音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年11月号

列島縦断ネットワーキング【大分】

団地で朝市を通した地域交流
―障害者理解の取り組み

白石一徳

障害者理解のために何ができるか

精神障害者の地域移行が叫ばれる中、各地での先進的な取り組みの報告を聞き、自分の地域や町でどのようなことができるだろうか?とずっと考えてきました。精神障害者への理解は大分県内でも状況はさまざまでした。フライハイムは、仲宗根病院の併設施設で大分市内の小野鶴という地域にあります。30年前は周囲に何もなく長閑な風景が広がる所でした。しかし、大分市の分譲住宅団地の開発やインフラ整備、さらには郊外型の大型ショッピングモールなどの進出により周りの環境は一変してきています。

平成13年4月にフライハイムは開設しましたが、当時は利用者と地域の交流は全くありませんでした。しかし、利用者が増えるにつれ各々の生活リズムや行動範囲の広がりから、地域住民と出会う機会も増えて「病院の患者が出ている」などの言葉を聞くようになりました。このようなことで利用者には肩身の狭い思いをさせていたのもまた事実です。入院治療を終え精神的に安定した状態の中、社会復帰・生活のリハビリを行っていることへの理解は難しく、どうしたらよいのかという思いでいました。

そのような時、平成19年12月に行われた大分精神障害者就労推進ネットワーク主催の「精神障害者就労推進フォーラム」で、精神障害者の就労には地域との連携が重要であるということに気付かされました。地域と連携するには、まず地域のニーズを探し出すこと、次に、そのニーズに障害者をどのようにマッチングさせるかという課題がありました。

それから大分市での地域のニーズ探しを始めました。人づてに地域住民の方にお話を聞き、また行政に何か地域に関する情報がないか等情報収集する日々が続いていたある日、大分大学の研究報告会「福祉で町おこしin大分」に参加しました。内容は大分市内の2つの住宅団地住民の意識調査で、高齢化していく住宅団地でどうしたら町おこしができるかというものでした。コミュニティ調査の結果は住民の約3割が高齢者であり、その多くが単身世帯や2人世帯でした。日常生活では、自動車の運転ができなければ普段の買い物にも行けないような状況でした。私が調査内容の中で注目したのは「団地内で参加したい事業」です。「祭りなどのイベント」「定期的な食事会」「趣味の会」「健康作りや介護予防の会」などがある中で「定期的な朝市」というものにヒントを得ました。

朝市を通した交流

フライハイムでは開設以来、利用者と共に農園作業を行っていました。収穫した作物は法人内での使用や、近くのガソリンスタンドでの販売くらいしか利用していませんでした。この野菜を「朝市」という形で地域の方に提供しようと思いついたのです。しかし実際はどこの自治会で行うのか、またどのように朝市を展開するかは、その時点では決まっていませんでした。

まず法人内の許可を取るために事務長に説明をしたところ、意外にもすんなりと許可が下り、次の日から朝市に向けた計画を練り始めました。最初に迷ったのが、どこの自治会に交渉に行こうかということです。「地域の方々は、精神障害者の野菜販売を本当に受け入れてくれるのだろうか?」といった単純な不安がありました。しかし、やると決めてやらないわけにはいかず、勢いで周辺の自治会を車で散策している時に、宗方台団地の公民館に目を付けました。駐車場の広さや寄り付きの良さ、また世帯数から予想する住民の数がちょうどフライハイムが提供できる野菜の範囲ではないかと思ったからです。後は自治会役員さんとの説明会です。その日に備え、住民の方への案内文、野菜販売のチラシ、利用者の作業風景写真、農園の写真、実際に採れた野菜をお土産として持参しました。説明会をしたところ、快く了承していただき、今まで悩んでいたことは何だったのかと、また自分自身が勝手に壁を作っていたことに気付かされました。それから第1回の朝市まではあっという間でした。

はじめて朝市に参加

平成20年4月24日、いろいろな不安を抱えながら、職員3人と利用者5人で1回目の朝市を行いました。開始時間前には地域の方が集まり始め、利用者に緊張が走り、その緊張が職員にも伝わってきました。利用者の「今からフライハイム朝市を行います」の掛け声でお客さんが殺到し、目の前にある野菜が次々と無くなり、その場で現金のやり取りが始まりました。たとえはよくありませんが、バーゲンのワゴンセールで、なおかつその中で会計、袋詰めを行ったような感じです。スタッフも圧倒されましたが、混乱した一人の利用者が後ろを向いて手を叩きながら「いらっしゃいませ」を言い続けていたのを今でも思い出します。ものの10分で用意したすべての品物が売り切れてしまいました。

その日のうちに反省会を行い、利用者からは「大変だけど達成感がある」「あんなに人が来てびっくりした」「期待に応えたい」「準備などにやる気が出た」「やっぱり緊張した」「お年寄りが多かった」などさまざまな意見が出て、今までにない活気ある反省会となりました。反省会で出された利用者のアイデアや意見を取り入れ、朝市は毎回、スタイルを改良・向上させながら続けていきました。あまりのニーズの高さから「もっと地域の方の役に立ちたい」と6月からは月2回、第2木曜日と最終週の木曜日に行うことになりました。

4月からスタートした宗方台団地の朝市が評判になり、7月には隣の松ヶ丘団地の自治会の皆さんが見学にみえて、「うちの自治会でもやってもらえないだろうか」と相談に来られました。そこで7月25日と8月12日に試験的に行って様子を見ることにしました。松ヶ丘団地の規模は宗方台団地の約2.5倍ありましたので、通常の1.5倍の品物を用意しましたが、2回ともあっという間になくなってしまいました。

また、かねてから「障害者(身体・知的・精神)の理解のために」という思いもありましたので、松ヶ丘団地での朝市はフライハイムだけではなく、知的障害者と精神障害者の施設にも声をかけて、参加してもらうことにしました。松ヶ丘自治会の方も快く了承してくださり、10月9日からは3つの施設共催の形でスタートしました。

現在、松ヶ丘団地では月2回(第2・第4木曜日)朝市が開催され、フライハイムを含め5つの施設と2つの自治体も参加し、「朝市」はそれぞれの思いを乗せて広がりを見せています。

朝市から広がる地域参加

朝市を行うようになり、自治会の方々からさまざまな相談を受けるようになりました。高齢化する団地では、公園の清掃にも手が回らない状況であること、住宅団地の空き地の除草作業ができなくて困っていることなどです。現在は、2つの公園の整備を年3回、空き地の除草作業は年2回、8か所で行っています。また、自治会行事への参加も受けるようになり、夏の盆踊り大会でのカキ氷は大変好評でした。

活動の場は、少しずつ地域へと広がっています。今まで施設内で完結していた生活が、社会に触れることで徐々に広がりを持ち、利用者の皆さんが「地域で暮らしている」と実感する一方、自らの行動や意識にも責任・自律を持ってほしいと思っています。

障害者の暮らしやすい地域は、きっとだれもが暮らしやすい地域なのではないでしょうか。この取り組みはまだ始まったばかりですが、いろいろな方の力を借りてここまで継続することができました。今はネットワークの大切さを感じています。今後どのような展開があるのか、手探りの状態で不安ではありますが、期待もしています。今回、地域の方々とコミュニケーションをとるようになって利用者の皆さんには、やりがい・達成感・自信が芽生えました。この気持ちをまた新たな環境の元でも発揮できるように、取り組んでいきたいと思っています。

(しらいしかずのり 生活訓練施設フライハイム精神保健福祉士)