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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年9月号

仲間として支援者として
自然に広がった仲間の輪

岡部祐子

正直、きっかけはよく覚えていないのです。皆でサポートしましょう!と働きかけたわけでもなく、自然と手助けする形ができていったのです。

私が尾濱さんと知り合ったのは3年前、娘が保育所に入所し、尾濱さんの娘さんと同じクラスになったのがきっかけです。尾濱さんを撮影するテレビカメラが教室に入る、との案内があり初めて、尾濱さんが視覚障害者だということを認識しました。

『障害も個性である』とはよく言ったもので、個性的な人が好きな私は尾濱さんとも友達になりたいなあ、と思っていました。「何かできることがあれば言ってくださいね」と声をかけたのですが、保育所に子どもを預ける時間帯も違い、その後はあまり顔を合わせる機会もありませんでした。

特に話すきっかけもないまま、私も初めての子育てに奮闘する日々が続きました。それは0歳児クラスのどの家庭でも同じで、それぞれが仕事・家事・育児に精一杯、特に他の家族と交流を持つ余裕はありませんでした。ですから、保育所1年目はママ友交流もほとんどなかったのです。

子どもが1歳児クラスに進級し、尾濱さんと一緒に保護者会の役員をすることになりました。その時初めて連絡先を交換し、わが家へ招待したりして、徐々に仲良くなっていきました。仲良くなると同時に、どういうことで困ることがあるのか、行政がどのようなサポートをしているのか、していないのか、ということが分かってきました。そして徐々に、手助けする、というよりは、一緒に遊ぶようになりました。

ご主人が体調を崩されてからは、ますますサポートを必要とされるようになりました。視覚障害者でありながら、一人で仕事・家事・子育てをし、ご主人も支えなければならない毎日というのは、想像を絶します。時間制限のあるヘルパーさんでは足りないという状況になり、お手伝いすることが増えました。

私のスタンスとしては、尾濱さんはあくまでも友人です。支援する人とされる人の関係ではありません。障害の有る無しにかかわらず、友人が困っているから手助けをする、だけのことです。もちろん障害をもっておられるので、いろいろ推測して困る点はないか考えます。たとえば、クラス会の企画があれば、現地への移動は可能か等考え、必要に応じて動きます。元気いっぱいの3歳児を抱えて持て余していないだろうか?と想像し、週末出かける時に誘ったり家へ招待したりします。保育所の送迎をサポートしたり、一緒に食事に行ったり、他に手伝ってくれる人を探したりします。

次第に仲間の輪が広がり、一緒に過ごす時間も増え、尾濱さんは尊敬する大切な友人になりました。

実際、尾濱さんはとても手助けしやすい人なのです。周りにいる人が自然と手を出したくなるのです。新しく出会った人には、まず自分の障害について伝えます。前向きで行動力があって率直で、ちゃんと言葉で伝えてくれるので、何を必要としているのかとても分かりやすいのです。一緒に遊ぼうとのお誘いや、必要があればヘルプ要請の連絡を、メールや電話でくれます。だんだん、聞かなくてもどんな助けが必要か分かってきて、ママ友仲間で話し合って交代で手助けしたりします。できる限り対応するけど、無理はしない。だから私や他のママ友達も友達関係のまま手助けができ、ずっと続けていけるのです。

ただ、プロの支援ではないので足りない部分もあると思います。たとえば、対応できない時がある、不手際があるかもしれない、何よりプロの仕事はできない、等です。

それでも、私はこのサポート体制は理想的だと思っています。つまり、周りにいる人が普通に手を貸すサポートです。障害をもっている人が周囲の人に困っていることを伝え、可能な人が手助けをする、周囲の人も困っていないか心配りをする、それで埋めきらない部分は行政に責任を持ってプロのお仕事をしてもらう。それが当たり前にできる社会が理想です。

だからこそ、手助けを必要とされる方には遠慮せず周りに伝えてほしいと思います。すごく勇気がいることだと思います。私自身、助けを求めたり甘えたりするのは苦手なのでよく分かります。でも、それが第一歩となる可能性もあるのです。断られても傷つかないでください。たまたまタイミングが合わなかっただけかもしれません。時間に、心に、余裕がないのかもしれません。

手助けをしたい人は、実はたくさんいるのです。でも、何をすればよいのか分からないのです。下手に手を出して失礼にあたらないかとの不安もあります。断られたら気恥ずかしいとの思いもあります。

お互い勇気を持って歩み寄ることが必要なのかもしれません。

私は尾濱さんと友達になって世界が広がりました。今まで知らなかったことを知るチャンスに恵まれました。何より、ステキな友人、楽しい仲間ができました。

私たち仲間の輪は小さいけれど、こんな小さい輪があちこちに広がって、日本中いっぱいになるといいな、と思います。

(おかべゆうこ 大阪市在住)