「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年9月号
わがまちの障害福祉計画 岐阜県高山市
高山市長 土野守氏に聞く
世界に範たるバリアフリー都市・観光福祉都市“高山”
聞き手:森隆男(中京学院大学教授)
岐阜県高山市基礎データ
- ◆人口:94,606人(2009年8月1日現在)
- ◆面積:2,177平方キロメートル
- ◆障害者手帳所持者(2009年3月末現在)
- 身体障害者手帳 5,149人
- 知的障害者(療育)手帳 669人
- 精神保健福祉手帳 216人
- ◆高山市の概況:
- 平成17年周辺9町村と合併し日本一大きな市となる。東京都とほぼ同じ面積。「飛騨高山」として知られる観光都市で年間約430万人が訪れ、内外国人は約17万人。豪華絢爛な年2回の高山祭をはじめ、歴史や伝統ある名所旧跡、温泉、北アルプスの美しい豊かな自然を誇る。市内の92%が山林だが、東海北陸自動車道の全面開通により利便性も増し、おもてなしの心のソフト面とハード面のバリアフリー施策とでますますの観光発展をめざしている。
- ◆問い合わせ先:
- 高山市企画課・福祉課
- 506―8555 高山市花岡町2―18
- TEL0577―35―3134(直) FAX0577―35―3174
- http://www.city.takayama.lg.jp
▼まず、高山市の特色をお伺いします。
「飛騨高山」として、また飛騨牛の産地として名高い高山市は、岐阜県北部に位置する古くからの文化、政治、歴史の中心地です。伝統文化の保存がよく、北アルプスを望み、自然景観に恵まれ、温泉も多数あり、日本有数の観光都市となっています。従って、観光が主たる産業ですが、トマトやほうれんそう、畜産など農業も県下有数の生産地です。立地上の特性ゆえ、製造業は盛んとはいえませんが、東海北陸自動車道の開通により、今後は変わりうるといえます。
なお、平成17年2月に周辺9町村と合併し、日本一広大な都市になりました。この合併により、福祉をはじめとした行政水準は中心たる旧高山市の水準に合わせたため、周辺町村の水準は上がりました。財政力指数は、合併前は0.74、合併後は0.43と下がりましたが、昨年は0.56にまで回復し、今後さらに改善される見通しです。
▼高山市はバリアフリーを最も徹底されているまちだと聞きお伺いしたわけですが、それはどういうことでしょうか。
高山市がバリアフリー政策を強化するきっかけとなったのは、まず市民の高齢化問題でした。平成7年当時、市の高齢化率は国の平均よりも先行し、また加齢に伴い障がいをもつ人が増加していました。そうした状況に対して、「市民の誰もが自由にまちに出られるようにしたい」と考えたのです。
他方、全国でも高齢化により観光で高山を訪れる高齢者や障がい者の急速な増加が予測され、そうした方々への配慮としてもまちのバリアフリー化が必要になってきました。市民にとって住みやすいまちであれば、観光客にとっても過ごしやすいまちになるとの考えから、「住みよいまちは行きよいまち」をコンセプトとして政策を実施していきました。
実施にあたっては、平成8年に5人の重度障がい者を迎えてモニターツアーを実施し、その後も毎年ツアーを重ね、これまでに23回実施しました。車いすの利用者のみならず、視覚・聴覚障がい者や高齢者、外国人にも参加していただき、これまでに延べ400人ほどの方から貴重なご意見を聞き、バリアフリー政策に取り入れました。このモニター事業により、高山市のバリアフリーは真にユーザーニーズに応えたものとなっています。
▼本文で触れていないバリアフリー関連施策
「誰にもやさしいまちづくり条例」事業者認定制度(ソフト・ハード別マークあり) |
安心・安全・快適なまちづくり事業による改修費助成 |
中小企業バリアフリー化資金融資 |
「おもてなし研修会」の実施 |
音や光を利用した「ユニバーサルeステーション事業」の実証実験 |
携帯端末、UCを活用した「自律移動支援実証実験」 |
▼モニターを徹底的にされた、また現在も継続しているのは大事なことですね。それでどんなことが具体化されましたか。
一つは、道路の改修です。車道と歩道の段差を解消し、歩行者ゾーンにカラー舗装をし、歩車共存型道路の整備をしました。また、車いすやベビーカーの車輪が落ち込まない仕様のグレーチングに換えました。
次に、快適公衆トイレの整備です。車いす対応または多目的型トイレ、オストメイト対応や大人のおむつ交換ができるユニバーサルシートの設置に取り組みました。公的施設や民間施設のトイレも合わせれば、市内には130か所の車いすで利用できるトイレがあり、市の人口を考えれば全国屈指のトイレ密度といってよいでしょう。
三つ目に、民間事業者の取り組み支援があります。ホテルの大浴場や客室のバリアフリー改修、施設出入り口のスロープ化、円滑に乗降できるタクシーサポートシートの導入など、民間事業者の取り組みに助成を行っています。
さらに、ソフト面での取り組みをしています。たとえば視覚障がい者に配慮した「点字や音声による観光マップ」、さまざまなお客様を迎えるための事業者の対応の仕方をまとめた「人にやさしいコミュニケーション365日」といった冊子の作成、市のホームページは、音声読み上げ、拡大文字などバリアフリー基準に合わせたものとし、観光情報は日本語を含む12言語で表記しています。
▼その他にも市独自に取り組まれている事業は多いようですね。
少しでも多くの人が過ごしやすいまちにするために、「バリアを取り除くまちづくり」から「バリアを生まないまちづくり」へと視点を換え、平成17年にはそうしたユニバーサルデザインの考え方によるまちづくりの方向を示す「高山市誰にもやさしいまちづくり条例」を制定しました。これは、高山市が独自に定めた制度で、国が制定した「ハートビル法」(現バリアフリー新法)の基準よりもさらに厳しい内容にしています。たとえば、ハード面で適合義務の対象となる建築物に、保育園や学校を加えたり、施設の範囲を広げたりしています。また、50室以上の客室を有するホテルや旅館は車いす使用者用の客室を設けることや、積雪寒冷地であることから出入り口には屋根・庇を設けること、などの整備基準を加えています。
▼そうしたまさに先端的なバリアフリーの観光都市であることから全国からの見学者も多いようですね。それにまた、今年は、高山市がイニシアチブをとってバリアフリー都市推進のための国際会議が開かれるようですが。
「バリアフリー高山会議~住みよいまちは行きよいまち~」のことですね。これは、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)と高山市との共催で、今年の11月24~26日、高山市で開催します。
そのプレイベントとして8月28日には、同会議の周知を目的として、「バリアフリーで真に豊かなまちづくり~アジア太平洋におけるアクセスの現状と国連・岐阜県高山市の取り組みの考察~」を行います(於東京・国連大学本部ビル)。そこでは、国連がアジア太平洋で進めているバリアフリーとアクセシビリティがどのようなものかを知り、各国のバリアフリー推進と同分野における国際協力および当事者参画の重要性の再認識を目指します。高山市の取り組みを紹介し、地方自治体のイニシアチブによるバリアフリーの大切さや、アジア太平洋という視点からみた共通課題の明確化を図ります。
▼バリアフリー都市の先進地である高山市ならではのことですね。それ以外の地域の障がい者に対する施策や地域福祉計画はどうなっているのでしょう。
前述した合併に際しての障がい者施策の調整にあたっては、必要なサービスを妥当な水準で持続的かつ安定的に提供できるよう、関係町村の福祉分科会や社会福祉協議会などの関係機関との協議を進めました(その辺の経緯については、本誌2006年7月号参照)。その結果、旧町村では実施されていなかった補装具の交付や修理に対する自己負担への助成、重度障がい者に対する紙おむつの購入費助成、屋根融雪装置の設置費用の助成、在宅障がい児が通園施設や病院等に通う費用の助成、など旧町村地域のサービス水準は向上しています。また、重度障がい者のタクシー利用助成、その他障がい者の移動支援・外出支援については社協などに委託しています。旧町村内を走る巡回バス、通学バスは無料です。
授産所等への支援については、花苗など製品購入のほか、カン・ペットボトルの分別作業を委託しています。また、市内の一番の目抜き通りに店舗を貸与し、アンテナショップを開き、授産施設等の製品を障がい者が販売をしています。他に就労支援事業所に通う障がい者の利用者負担分は全額助成(その他の障がい福祉サービスについては、サービスの種類により5~10割を助成)、手話通訳者養成支援事業があります。
高山市地域自立支援協議会は、平成19年3月に設置され、30人の委員からなり、相談支援、医療、就労、地域活動・権利擁護の4つの部会があります。岐阜県下でも活発な協議会と県の担当者から言われたところです。
▼障がい者の就労促進ということについてはどのようにお考えでしょうか。
高山管内における障がい者雇用率は1.62%(平成19年度)、国の1.55%、県の1.60%よりもやや高い状況です。前述したように観光業や農業のウエイトが高いということで、一般就労の促進が難しい面がありますが、一部の観光業で障がい者の雇用が進んでいるといった例もあり、これからはそうした面にも力を注いでゆきたいと思っています。なお、市の単独事業として職親(しょくおや)制度には力を入れています。これは昭和51年から始め、障がい者を一般雇用している事業所に助成するものです。平成19年度は30社と契約を結び、98人の障がい者が雇用されています。
▼今後について一言お願いします。
「誰にもやさしいまちづくり」の取り組みは予算も時間もかかり、終わりのない取り組みです。日本一広い面積を有する市域全体にバリアフリー化をどう浸透させていくかが課題です。
(インタビューを終えて)
インタビュアー自身両下肢障がいをもった歩行困難者である(2級)。それもあってか、市長とのインタビューの前に市内のバリアフリーについて、実際見学することにした。普段はクラッチを使って歩いているが、今回は同行の編集者の勧めもあり初めて車いすというものを使ってみることにした。これまで利用したことがなかったので何となく不安であったが、編集者が車いすを押してくれ、市の職員の方も案内をしてくれるというので、市内を1時間ほど車いすで巡ってみた。
そこで感じたこと、二つ。一つは、車いすで観光することは大変に楽で楽しいということ。普段、自動車で通り過ぎるだけの観光施設があるいは店がゆっくりと目の高さでみられるということは、全然違った印象を持てる。これからは、観光はできるだけ車いすでしようと思う。もう一つ感じたことは、なるほど高山のバリアフリーは徹底しているということである。これだけ徹底していると、障がい者は旅行すること、観光することが苦にならないどころか楽しくなる。市内の「かんかこかん」では、車いす・電動スクーター・ベビーカーの貸し出し、一時保育(有料)も行っている。こうした観光地があちこちにできることを切に願う。