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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年11月号

わがまちの障害福祉計画 東京都稲城市

稲城市長 石川良一氏に聞く
介護支援ボランティアの推進で共助のまちづくり

聞き手:馬場清(浦和大学准教授)


東京都稲城市基礎データ

◆人口:83,044人(2009年10月1日現在)
◆面積:17.97平方キロメートル
◆障害者手帳所持者(2009年4月1日現在)
身体障害者手帳 1,629人
知的障害者(療育)手帳 310人
精神障害者保健福祉手帳 256人
◆稲城市の概況:
都心から西南に25キロ、多摩川の右岸に位置し、新宿からも電車で30分と交通至便。1970年代以降の多摩ニュータウン建設による私鉄沿線の開発に伴い人口が急増。「都市景観大賞」(平成7年)に代表される開発地区と、市南部の多摩丘陵は南山(みなみやま)と呼ばれる自然豊かな里山を有し、現在もタヌキ、オオタカなどが生息する。谷戸地形を生かして古くから農業も盛んで、梨(多摩川梨、稲城)、ブドウ(高尾)の産地としても有名。Jリーグの東京ヴェルディの本拠地でもある。
◆問い合わせ先:
稲城市福祉部障害福祉課
〒206―8601 稲城市東長沼2111
TEL 042―378―2111(代) FAX 042―378―5677
http://www.city.inagi.tokyo.jp

▼今日、都内からここまで来るのに電車で来ましたが、稲城市に入ると急に緑豊かな部分と市街地の部分がうまく調和がとれている感じがしました。そんな稲城市の魅力を教えてください。

まず何と言っても、昔から住んでいる住民と新しく移り住んで来られた住民が、うまく溶け込んで、新しい文化を創り出していることです。稲城市はおっしゃるとおり緑豊かな丘陵地に広がっていて、昔からの文化や伝統が根付いている地域と、多摩ニュータウンの一角として開発されたマンション群が立ち並ぶ地域が混在しています。その中で、ニュータウンにも消防団が組織されるなど、昔からの仕組みでいいものは残そうとしていますし、新しい地域で設立されたNPOなどの新しい動きにも注目しています。

また市内にはJRと京王線合わせて電車の駅が6つもある一方、核となるような中心的な市街地はありません。その分、市内全体が均衡がとれた発展をしており、学校が多いのも特徴です。中学校区(6区)には文化センターと図書館があり、人口6万~8万人の市で市民一人当たりの図書館の本の貸し出し数は日本一となっている文化的都市でもあります。各文化センターには、公民館、児童館、学童クラブ、老人福祉館が入っていて、教育と福祉の複合施設として市民の方々にご利用いただいております。高齢化率(現在16%)はまだ低く、人口の伸び率も高く成長しつつある都市であるといえます。

▼稲城市といえば、全国に先駆けて「介護支援ボランティア」の制度を創設されたことで知られていますが、この仕組みを始めた目的と意義を教えてください。

平成12年に介護保険制度が始まった背景には、もう家族だけでは介護は支えきれないという問題がありました。そこで私なりに地域で介護を支えるための仕組みが必要だと考えたのです。そこで始めたのが、この「介護支援ボランティア」です。

この制度は高齢者の介護支援ボランティアの活動実績等を評価した上でポイントを付与し、その高齢者の申し出により、ポイントを換金した交付金を交付する制度です。最初は厚生労働省も反対したため、結局は構造改革特区の制度を利用して平成19年9月からスタートし、本格的に始めたのが昨年4月からです。今では当初の予測をはるかに超えた364人(9月末現在)の方々がボランティア登録をし、中には91歳の方もいらっしゃいます。実際に介護予防にも効果が現れており、国内はもとより外国からも多くの方が視察に訪れています。

▼これからどの地域にも必要となる新しい「共助」の仕組みをいち早く創られたわけですね。さて、稲城市の障害者施策について、市長の基本的な考え方、哲学をお話ください。

基本的には、障害のある人が地域で生きていくことを排除しない社会、一言で言えば「ノーマライゼーションの実現」ということになると思いますが、そんな地域になることを望んでいます。

実は以前こんなことがありました。まだ市内に障害者施設がなかった時、ある法人から知的障害者更生施設をつくりたいという要望が出され、市としても積極的に誘致を進めました。ところが建設予定地が、マンションの目の前だったこともあり、建設反対運動が起こったのです。市としては、粘り強く説明を続け、私も直接、反対運動のリーダーと語り合ったのを覚えています。かなり苦労しましたが、何とか平成14年に市内で初めての障害者入所施設がオープンしました。この過程を通じて、私自身も地域の方々も障害者、あるいは障害者施設というものについて、深く考えるきっかけになったと思っています。まだ完全にわだかまりが無くなったわけではありませんが、地域の方々との交流も始まり、少しずつではありますが、「共に生きる社会」ができてきています。

▼具体的に、稲城市の障害者施策についてどんなことに力を入れているのか、お話ください。

今年の3月に第2期稲城市障害福祉計画を策定しました。その基本理念は「ともに生きる安心のまちづくり」です。中でも「就労支援」と「地域移行」について、具体的な取り組みを開始しています。

▼まずは「就労支援」について、どんな取り組みをなさっていますか?

「いなぎワークセンター」では、不動産管理会社と提携して建物共有部分の清掃活動やお菓子作り、喫茶室の運営を通じて、一般就労に向けた取り組みを行っています。自立支援法上の就労移行支援事業では、昨年度までに6人の方が一般就労されています。また、喫茶室「ぽらーの」は、市役所の隣にある文化センター1階にあり、軽食のほかパウンドケーキやクッキーの販売も行っています。

さらに、「チャレンジ実習」と呼ばれる庁内実習を今年度から開始しました。1週間コースと2週間コースを設け、市役所内の各課からリクエストのあった事務補助作業をやっていただいています。実践的な事務作業を体験できると好評で、それまでなかなか生活リズムが整わなかった方がこの実習を始めてから遅刻せず、自分でしっかりと生活リズムを整えるようになったという報告も聞いています。

▼やはり「市役所での仕事」ということになると、モチベーションも上がるのではないでしょうか。次に「地域移行」の状況について、お話ください。

市内にある障害者支援施設「パサージュいなぎ」は、東京都のこれまでのコロニー型の入所施設の施策を転換し、障害者も地元で暮らすということをコンセプトに、地元優先枠をこれまでの10%から30%にまで拡大して設立された施設です。つまり、ある意味「地域移行」というのが前提にあったと言ってもいいわけです。

そこで地域での受け皿として、「RUE大丸」「RUE矢野口」「GIVING TREE」などのグループホームやケアホームをつくってきました。今後も新たにグループホームを設置する計画もあります。私も実際に訪れましたが、地域の中に溶け込んで、うまく地域移行ができていると感じました。特にこうしたグループホームは、市の課題だった区画整理事業の一環として、こうした取り組みに理解のある地域の方々の協力を得ながら進めましたので、自然に地域に受け入れられてきていると思われます。

▼先ほど「コラボいなぎ」を見学してきたのですが、この施設の意義について聞かせてください。

コラボいなぎは、うめだあけぼの学園の加藤正仁先生が理事長を務める社会福祉法人正夢(まさゆめ)の会に委託しています。ここには「こども発達支援センター」「ワークセンター」「就労支援センター」「相談支援」と4つの機能を持っています。小さいお子さんから大人まで、さまざまなニーズをもった方々が利用されています。特に小さいお子さんをお持ちの保護者の中には、なかなか自分の子どもの障害を受容できない場合があります。そんな時、1か所にまとまってあることで、先輩の方の話を聞いたり、障害のある人が働いている姿をみたりして具体的なイメージとして、子どもや自分の将来を考えられるというメリットがあります。障害のある人は総合的な支援を必要とする方が多く、1か所にあることで子どもから大人まで継続して支援ができるという利点もあります。

図 コラボいなぎ拡大図・テキスト

またこの施設の目の前に保育園があり、そこの園児たちとの交流も進んでいます。小さい時から障害のあるなしにかかわらず、一緒に遊んで過ごす経験をもつことができるのは、障害理解とかノーマライゼーションの進展といった時に、とても重要な要素だと思っています。

▼最後に今後、特に力を入れていきたい施策についてお聞かせください。

やはり就労支援ですね。今まで力があってもなかなかその力を発揮できる場がなかった人たちが、就労を通して、自分の持てる力を発揮していただくことは、とても大切なことだと考えています。それから利用者の居場所というか、仲間とコミュニケーションをとる場が今はありません。仕事から帰って、一息付ける場所がほしいという要望がワークセンターの職員からもでていますので、考えていかなくてはいけません。働く場をどう作るか、どう広げていくか、市としての姿勢が問われます。今後も積極的にメッセージを発信していきたいと思っています。自分で稼ぐということは、自立への第一歩ですし、税金を支払う側にもなれるからです。

▼前半のお話の中にあった「介護支援ボランティア」を、高齢者向けだけに限らず、障害者の就労支援にも活用するなど、今後さらに「新しい支え合いの仕組み作り」に向けて、これからもいろいろなアイデアを出していただくことを期待しております。本日はどうもありがとうございました。


(インタビューを終えて)

よく生活問題が起こった際の解決方法として「公助」「自助」「共助」の仕組みがあると言われている。しかし、今後「公助」が大幅に伸びていくことが期待できないだけに、「共助」の仕組みをどう創造していくかが、各地域の大きな課題であることは言うまでもない。石川市長は、5期連続当選という実績の中で、強い信念を持って、この「共助」の仕組みを作り出してきている。今後ともさらに政策を進め、障害者も安心して住めるまちづくりのために、他のどの地域にもないさまざまなアイデアを繰り出していただきたい。