じてきます。お願いする前によくよく区と福祉事務所に状況を伝えて子どものことも気にかけていただける方をお願いできるようになりました。頼りたくないと頑なに意地を張ってもどうしようもないことがあるのだ、と痛感させられる問題点でした。

こうして周りのみなさんに手助けしていただきながら、子育てにもだんだん慣れてきているこのごろです。困った時にはいつでもお願いできるような人間関係を持ち続けていきたいと心から願ってやみません。

(たてみちさとこ 東京都在住)