「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年2月号
第33回総合リハビリテーション研究大会に向けて
―2010年9月3日(金)・4日(土):東京(東京大学安田講堂)
大川弥生
はじめに
総合リハビリテーション研究大会は、日本障害者リハビリテーション協会の主催で各回ごとの実行委員会でテーマ等を決めて行ってきたものです。その経過は本号の上田論文で紹介されているように、さまざまな職種の人々や障害当事者が集い、開催された各地域での総合リハビリテーション(以下、リハと略す)の芽となり、さらに強い連携への足掛かりとなったといえます。第33回総合リハ研究大会は、本年9月3日(金)・4日(土)に、東京大学安田講堂で開催いたします。
私自身が初めて参加したのは第5回からでしたが、そこで最も感じたことは、これまで私が参加してきたリハに関する学会・研究会とは大きく異なるものだったことです。それは、一つの同じ「目的」に向かっての情熱だったような気がします。私が属するリハ医学の分野だけでの知識・議論の限界を気づかされるものでした。
これは、その後私自身が、当事者も含めたチームワークのあり方である「目標指向的アプローチ」や、自己決定権尊重の具体化について考えていくことに大きく影響していると思います。広くみれるようになっただけでなく、医学リハ自体を深く考えることができるようになったといえます。
最近は、「リハビリテーション」の言葉自体は広く知られるようになってきました。リハの個々の分野についてみると、学会・研究会・勉強会は急速に増加しています。そして「リハの重視」、「チームワーク重視」、「全人間的にみることが大事」とは言われていますが、そこに情熱を感じる機会は少なくなったと感じます。
また、リハをめぐる状況(背景)も大きく変化しています。「総合リハビリテーション」のあり方、進め方について、再考すべき時期になったと考えられます。
要するに、生活機能の低下のある人々(障害者、高齢者や慢性疾患患者など)や、その人々に関与する専門職が増え、また当事者(患者・障害者・利用者、そしてその家族)の積極的な参加が必要になり、真の連携のシステム・プログラムが必要となってきたのです。
このような背景の中で、原点に戻って新たな総合リハ研究大会を、力を合わせてつくっていくのが大きな課題ですが、ここで総合リハ研究大会について、ご存じのない方にも、またこれまで参加なさった方にも考えていただくために、「よくある質問」に答えるQ&Aの形で紹介させていただきます。
1 当事者と専門家でつくる
Q どのような人が参加するのですか?障害者自身も参加してよいのですか?
A どなたでも歓迎です。
リハは当事者の方たちがより良く人生を生きられるよう、楽しめるように、専門家と当事者が工夫しあっていくものです。
ですから、むしろ当事者の方々の積極的な参加があってこそ、この会の本来の目的が達成できるのです。ぜひ参加して、発言してください。
Q 専門家の話は、当事者や同じ専門の人以外にはわかりにくいのではないでしょうか?
A この会は、当事者と専門家が一緒に議論しあうことが前提です。ですから、専門家が自分の分野について話す時にも、当事者や他の専門分野の方にもわかりやすいように話をすることが原則で、皆そのようにしています。
そもそも専門家が、当事者や他分野の方たちにわかるように話をするのは当然のことです。自己決定権尊重のためにも、また専門家のチームワークを実践するためにも必要です。
もしわかりにくいことがあれば、ご指摘ください。それは専門家にとってもよいことです。
Q リハを受けたことがない人でも参加できますか?
A もちろんです。この会のリハとは、本当の「リハビリテーション」(全人間的復権)を達成するにはどうしたらよいのかを議論する場です。このことに関心のある方はどなたでも歓迎です。
従来のリハ・サービスに直接、接していないからこその、ご意見もあるでしょう。
Q 私は障害者に関係していない分野のボランティア活動をしています。参加することで、今後に何か役に立つことがあるでしょうか?
A 障害のある人に関与しているのは、専門家や当事者の方だけではなく、実はとても広く、一般の人たち、すべての市民、国民です。ですから、一般の人々にも参加をしていただき、リハとはどういうものかを知って、一緒に考えていただきたいと思います。
また障害の捉え方、リハの考え方は広く高齢者や何らかの病気のある人、その他いろいろなことで困っている人々への働きかけを考える時、接する時に大きく役立つと思います。障害者権利条約でいう「合理的配慮」ということを考える時にも大事になるでしょう。
2 さまざまな分野の専門家の方へ
Q 専門家にとってはいろいろな学会や研究会がありますが、この会の特徴は?
A 研究会や学会には、それぞれの目的がありますが、主にその専門領域を深めることが主となるでしょう。
本研究大会は、さまざまな分野の専門家と当事者が参加して、広い範囲の知識や情報が得られるだけでなく、「リハビリテーション」(全人間的復権)という一つの目的に向かって議論していくことが特色です。
さまざまな専門領域の人が一緒に知恵を出し合っていきます。視野が広がり、総合的な考え方を学ぶことができます。
Q 最近は専門家の学会でも当事者の意見を聞くことが増えてきましたが、この会での特徴は?
A 当事者が、専門家に希望を伝えればよいというものではありません。この会では、一緒に解決に向けて考えていきます。
その際、今までその問題・課題の専門だと思われた分野だけでなく、総合リハとして多方面からどう働きかけ、どう解決するかを考えていくのです。
たとえば、社会的な問題(ICF:国際生活機能分野の「活動」)は福祉分野の人だけが考えればよいのではなく、それを解決するために役立つ生活行為(ICF:「活動」)について、医学的リハはどう働きかけるべきかを考えることも必要です。
また、一般の医療の積極的な関与が必要になってくることもあります。介護や行政、その他の分野の専門家や一般の人々の啓発の必要性も明らかとなってくるでしょう。制度的なものは行政が考えればよいというのではなく、行政がよい方向にいくためには個別的な現場の実践の反映が必要です(政策と実践との関係は、インタビュー・藤井克徳氏論文をご参照ください)。
Q 介護職にも役立つものでしょうか?
A リハの対象を狭くとらないでください。むしろ、新しいリハを一緒に考えようと思って参加していただければと思います。これまで、医学や教育や職業や社会(福祉)の分野だけが総合リハに関係していると思われがちでした。ですが、実はもっと多くの方たちがリハに関係しているのです。
介護については、実はリハの専門家や当事者の方々にも根本的な誤解があるようです。それは「介護は不自由なことを手伝うもの」ということで、「生活機能を向上させる」という介護の専門性への理解が不十分なことです。これは、今後の総合リハの発展のためにもとても残念なことです。参加して、この重要性についても議論していただければと思います。
Q 福祉や行政分野の専門家は、リハには直接関係はないと思うのですが。
A リハというと、医療の中でのリハ、それも「リハビリテーション、イコール、機能訓練」のような誤解が強いようです。これはむしろ、そのような内容しかなされていない現状が反映しているのではないかと、専門家も反省すべきことです。
これからの総合リハでは、福祉や行政は大きな分野です。リハのあり方を福祉・行政の立場から考える良い機会でしょう。
また、個別的実践の場では福祉・行政の方は、狭い意味のリハの専門家と一緒にチームを組むことも多いといえます。
障害(生活機能低下)のある人に接している人、そのことを考えたい方は、専門領域を問わず、一緒に考え、議論しましょう。
3 学生さんなど若い人たちへ
Q 学生なのですが、勉強になるでしょうか。
A 日頃の自分の専門分野についての勉強だけでなく、専門以外の領域の人たちの話を聞けること、また当事者の話を聞けること、何よりそれを別々ではなく、同じテーブルで議論しあうことに参加できることは、視野を大きく広げてくれ、自分自身の専門性を考える際に非常に有益です。その中で、自分の専門領域はどのような役割、どのような位置づけなのだろうかと考える良い機会でしょう。
障害に関係する分野の学校に進学した方たちの「初心」は、「障害のある人たちに役立ちたい」という思いが強かったのではないでしょうか。
「障害のある人のため」や「困っている人たちのため」に「役立つ」ということがどういうことなのかを、もう一度考え直す良い機会になると思います。また、すでに多くの経験を積んだ方たちにも、原点に戻って考えるいい機会になることでしょう。
そのような若い人たちの参加を歓迎します。若い人たちに望むことやヒントなども、それぞれのシンポジウムや分科会の中でも取り上げる予定です。また参加費も学生割引があります。
4 新しい総合リハをつくる
Q 1回だけの研究会をしても、それがその後に生かされるでしょうか。
A 今回、総合リハ研究大会のあり方自体から考え直していくことになりました。
その中で、年1回だけのイベント的なもので終わるのではなく、そこで出てきた課題・問題について深めていくために、シンポジウムや講演会・勉強会などの機会をつくっていくことにしています。
まずは3年間は連続性をもって運営し、「総合リハビリテーション」のあり方、またその中の課題や分野について検討していく予定です。この進め方についても、皆さん方もアイデアをどんどんお寄せください。
Q これまで「リハビリテーション」だと思い込んでいたことよりも広い範囲のようですね。
A これまでのリハについての固定観念を一度取り払って、新しいリハをつくろうということです。
これは、それぞれの既存の分野を否定するものではありません。むしろ本当の意味の当事者中心、全人間的にみる、という方向性の中で、リハをどのように考えるのかという、再スタート・再構築といえるでしょう。
Q 最近、障害者をめぐる制度が変わっているようです。そのような情報も得られるのでしょうか。
A はい。できる限り最新の動向を聞ける企画もあります。特に、その制度のもとになっている考え方は、総合リハとの関係で考えていくことが大事です。
Q 手話通訳や会場内の移動など、障害のある人に適した対応はありますか。
A 以前から手話通訳、要約筆記、移動面の配慮は本研究大会では重視してきました。当事者と専門家が一緒に活発に議論できるために、さらにどのような工夫が必要なのかも考えていきたいと思います。ご意見をお寄せください。
歓迎:総合リハビリテーション研究大会についてのご意見
総合リハ研究大会へのご参加をお待ちします。またご意見をお待ちします。さまざまな分野の「よせあつめ」ではなく、一つの目標に向かって議論し、知恵をしぼっていければと思います。みんなで新しい総合リハをつくっていきましょう。
(おおかわやよい 国立長寿医療センター研究所、第33回大会実行委員長)