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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年1月号

ほんの森

鬼が笑う 月が泣く
……「うたの森」に谺する詩・短歌・俳句……

花田春兆編著

評者 坂口亮

角川学芸出版
〒113―0033
文京区本郷5―24―5
定価(本体2,000円+税)
TEL 03―3817―8535
FAX 03―3817―8921

面白い本が世に出た。花田春兆編著『鬼が笑う 月が泣く』という。書名も変わっているが、それはひとまずおき、内容は本誌1995年10月号から2009年9月号までに掲載された「うたの森」を一冊にまとめたものである。ここには、障害をもつ方々が作った詩、短歌、俳句が掲げられ、それに花田春兆さんの寸評ないしコメントが添えられている。作者の略歴もついていて、それらがすべて一頁に収められているのが読者にとって魅力的である。

すなわち読者は、新着誌を手にすると、固い記事は後回しで、まず「うたの森」に目をやる。作品はそれぞれレベルの高いもので、それに春兆さんのコメントが加わるとまた輝きを増す。時には、特に俳句では解釈の違いで首をひねることもあるが、それがまたいい。

高齢の春兆さんの健康も心配、その他諸事情が重なり、2009年9月号を最後に「うたの森」は一休みとなったが、それを区切りとしてこれまでの作品がみごとにまとめられた。よかったと思う。

この書の名前『鬼が笑う 月が泣く……「うたの森」に谺する詩・短歌・俳句……』のことに戻るが、花田さんご自身この題名にこだわり、そのいわれを綿々記しておられる。簡単にいうと誤るかもしれないが、鬼は哭(な)くもの、月は静かに笑うものといった紋切り型はやめてくれ、一見暗い境遇にも笑う場面あり、逆に恵まれた環境にみえても涙が隠されている、真実を見ようよ、と叫んでおられる姿が見えてくる。

花田さんと私との出会いは、ある会議のときであった。賛否の最終意見を委員が順番で言う場面、私は否を言いたかったが、少数意見であり、雰囲気に臆して力なくイエスの意志表示をした。ところが花田さんは、自分の番になると全力投球熱弁した。聞き取りにくいとはいっても、何と私の言いたかったことそのままだ。

結果として、その論は通らなかったが、そんなことより私は恥ずかしかった。ふだん饒舌の私が出るところへ出ると何も言えない。一方、言語障害で辛いはずの花田さんが健常者(?)の代弁をしてくれる。何たること!恥を告白し低頭した私に対し、花田さんは呵々大笑「月給を貰(もら)っていると言えなくなる」と。

脱線が過ぎた。本書紹介の結論。この本を読むと、どういう人がどんな詩や短歌・俳句を作るかが分かる。自分自身と案外近かったり、遠かったり……。詩作、句作のコツもちょっと分かるみたい。私も作ってみるか、春兆先生褒めてくれるかな?

(さかぐちりょう 社会福祉法人日本肢体不自由児協会会長)