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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年1月号

こう変わるべき障害者施策
「障害者を締め出す社会は弱くて脆い社会である」

勝又和夫
日本障害者協議会代表

このタイトルの言葉は、1981年の国際障害者年決議の一節ですが、わが国の障害者福祉は、この国際障害者年を大きな契機として確かな前進を遂げつつあったと思いますし、個人の努力から社会の支援へと年々強まっていったと評価しています。

1989年11月9日のベルリンの壁の崩壊により東西冷戦の時代が終わり、世界的にみても極めて大きな価値観の変貌の中に、先進各国が新たな価値観を求める時代的背景もあったと思っていますが、この中で障害者福祉に対する考え方も、時代の波に左右されつつも確実に改善されてきていたと言えます。1993年の細川内閣の誕生や、その後の自民党と社会党の連立による村山内閣の発足など、政治的な混迷の中にあっても、わが国においても障害者福祉は確実に前進を遂げてきたと言えますが、1990年のバブル経済の崩壊による「失われた10年」の後の政権においては「聖域なき構造改革」の名のもとに、貧困率15.9%というOECD 30か国中下位から4番目の国となってしまい、障害者福祉にもその影は及んできました。

基礎構造改革路線が障害者福祉分野に何をもたらしたかと言えば、少子高齢化社会の切り札として登場した介護保険の財源不足で、障害者福祉を介護保険に統合させることによって若年層からも保険料の徴収をもくろんだことに始まります。このために「人に合わせて服を着せる」のではなく、「介護保険という服に合わせて障害者福祉制度を変える」といった意図をもって障害者自立支援法を制定し、障害者の大きな反発の中で異例中の異例でもある、法施行後、毎年制度変更を行わざるを得ない事態を招き、法成立を決議した政党自らが、法の真髄でもある部分について「介護保険とは統合しない」「定率(応益)負担は応能負担とする」等の改正を国会に上程するまでになりました。改めてこれらのことを考えると「障害者福祉の本筋にやっとで戻った」というのが実感であり、自立支援法の廃止が明言されている現在においては、障害の有無にかかわらず「障害者を締め出す社会は弱くて脆い社会である」ことを肝に銘じて、新たな社会の構築とともに障害者に合わせた制度設計に着手してほしいと願っています。

障害者福祉は障害のある国民のためだけではなく、社会の鏡の役割を果たしていることを、国民すべての共通した思いとなることを願って止みません。

(かつまたかずお)