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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年9月号

仲間として支援者として
自分らしい子育てを目指して~障害のあるパパママコミュニティ「S・I・O・N(すくすく生きる親の仲間)」立ち上げへの思い~

尾濱由里子

医師の言葉に泣いたことも…

私は現在、4歳の娘を子育て中のママであり、障害者の自立生活センターで相談支援のスタッフとして働いている視覚障害者です。

以前から目が見えなくても子どもを育てていける自信は不思議とあり、どんなことがあっても楽しみながら自分らしい子育てをしていきたいという強い思いがありました。しかし、いざ妊娠してみると、楽しんでばかりもいられない事実に直面していきました。

まず思い出すのは産婦人科の対応です。何度目かの診察日に医師から言われたのは「視覚障害のある人はうちではサポートできない、他の病院に移ってほしい」というものでした。言葉はそれだけにとどまらず「目が見えなくて一人でどうやって育てるつもりなのか、遺伝したらどうするのか、日常生活は一人でどこまでできるのか」と、ただでさえナーバスな妊娠初期の私に畳み掛けてきました。ただ悔しく、自宅に帰ってから泣いて泣いて泣き続けました。また出産で入院した時に、ヘルパーさんにおむつの換え方やミルクの作り方など、今後の育児生活に必要なことを一緒に見ておいてもらいたいと介助を希望しましたが、制度では入院中は介助が使えないことに気付きました。

そうした壁にぶつかるたびに親としての自信を失い、相談する場所もなく、ただストレスをためては鬱々とした毎日を送っていました。

無事に娘を出産したものの、産後の方がさらに大変でした。娘の口の位置が分からずうまくおっぱいを飲ませられない、ミルクの量がうまく量れない、着替えやおむつ換えが手際よくできない、本当に試行錯誤でしっちゃかめっちゃかな毎日でした。

孤独で不安で、それでも共感してくれる人はなかなかおらず、情報も手に入らない。楽しく私らしい子育てをするためには、障害者ゆえに社会から奪われた力を取り戻し、自分を回復させていきたい、障害のある親たちと繋がり、お互いを支え合いたい、そんな願いがだんだんと強くなっていきました。

「S・I・O・N」の立ち上げ

そして2007年、同僚の先輩ママと共に、障害のあるパパママコミュニティ「S・I・O・N(すくすく生きる親の仲間)」を立ち上げました。立ち上げたといっても、月に1回2時間の集まりをするだけなのですが、最初は私と同僚、そして関係機関の当事者ママさんの3人で始めたものが徐々にメンバーが増え、常に5~8人程度の大阪市内に住む障害をもつパパママが集まるようになっていきました。その障害もさまざまで、肢体、視覚、精神、知的など、障害種別を超えて繋がっています。

活動内容は、基本はピアカウンセリングです。子育てにまつわる悩みや不安、自分の障害のこと、夫婦の役割について、地域との関わり方など、一人で考えて押さえ込むか爆発するしかなかった心の葛藤を、ため込んできた感情を、信頼できる仲間同士で出し合い、聞き合います。また、みんなはこういう時にどうしているかなどお互いの経験を聞き合い、情報交換もしています。

仲間の存在が子育ての自信につながる

私自身、活動を始めるまでは、障害のある親として孤独な思いを抱え、スムーズに何でもこなせない自分に対して腹を立てたり情けなさを感じることも多くありました。でも毎月の集まりを重ねる中で、私たち親は、わが子からどんなに愛されているか、一人の人間として親としてどんなに素晴らしいかということに改めて気づき、子どもを育てる親としての自信を少しずつ取り戻していきました。障害があることでできないことがあってもそれはそれで何とかなるという余裕が生まれてきたり、仲間たちが与えてくれる温かい言葉に癒され心を和ませられる、そしてまた明日から楽しく生きていける、自然体の自分を受け止められるようになっていきました。

ピアカウンセリングは初体験という参加者も、毎月参加することで子育ての不安が減り、できなかったことでもチャレンジできる力を身につけていっています。それぞれの具体的な子育て経験を聞き合えるのも醍醐味の一つで、子どもの成長に合わせた情報を交換できる育児サークル的な要素もあり、「また来月も来たい」と思える充実した時間を共有できていると思います。

みんなそれぞれに子育ての喜びを分かち合い、前向きに元気に自分らしい子育てを実現しています。それは、種別こそ違うものの、同じ「障害のある親」同士で繋がっているという安心感や、みんなで力をつけて子育てしやすい社会に変えていきたいという強い気持ちがそうさせているのだと思います。病院で受けた嫌な対応も、使えない制度も、障害者が子どもを育てるなんて、といった一般的なイメージも、私たちが楽しく子育てしていることで変えていける、そんな気がしています。

これからも、初秋に薄紫の花を咲かせる紫苑の花のように、障害をもつ親として、一人の人間として美しく、時には格好悪くてもたくましく強く、愛しい子どもたちと共に歩んでいきたいと思います。

(おはまゆりこ 障害のあるパパママコミュニティ「S・I・O・N」)

☆連絡先&活動場所
(社福)大阪府肢体不自由者協会
障害者生活支援センター・いきいき(担当:谷口)
TEL:06―6965―2104
FAX:06―6965―2105
メール:ikiiki@daishikyo.or.jp

☆活動日 毎月1回第4水曜日 午前10時~12時