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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年3月号

制度改革にふさわしい予算の根本的な組み替えを

臼井久実子

厚生労働省障害保健福祉部の資料は大項目で8項に編集されている。そのうち第2項「障害福祉サービス等による障害者支援の推進」は括りが大きいため、その中に11項ある中項目を取り出した。そして1%未満の費目を「その他」にまとめた。

図 平成22年度障害保健福祉関係予算案拡大図・テキスト

政権交代後「自立支援法」廃止の方針を受けて、低所得者の福祉サービス等を無料とする「利用者負担の軽減」が新規に盛り込まれたことは評価できる。しかし、ガイドヘルプ・手話通訳・文字通訳(要約筆記)・指点字通訳などを提供する「地域生活支援事業」440億円は、前年度からの増額ゼロ、予算案の4%程度。実際に、予算の制約も背景となって、従来から市町村のガイドヘルプ事業は通学や通勤には使えないものとされ、手話通訳者などを派遣する制度も、利用場面が非常に限定されている。通学や修学のうえで必要なサポートがないために高校や大学で学ぶことを断念した人もいる。官公庁でも民間でも、ガイドヘルプなどのサポートがあれば通勤・勤務できるという人は、ほとんど採用されていない。

「地域生活支援事業」に象徴される政策の貧しさが、障害がある人の社会参加を強く圧迫し制約していることは、社会の大きな損失でもあり、以前から問題となってきた。

日本の障害者関連予算は、対GDP比でOECD諸国の下位に位置し、国際的にも低い水準にある。そのもとで外出もままならない生活を強いられている人が多くいる。障害のある人が社会でそれぞれのもつ力を発揮して生きていくには、住宅・情報・介助や援助・学ぶ・働く・憩う・などを分断しないシームレスなサービスが必要で、それによって人生と社会に開ける可能性は極めて大きい。

また、音声と文字の相互変換など、汎用水準に達した機器や技術がありながら、「障害者用」と扱われているために市場が小さく、開発・普及が停滞するという悪循環が続いている。「特殊用途」としてではなく情報通信インフラとして整備するならば、広範な人に役立ち、経済の活性化にもなる。

従って、学ぶ・働くなどの社会生活活動を可能にする内容で「地域生活支援」の領域に予算を重点配分することが、障害のない従事者を含む幅広い雇用の創出、社会インフラの活性化、多様な人が力を出し合える豊かな社会につながることは間違いない。

もうひとつ、この予算から顕著なのは、隔離を前提とする医療観察に235億円計上する一方で、「精神障害者の地域移行・地域生活の支援」にはわずか17億円という扱いだ。これでは「地域移行」という言葉は虚しく説得力をもたない。

精神病者・障害者が切実に必要としているのは、旧来の分離を前提とした「保護」政策ではなくて、地域社会のなかで適切に受療できサポートを得られる状態、安定したコンディションと生活基盤をもつこと、差別偏見の中での孤立ではなく対等に社会参加できる環境である。そのニーズに沿った予算が組まれなければならない。

「働く」ことへの予算配分の小さいことも目立つ。厚労省で別立ての「障害者に対する就労支援の推進」は230億円、福祉予算にあてはめると4%程度だ。文科省予算案では「特別支援教育」が79.73億円、そして、特別支援学級などで学ぶ障害者につく「特別支援教育支援員」に従来から割り当てられている予算は、支援員一人あたりの年額で120万円という低い額である。教職員人件費などを支出する「義務教育費国庫負担金」は、これらとは別に計上されている。

予算からも「福祉」における障害者の社会生活活動イメージの貧しさがうかがえる。当事者主体・ノーマライゼーション・社会参加からは今なお遠い、在宅や施設・病院での処遇が基本になっている。そこを転換し、省庁ごとの縦割りと障害種別ごとの対策を見直し、予算を根本的に組み替えて国際的にも恥ずかしくないレベルへと上げることが求められている。

「教育」「雇用」「所得」「住宅」「情報」「介助・援助等」「医療」といった大きな区分で、人の生活と人生のニーズとその充足を全体として見渡せるような、透明性のある財政と予算の情報を共有することが必要だ。そこに現状の姿と課題が投影され、望む姿も描きやすくなる。さまざまな立場から全面的な評価検討ができるよう基礎データを揃えて、基本からの転換を進めることが、今すぐに必要な作業ではないだろうか。

(うすいくみこ 障害者欠格条項をなくす会事務局長)