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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年1月号

列島縦断ネットワーキング【宮城】

岩沼市知的障害者自立生活体験学習施設
トレーニングホーム「たてした」

野口泰宏

グループホームに移行する前のトレーニングとして…

利用者の皆さんが1日の仕事を終えて、元気に「ただいまあ」と言いながら集まってくるところから宿泊体験が始まります。

トレーニングホーム「たてした」は、平成14年6月に開所しました。当時、グループホームは入所施設利用者の方々が地域生活に移行する手段として自活訓練事業等のトレーニングを経てどんどん増えている状況でした。

岩沼市は、在宅の知的障害者も家庭の環境によっては、現在の生活を将来にわたって維持していくことが難しくなることが予想される中で、家族に頼ることなく、自分の力で、生まれ育ったあるいは、住み慣れた地域で生活する方法の一つとしてグループホームの利用も必要になると判断しました。そのためには、「明日から突然グループホームで共同生活」というのでは無理があり、その前にトレーニング施設が必要と考えました。住宅モデル展示場だった一戸建てを岩沼市が買い上げ、ここで自立生活体験事業を行うことにしました。

トレーニングホーム「たてした」は設置主体が岩沼市で、私たちの法人(当時は宮城県福祉事業団、平成17年4月より宮城県社会福祉協議会と統合)がこの事業と併せて、岩沼市知的障害者通所授産施設ひまわりホームと岩沼市障害者デイサービスセンターやすらぎの里(現在は岩沼市障害者地域活動支援センター)の運営を受託しました。この事業については、ひまわりホームの利用者さんを中心に開始しました。

利用者の負担金は、当初、一泊につき1,550円でしたが、平成16年11月より宮城県の知的障害者グループホーム体験ステイ推進事業と併せて実施したことにより、一泊900円としました。

どんな体験をするの…

最初の登録者43人のうち5人は平成15年12月よりグループホーム(現在は、ケアホーム)に入居、そのほか7人は学校在籍時に宿泊体験のみ行った方、あるいは体調不良など個人の理由により利用が中止となっており、現在は女性9人、男性22人、計31人が毎月1回の1泊から3泊の宿泊体験を行っています。1日の定員は4人で平日のみですが、毎日3~4人の方が利用しています。

通所施設の利用や会社の仕事が終わると、夕方4時30分から5時頃にホームへ来ていただきます。部屋とベッドを自分たちで決めてもらい(2人一部屋)、その後、利用者さんと職員とで夕食、朝食のメニューを話し合い、必要な食材を近くのスーパーまで買い物に行きます。調理は主に職員が行いますが、利用者さんも一緒にできることを手伝ってもらいます。後片付けもそれぞれに行ってもらいます。自分の使った食器は自分で洗うようにしていますが、一人では難しい方は皆で協力、分担して行います。

夕食後は、順番に入浴しながら就床まで自由に余暇を過ごします。この時間はお茶やジュースを飲みながら日中の様子や翌日の作業予定などをお互いに話し合ったり、一緒にテレビを見て笑ったりして過ごします。話をすることが苦手な人もほかの人たちが笑って話していると一緒にニコニコして聞いています。

就床時間の目安は、夜10時ですが、それぞれの生活に合わせ好きな時間に就床してもらっています。早く休む人もいますし、テレビドラマを最後まで見てから休む方もいます。普段あまり話をしない方が遅くまで家族のことや思い出話をしてくれることもあります。

朝は、通常は6時30分に起床し、全員で朝食をとって日中の活動場所に間に合うように出かけます。

利用者さんの様子や変化は…

トレーニングホームで体験を始めた当初は、家庭以外の環境になかなかなじめずほかの利用者さんに八つ当たりをしたり、家族がいない不安で夜もなかなか眠ることができなかったりという方もいました。しかし、こうした行動をとっていた方が宿泊体験を繰り返すことで余暇時間の過ごし方を自分で見つけ、落ち着いて過ごせるようになりました。その結果、施設で実施している一泊旅行でも皆と一緒に落ち着いて過ごすことができ、夜もぐっすりと眠れるようになりました。

また、将来は一人暮らしが夢だったけれど、トレーニングホームでの生活を具体的に体験することによりグループホームでまず自立する、という目標を持てるようになってきたと感想を言ってくれる方もいます。

利用者さんのいろいろな組み合わせを体験してもらい、利用者さんそれぞれの相性も分かってきました。全体的に仲間同士で友達の家に泊まりに行くような、そんな雰囲気が感じられるようになってきました。利用者さん同士で共同生活することが楽しいと感じてもらえることが大切だと思います。

家族の思いや期待は…

平成21年3月に、家族の皆さんにアンケートの協力をお願いしました。いただいたご意見の一部を紹介します。

「お子さんの将来についてどのような生活をしてもらいたいとお考えですか」という質問には、27人中15人の方が「現在暮らしている地域で家族から独立して生活してもらいたい」と答えていました。そして、その理由を次のように述べています。

・姉妹は結婚して家を出ていくことになると思うし、親自身も年齢的に体のことが心配になってくるので、親亡き後の本人のことが心配で不安になる。

・本音としては、このまま家族とずっと一緒に暮らせたらお互いにとても幸せなのだろうが、子どもが家族から独立することが本当の意味の「自立」なら、そのように導くのが親の務めであろうと思う。親が元気なうちに道筋をつけておきたい。それには地域(の理解やサービス)がまだまだであるが、独立することをめざしたい。親がいなくなったら一人であらゆるサービスを利用して生きられればいいのだろうが、人間一人で生きるのは難しいし、かといって姉妹の人生に負担をかけさせたくない。程よい距離を置いて、お互い良い関係でいてもらいたい。

・家族と一緒の今の生活が本人にとってはベストで安心していられる空間かと思うが、それはずっとできることではないので、どこかで独立して生活しないと親子ともに大変なことになると思う。

おわりに…

私たちとしては、少しでも多くの方に宿泊体験をしてほしいと思っています。今後、具体的な目標が見えてきた方々に対しては1週間を通して、あるいは1か月間の長期的利用を実施できるように、利用者・家族の皆さんと検討していくことにしています。

「自分の元気なうちは一緒に生活したいが、将来を考えると不安だ」そんなお考えをお持ちのご家族の皆さんにとって、親・家族が元気な今だからこそ、自立(律)生活に向けたトレーニングが必要ではないでしょうか。

(のぐちやすひろ トレーニングホームたてした所長)